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俺がメスガキママの赤ちゃんになるまで。

◆はじめまして、初投稿です。

拙い文章でありますが温かい目で見守っていただけますと幸いです。

仕事をクビになった。

会社の業績が悪化したことによる人員整理、いわゆるリストラにあったのだ。

元々仕事ができる人間ではなかった。任された仕事は満足に出来ず、出来上がった成果物は誤記が多発。


営業先に出向けば大事な資料は無くし、細かい気配りは苦手。

おまけにブクブクと太っていて清潔感はあまりなく、自己管理能力がないことは明白。

今までよくクビにならなかったものだ。


俺は公園のベンチに座り込み、大きくため息を吐いた。


「はぁ……。これから先どうしよう。」


真っ暗で先が見えない。俺は思わず頭を抱え込んだ。


「みぃーつけたぁ!」


どこからともなくかわいらしい声が聞こえた。

ふと、顔を上げて辺りを見渡すも誰も居ない。


「だ、誰だ!そ、それに見つけたっていったいなんだよ。」

必死に叫び声をあげるも、その声が響くことはなかった。

唐突にベンチが光り輝いた。そして光に包み込まれてしまい目を覚ますと見知らぬ場所にいた。


真っ白な空間。

地平線の向こうまで何もない不思議な空間である。


「くすくす。ようこそ、ざっこぉ~いおじさん。」

声がする方に視線を移すと白いワンピースを着たロリ美少女が立っていた。

ツンとした鋭くて透き通った瞳、にっこりと笑うときにちらりと見える八重歯。

さらっとした長くて綺麗なピンク色の後ろ髪とは別に、動物の耳のようについた二つ結びをぴょこぴょこと飛び跳ねさせた。


「な、なんだい。ここはいったいどこなんだ!?」

「んー、ここはね。おじさんから見たら異世界かなぁ……。」

「い、異世界ぃ!?つ、つまりあれかい?よくある異世界転生をしてしまったってことかい?」


突拍子もないことを言われてしまい、思わず声をあげた。

彼女はその言葉を聞いてにっこりと微笑んだ。


「そうだよー。おじさんがあまりにも惨めだったから召喚しちゃったの。」

「み、惨めだと。」


悔しいけど反論の余地がない。

眉間に皺を寄せて険しい顔をしている俺をよそに彼女は言葉を続けた。


「だって、そうでしょー。仕事クビになって、行く場所もなくなっちゃったんでしょ?」

「そ、それはそうだが。」

「ふふ、ならリーベが面倒見てあげよっか?」

「は!?」


何を言ってるんだ、このメスガキは。

大人をからかうんじゃない!!


彼女はその様子が面白いらしく、目を丸くした。

そして一歩ずつゆっくりと歩き出し、俺の目の前にしゃがみ込んだ。


「で、どうするの。 お じ さ ん 」

彼女は俺の頬をツンツンとつついた。


「もし、面倒を見てほしいならちゃーんとお願いしないとね。面倒を見てくださいってね。」


このメスガキめ。異世界転生ということはお決まりのチート能力がそのうち手に入るはずだ。

今に見てろ。チート能力さえもらえれば、こんな生意気なガキの相手なんてしなくて済む。


俺は額を地べたに擦りつけた。

ここで頭を下げるのは安くない。神様かもしれないし、売れる媚は売ろう。


「あぁ、お願いします。面倒を見てください。それでチート能力とかはいつ手に入るんだい?」

「え、そんなのないけど」

「なん……だと……。だ、だって君は女神なんだろ。俺を異世界に召喚したってことはチートスキルを与えたり、あるだろ。そういうのが!!」


俺は必死だった。異世界転生と言えばチート能力が付き物だ。

それがないと俺はこの先どうなる。元の世界で生きていくのと変わらないじゃないか。

むしろ異世界の常識を知らない分ハードルあがってる!?

そんな俺の気持ちを知ることなく、彼女は口を手元で抑えて元気に笑った。


「ぷぷっ、残念でしたぁ~!リーベは女神ではありませぇーん。」

「だ、だってお前が召喚したんだろ。それにこの空間、何もないし神様じゃないならなんなんだよ。」


「焦りすぎ。リーベはただの魔法使いだからね、ちょっと空間魔法が得意なだけのね。」

彼女はそっと俺の唇に人差し指を押し当てた。


「だから、おじさんを呼び寄せたのも召喚術を使っただけだし。この空間もリーベの魔法だよ。」

「……つまりどういうことだい?チート能力もらえないならさっさと帰りたいんだが。」


俺はフンと鼻を鳴らし、そっぽをむいた。

チート能力がもらえないならさっさと元の世界に戻るしかない。

いくら美少女がいるとは言え、何も知らない場所で新しく過ごすなんて今更無理だ。


「えー。面倒を見てくださいって言ったのはおじさんじゃん。仕事もクビになって守るべき家族も居ない、醜く太っちゃって自己管理も出来てないざっこざこのおじさんにチャンスをあげようって言うんだよ。帰りたいなんてそんな選択肢あるわけないじゃん!」

