表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/38

旅立ち

場所 季節の国

人物 ネアラ —— 季節の国の王女 姫

   フーム —— 姫の世話役 大臣

   黒い妖精 —— 黒い蝶の羽が生えた妖精

   侍女 —— 姫の世話係

  季節の国 姫の部屋


  (ひめ)(あら)いたての長い(かみ)侍女(じじょ)豪華(ごうか)宝石飾(ほうせきかざ)りのついた(きん)(くし)でとかしている。

  それを見ている大臣(だいじん)

  窓辺で冬の日差しを受けて光輝(ひかりかがや)く髪。


 髪は絹糸(きぬいと)、 毛先(けさき)三日月(みかづき)、 (あさ)金星(きんせい)がすべり()りていきますわよ、 姫さま。 わたし、 姫さまのお髪が(うらや)ましいですよ、 ほほほほ。


 あら、 金星はどこへすべり()りて行くの?


 ()りて行くことになっている場所(ばしょ)へ、 でございましょう、 姫さま。 ほほほほ。


 ふむ! 姫さまと姫さまの髪はまさにこの国の(たから)! 国宝(こくほう)! 絵画(かいが)では(あらわ)せぬその(いろ)! その(つや)! (ひか)りの噴水(ふんすい)! 王家(おうけ)(くし)(かがや)宝石(ほうせき)たちさえそのまばゆさには(かな)いません!


 うふふ。 (さむ)い冬はずっと()ばしているのが()いわね、 でも早く春になればいいのに……。 


…………。



  ——姫さまが(くろ)妖精(ようせい)にお(ねが)いして季節(きせつ)()えてもらった春の日から丸一年(まるいちねん)。 突然(とつぜん)の冬がずっと続いている。 


 ——ねえ、 妖精さん、 やっぱり春に(もど)して?


 もうそれはぼくのちからではむりです。


 ええ?!


 きせつがすっかりくるってしまいました、 ぼくのちからがみじゅくだったんです。


 おい! 黒い妖精よ! ではもうずっと、 ずううううと冬のままなのか? この季節の国は!


 いえ、 いまはふゆでもはるでもなつでもあきでもなんでもないきせつになってしまいました。


 あら、 なんでもない季節?


 このくににはもうきせつがありません。 ですがきほんてきには、 ふゆ、 です。


 ふむ! あれからもうすぐ丸一年(まるいちねん)だ! 黒い妖精、 お前の言う(とお)基本的(きほんてき)には冬! しかし(いま)ではもうさっぱり季節がわからなくなってしまった……ああ、 我々(われわれ)の、 あのいたずらな(ねが)いのせい、 いやすべては証拠(しょうこ)を見せろなどと言ったあっしのせいで……。


 あら、 わたしのせいだわ。 ずっと同じ季節でいいなんて、 お願いしてしまったんだもの。


 はい、 あなたさまのねがったとおりです。


 おい! まっくろ妖精(ようせい)! そもそもお前があの日、 あの姫さまの、 あの春の窓辺(まどべ)から()()んで()さえしなければ、 姫さまの花、 王家(おうけ)の花も(うしな)われず、 この国の季節を失うこともなかったのだ!


 ねえ、 それは妖精さんのせいじゃないわ。


 ふむ! し! しかし姫さま! 今では国はすっかりこごえてしまった! この(しろ)の中はまだあたたかい、 だが(ゆき)におおわれ国はまっ(しろ)! お(さき)まっ(くら)! 日差(ひざ)しが(とど)かず(くさ)(そだ)たず! このまま食糧(しょくりょう)()きれば人々(ひとびと)大混乱(だいこんらん)! そうなったら千年(せんねん)続いたこの国ももうお(しま)いですぞ!


 ええ、 春が冬になってしまったんだものね。


 ふむ! 夏と秋の収穫(しゅうかく)(うしな)い、 収入(しゅうにゅう)もない! 


 あら、 収入?


 ふむ……つまりこの城の金貨(きんか)も、 もはやありません。 姫さまもこのお(しろ)でこれまでのような、 夢見心地(ゆめみごこち)でのんびりとした贅沢(ぜいたく)()らし、 はできませんぞ。


 あら、 わたし、 夢見心地(ゆめみごこち)でのんびりとした贅沢(ぜいたく)()らし、 だったのね? そうなのね!


