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和解

あれから数分が経過した。彼女は慌ててお風呂場から出てくる。

スクール水着は濡れたまま、ポタポタと水が垂れ落ちている。


「……怒ってない?」


彼女は少しばかり反省したのか眉をひそめる。

今にも消えてしまいそうなほど小さな声を震わせて彼女は呟いた。


「……。」


俺は何も答えない。もう少し様子を見てみよう。

今まで調子に乗っていた分しっかりと反省をしてもらわないとな。


そんな空気に耐えきれなかったのか。彼女は恐る恐る口を開いた。

そして、彼女は俺の様子を窺うようにジッと背中を見つめる。


「……は、離れないよね?」


彼女は俺のシャツを引っ張った。

俺はゆっくりと振り返った。彼女と視線があう。

潤んだ瞳から涙がぽろぽろと垂れ一筋の痕を残す。


このメスガキ、予想以上に打たれ弱いのかもしれない。

俺はしっかりと教育をしようと思っていたがメスガキの涙を見て怯む。


思えば最初の出会いからメスガキは赤ちゃんに拘っていた。

単にこのメスガキの性癖だからだと思っていたがそれだけではなさそうだ。


俺を召喚した理由は家族が欲しかったからか。

確かにこの空間、メスガキが作ったとはいえ家族がいる気配がまったくない。


最初に赤ちゃんになると決めた時にはパパや兄になることが難しそうだと諦めていた。

だけど、難しくてもなってあげる方がいいかもしれない。このメスガキのことを考えるなら。


俺とメスガキの関係は雇用主とその従業員の関係性だ。

果たして深くかかわってもいいものだろうか。仕事とプライベートは分けるべきではないのか。

俺の固定概念がメスガキと関わろうとするのを邪魔する。


逆に考えろ、俺。

俺とメスガキは雇用関係ではあるが家族でもあるのだ。

だってこのメスガキは俺のママなのだから。家族なら支え合わないとな。


本当の両親は、俺が大人になる前に居なくなってしまったが……。

俺を赤ちゃんとして雇うと言ってくれたメスガキママに親孝行をしよう。

仕事をクビになった俺を甘やかしてくれているのは紛れもない事実なのだから。


俺は決意を新たにした。

宣誓、仲本育史はメスガキママことリーベ・ナイトに対して親孝行することを胸の中で誓います。


「ね、ねぇ……。」

痺れを切らした彼女が小さな声を出す。

まるで子供が親の機嫌を窺うかのように下からそっと顔を覗き込む。

目線があうと小動物のようにビクッと体を震わせて慌てて目線を反らした。


「……、……ママ。」

俺はどうするべきかと考えるも答えは出なかった。だけど口が勝手に動いた。

彼女は俺の言葉を聞いて丸い目を見開いた。まるで耳のように結んだツインテールをぴょこぴょこと揺らして俺にぎゅーっと抱き着いた。


メスガキを喜ばせる魔法の言葉、それはママだ。

思えば俺は赤ちゃんだ、赤ちゃんだと言い張るもののメスガキのことをママと呼んだことはなかった。

少しばかり気恥ずかしいのは仕方ない。


「もう育史ってば……。そうやってママのこと喜ばしてくれるなんて嬉しいことしてくれまちゅねー。」

まるで子犬が尻尾を振るように彼女は俺の胸に飛び込んだ。


これじゃどっちが親なのかわからないな。

いや、客観的に見たらこれが正しい姿なのかもしれないな。


「少しは元気になったか。」

俺はそっとメスガキの頭をぐしゃりと撫でた。


「ひゃっ、急に撫でてきてどうしたの。育史ってば……。赤ちゃんのくせに生意気だよ。」

彼女は小さく悲鳴をあげた。目をパチクリと見開く。

手で頭を抑えてわずかに一歩退いた。彼女は俺を見上げて頬を膨らませる。


「……ママが落ち込んでいたら慰めるのは子供の役目だろ。」

俺は目を細めて優しく微笑んだ。彼女は不服そうに俺を睨みつける。


「……その気持ちは嬉しいけど、育史ってばリーベのことを子供扱いしてない?」

「してない、してない。」

「ならいいけど、リーベの方がママなんだからね!」


彼女は人差し指をビシッと突き立てて俺の頬を突き刺した。


メスガキが元気を出してくれてよかった。

俺はメスガキの姿を見て安堵をするのだった。

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また今月中には完結する予定です。土日に仕上げる予定ですので応援お願いします。

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