彼女は俺の"帰りたい"という言葉を聞いて頬をぷくっと膨らませた。

そして鋭い目つきでじーっと俺を睨みつけた。


「は?ふ、ふざけるなよ。いいから帰らせろよ。今更新しい世界でなんか生きていけるか!」

「あはははは、ホントおじさんってばネガティブでざっこい思考してるね。それでこそリーベがお世話し甲斐があるよね」

「な、なんだね。急に。大人をからかうのもいい加減にしろ!」


俺はじっと睨み返し、立ち上がろうとした。

だが体に力が入らず立ち上がることはできなかった。


何が起きているかも理解できないままアタフタしていると彼女はぎゅーっと優しく抱きしめた。

「大丈夫だよ。何も知らない場所に連れてこられておじさんは不安だっただけなんだよね。」


耳元で優しく囁く。それが心地よくて、思わず心を許してしまいそうになる。

「お、おい。離れないか。だいたいお互いの名前すら知らないのに抱き着くなんて」


とてもいい匂いがする。甘い甘い紅茶の匂いだ。

早く離れなければいけない。このままだと飲み込まれる。


「リーベ・ナイト。は~い、これでおじさんは名前を知ったから抱き着いてもいいね。ほらほら、おじさんもお名前上手に言えるかなぁ。」

「なっ、舐めるな。名前くらい言える。俺の名は仲本育史だ!」

「はぁ~い、よく言えまちたねぇー。偉い偉い、そんなおじさんにはご褒美として頭をなでなでしてあげまちゅねー♪」


彼女は俺を抱きしめたまま、ゆっくりと手のひらを上下に揺らした。

「よち よち よち。なで なで なで。よち よち よち。」


小さな体のくせに、まるで母に甘えているかのような安心感がある。

思えば小さな頃に母親を亡くしてから自分以外の誰かに甘やかされたのは初めてかもしれない。

もっともっと甘えていたい。だけど、一回り以上も離れたメスガキに甘えるなんて……。


俺は目をゆっくりと見開いた。癖になってしまう。

このままでは唯一勝っている年齢というアドバンテージすら無くなる。

俺は覚悟を決めてメスガキを突き飛ばすことにした。


この間、撫でられ続けて約五分。

彼女の肩に手を置いた、そして力いっぱい押す。


「大人を舐めるな、リーベ!!」

俺は毅然とした態度を示そうと大声をだした。


「どうしたんでちゅか~、おじさん。今さら抵抗してももう遅いっていうくらい充分堪能してたくせにぃ~」

「そ、そんなことない!たった五分くらいだろう。五分なんてあっという間だからね。セーフだ、セーフ。」

「……ぷぷっ、強がっちゃってほーんとおじさんってばざっこいよねぇ。そんなきもーい言い訳とかもしちゃってさぁ。」


彼女は嘲笑うかのように口元をわずかに釣り上げた。

こいつ、俺の反論を聞いてないな。俺は眉間に皺を寄せた。

彼女はその様子に気付いたのか、さらに顔を近づける。


「ごめんねー、あまりにもざっこいからバカにしちゃって。だけどママがそんな扱いしたらおじさん……いや、育史が甘えられないもんね。ママが悪かったから機嫌直してね。」


彼女は眉をひそめて、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「……。」

俺はそっぽをむいた。ここで許してしまえば、また調子に乗られてしまう。

鼻を折るには無視するのが一番だ。


彼女はそんな俺の態度に気付いたのか、俺の頭にそっと手を置いた。

そして力いっぱい引き寄せた。


ぽふっ。ほんのりと柔らかい感触が頬を伝う。

彼女は俺に膨らみかけの風船のような小山を押し付ける。


「ほらほらぁ、おっぱいでちゅよー。」

耳元でふぅーっと生温かい息が吹きかけられる。


「……くっ。」

ぞくぞくと背筋に快楽が走る。あまりの気持ちよさに思わず声を漏らしてしまう。


「あーあ、おじさんってば無理しちゃって……。」

我慢しようとする俺に対して彼女の猛攻は止まらない。


「我慢は身体によくないでちゅからねぇ。赤ちゃんなんだから無理しなくていいのに」

彼女はさらに俺の後頭部を押す。

そしてそのまま後頭部を撫でおろした、ゆっくりと。


あぁ、なんて心地いいんだろうか。

彼女が揺れるたびに柔らかさを感じ、薔薇の香りが広がる。


その匂いを嗅ごうとして鼻がひくひくと動き大きく息を吸い込んだ。

とてもいい匂いだ。


甘く華やかな香りが俺の鼻腔を支配した。


わずかに俺は息を吐く。

「……んふぅ。や、やめろ。」

「えー、どうしよっかなぁー。」

彼女は俺の背中に手を伸ばして人差し指で背筋をスーッとなぞる。


「おほぉ……っ。」