 ふむ、 ここは他国(たこく)にくらべて(ゆた)かな国でした。 や、 姫さまご自身(じしん)贅沢(ぜいたく)はされていなかったが、 それでも城を、 国を(たも)つためには金貨(きんか)必要(ひつよう)です! それにこのまま作物(さくもつ)収穫(しゅうかく)がなければ、 国の(たみ)はどうやって暮らして()けましょう? 


 あら、 このままでいたりしないわ、 わたし。 また、 (はる)がくれば()いのよね?


 ふむ、 しかし、 その春が()んのです……!


 ね、 妖精(ようせい)さん? 季節(きせつ)元通(もとどお)りにするほうほうは?


 はる なつ あき ふゆ それぞれのくににいって、 せいれいおうにあってください。


 ふむ、 精霊王(せいれいおう)? 精霊(せいれい)の国の(おう)たちか! 


 はい、 きせつがそこにあります。


 あら、 その精霊王(せいれいおう)たちに、 話をしてわたしたちの国へ、 季節を戻してもらうのね?


 ふむ! では姫さま、 早速(さっそく)、 使(つか)いの(もの)手配(てはい)し、 それぞれの国へ()かわせましょう!


 せいれいおうとのこうしょうは、 くにのだいひょうしゃしかできません、 つまりひめさま、 あなただけ、 です。


 ふむ? な、 なんだと!


 あら、 いいわ、 わたし、 ()くわ。


 姫さま! 姫さまに? (たび)無理(むり)ですぞ! この城からほとんど()たこともないのに、 どうしてそのような旅ができましょう? ええ! あっしをどうか国の使いとして代表(だいひょう)にしていただければ………おい! (くろ)妖精(ようせい)よ! 姫さまでなくても精霊王(せいれいおう)との会話(かいわ)はできるのであろう?


 できます。 でもひめさまもひつようです。


 あら、 だいじょうぶよ、 わたし、 (たび)()るわ! 


 ふむ、 いや、 しかし……この季節の国をどうします? 国を(ほう)って旅には出られませんぞ! ですから旅は、 あっしにお(まか)せを……!


 ええ、 もちろんよ! でもこのままここにもいられないでしょう? そうね、 じゃあこの城の金貨(きんか)宝石(ほうせき)は、 ぜんぶ、 食糧(しょくりょう)()えましょう。 それで国の人々(ひとびと)のために、 ()べものと必要(ひつよう)なものを()(あた)えましょう!


 ひ、 姫さま! なな、 なんですと! ししし、 城の(もの)を、 ()(はら)うおつもりか! 


 あら、 仕方(しかた)ないわ? (もの)()べられないもの。 夢見心地(ゆめみごこち)でのんびりで贅沢(ぜいたく)()らしはもう、 おしまいよ!


 ふむ、 や! 贅沢どころか大貧乏(だいびんぼう)ですな! 天上(てんじょう)天使(てんし)(てん)のベッドで虹色(にじいろ)(ゆめ)()、 (あさ)にはルビーを(あじ)わっていたその翌日(よくじつ)から、 まさか! 城の(ゆか)そうじにも使わなかったおんぼろのボロ(ぬの)をまとい、 ネズミやモグラたちと(おな)じ、 どぶ(いろ)の夢を見て、 (つち)のベッドに(ねむ)り、朝には()ちたりんごをがしがしとむさぼることになるとは……!


 あら、 だってわたし、 りんごの()わりにルビーをかじりたくないわ? いくらおなかがぺこぺこでもね。 それにわたし、 天使(てんし)なんかじゃないわ。 にんげんよ!


 ふむ! ですから! ルビーでりんごを()ったらよろしいではないですか?


 ええ、 それが(いま)でしょう? 


 ふむ! りんごなんぞ(あま)(がわ)ほど買えますな!


 うふふ、 わたしのりんごは一個(いっこ)でじゅうぶんよ、 あとは(みんな)(あた)えなさい! さあ、 わたしたちは(たび)支度(したく)(はじ)めましょう? そして(よる)()けたら、 出発(しゅっぱつ)よ!


 ふむ! しかし、 りんご一個(いっこ)、 などとは!


 ええ、 いいの、 わたしちょっと前歯(まえば)(よわ)いのよ。 うふふ。 さあ、 ()くわ! 用意(ようい)をしてちょうだい!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