このままでは大人の威厳を保てずに敗北してしまう。


「ぜ、絶対に甘えたりするものか!」

俺は再度決意を固めるため声に出した。


「俺にだってプライドはある。いくら仕事をクビになって帰る場所がなくなったとはいえ……自分より一回り以上小さなメスガキに甘えるなんて……。」

俺に残された唯一のプライド。破壊されてなるものか。


「バカにするなよ。いくらダメでもそこまで落ちぶれてない!」

俺は力いっぱい彼女を振り払い、立ち上がった。彼女を見下ろすように睨みつける。

プツンと糸が切れる音がした。腹のそこからぐつぐつと煮えくり返る想いがあふれだす。

胸が苦しい。喉が焼けるように熱い。こんな想い、吐き出してはいけない。抑え込まないと。

だが、俺の意識とは反面に想いが吐き出される。


「どれだけバカにされようが、俺は俺なりに一生懸命生きてきたんだ!

好き好んでミスをしてきたわけじゃないし、出来ないモノは出来ないんだよ!

それなのにいきなりこんな場所に召喚してきて面倒見てくれるだ?女神でもないのに?ふざけるなよ。メスガキが。お前のアソビに付き合うほど暇じゃないんだよ。だから、お願いだ、俺を元の世界に帰してくれ……。」


ハァハァと息を荒くしてその場に崩れ落ちた。今にも泣いてしまいそうだが必死に涙をこらえる。

なんて情けないんだろうか。メスガキにこんな惨めな姿を見せてしまって。

俺は恥ずかしさからうずくまった。


「生きていて上手くいかないことってあるよね。リーベはね、ずっと見てきたんだ。一生懸命生きているおじさんのこと。」

彼女は静かに呟いて、俺の隣に座った。


「……だからおじさん。いや育史にね、ご褒美をあげようと思って。今まで頑張って生きてきたんだから、たくさん甘えていいよー!って言いたくてね」

「……気持ちはわかった、ありがとう。だけど、やっぱり年下になんて甘えられないよ」


彼女は俺に対してゆっくりと身を預けた。ほんのりとした温もりを感じる。

メスガキもメスガキなりに召喚してしまった俺のことを考えていたのかもしれないな。

ゆっくりと顔を上げて隣に座るメスガキを見つめる。

目線があうとメスガキは優しく微笑んだ。


「だったら決めた!」

彼女は勢いよく立ち上がった。そして俺を人差し指で指差し、口角を釣りあげる。


「リーベね、育史を雇うよ。……赤ちゃんとして。」

何を言っているんだ、このメスガキは。

俺は衝撃を隠すことができずポカーンと口を開いた。


「仕事としてなら存分に甘えられるよね、大人だし。ちゃんとプライドを持って甘えることができるよねー!」

「何を言っているのか意味が分からないんだが!!」


俺は慌てて声を荒げて、メスガキを見つめた。

まだ何を言っているのかよくわからない。


「だって、仕事なら問題ないよね。大人って責任感を持って仕事するんでしょー?だったら仕事にしちゃえばいいんだよ!」

彼女は目を細めた。そして勝ち誇ったようなドヤ顔を見せて腕を組み直した。


そんなわけあるかとツッコミを入れたかったが、彼女はさらに言葉を続けた。

「リーベね。ちょうど家族が居なくて一人だったんだ、だから誰かと過ごしたくて育史を召喚したの。……もう一人は嫌だから。」

彼女は瞳から小さな粒をポロポロとこぼした。


「はぁ……。泣きたいのはこっちだよ、まったく。それに……何も赤ちゃんじゃなくてもいいじゃないか。」

「泣いている女の子を慰めることすらできないのに赤ちゃん以外になれるわけないじゃないですか。」

彼女はポケットから布を取り出して自分で涙を拭きとった。


俺は眉間に皺を寄せて考える。

確かにメスガキが言うように、パパや兄になることは難しそうだ。

「ぐっ……。わ、わかったよ。どうせ元の世界に戻すつもりはないんだろう。仕事としてならやるしかないな。」

非常に、非常に不服だが了承することにした。赤ちゃんになることを。


彼女は俺の言葉を聞くとニンマリ微笑んで八重歯をちらりと見せた。

「ふっふっふ、契約成立~!それじゃ、これからリーベがママになって育史のことたくさん甘えさせてあげまちゅからねー★」

「好きにしろ。」

諦めはついた。悪態をつくように言葉を吐き捨てた。


「ダメだよ、育史。そんな言葉使いをしたらね。」

彼女は俺の態度を宥めるかのように優しく諭した。

目と目をあわせてにっこりと微笑む。まるで母が子に接するかのように優しい瞳だった。


こうして俺はメスガキママの赤ちゃんになった。

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