ゆめわたり
「ゆめわたり」
星野☆明美
プロローグ☆世界樹
こもれびの中、デルムントはひとり歩いて(あるいて)いた。
苔蒸した(こけむした)肥沃な(ひよくな)大地。
靴底でふみしめる土はとてもやわらかくて、ふわふわしていた。
「おや、こんなところに」
ぽつんとちいさな双葉が生えていた(はえていた)。
こころなし元気がない。
おもむろにデルムントは右手をかざした。
ぽとぽと。
なにもない空間からきれいな水が湧いて出た(わいてでた)。
双葉はうれしそうにしゃっきりとなった。
「すごいね。今のどうやったの?」
くすくす笑い声がして、空中に男の子が現れた(あらわれた)。
「きみは誰だい?」
「ゆめわたり」
「ああ、だからここへも来れた(これた)んだね」
デルムントは合点がいった。
「これは遠く離れた(とおくはなれた)湖の水をすこしだけ拝借したのさ」
「へええ。ほかにどんなことができるの?」
「まあ、いろいろ」
デルムントはかぶっていた白い(しろい)シルクハットを手に取り(てにとり)所在無げ(しょざいなげ)にしていた。彼は白い(しろい)燕尾服姿で、その服には色とりどり(いろとりどり)の石が縫い取り(ぬいとり)してあった。
「きれいだね。きらきらしてる」
男の子は石をひとつひとつながめて言った(いった)。
「ルビーはすきかい?」
「どれ?」
「赤い(あかい)石だよ」
「これ?うん、いいね」
「じゃあ、それにまつわるおはなしをしよう」
第一話☆タイムマシン
「ない、ない、ない!」
いくらさがしてもみつからない。
「大事な(だいじな)結婚指輪なのに!」
7月の誕生石・ルビーのついたプラチナの指輪がなくなってしまった!たしかに宝石箱にだいじに保管していたはずなのに!
ユリはどうしたらいいのかわからなかった。
そのとき。
「タイムマシンーそれは無限の可能性を秘めた(ひめた)、時を(ときを)駆ける(かける)装置。あなたにもこの可能性がわかってほしい」
テレビのCMでタイムマシンが紹介されていた。
ユリはすがりつくようにテレビの前に座り込む(すわりこむ)と、しばし頭をめぐらせた。
「指輪がなくなる前の過去へ行けば(いけば)なんとかなる!」
ユリは、タイムマシン株式会社に行くことに決めた(きめた)。
どうしても夫に指輪をなくしたと報告したくなかった。
結婚三年目。最初の(さいしょの)離婚の危機。これをなんとかのりこえたかった。
タイムマシン株式会社につくと、いくつか質問と注意があった。
過去のどの時点にいくのか?目的はなにか?
「一週間前の金曜日の夜。なくした指輪の行方がしりたい」
過去をかえないこと。自分に会わない(あわない)こと。
「はい。大丈夫です」
貯金から費用を支払って(しはらって)、ユリは緑色のガラスのふたのついた蝸牛型のマシーンにのりこんだ。
金色の計測器の針がぐるぐる回った(まわった)。
赤い(あかい)レバーで場所を移動した(いどうした)。
ぶううううううううんんんん。
振動が伝わってくる(つたわってくる)。時間をさかのぼる。
やがて。
ユリは目的の時間と場所へたどりついた。
久しぶり(ひさしぶり)の外食に夫婦で出かけて(でかけて)家にだれもいない。もっていたカギで中にはいる。
むねがどきどきした。
宝石箱は?
いつものようにとりだして、フタをあけた。
「あった!」
ピジョン・ブラッドという最高の赤い(あかい)ルビー。
ここで、ユリは葛藤があった。このままもって帰りたい(かえりたい)!
でも、過去を変えては(かえては)いけないといわれている。
どうしよう。どうしよう?
ええい!ままよ。
ユリは指輪を指に(ゆびに)はめてタイムマシンにもどった。
ぶううううううううんんんん。
もとの時間へ。
タイムマシン株式会社のひとは、事情をくわしくきいて、「指輪がなくなったのは、タイムマシンでもちかえったからです」といった。
「でも!指輪がなくならなければ、タイムマシンにはのらなかったわ!」
ユリが主張しても、みんな、
「そういうものなんですよ」
と言った(いった)。
幕間☆若木
デルムントのはなしを聞いている間。双葉はぐんぐん成長して(せいちょうして)若木になった。ゆめわたりの男の子は不思議そうにそれをみまもっていた。
「ねえ、デルムント。ユリは指輪を未来へもちかえらなければよかったのに」
「そしたら指輪はなくならずにすんだとおもう?」
「でも、指輪をもちかえるならなくなった?どっちだろう?」
「タマゴが先かニワトリか」
「うへえ」
ゆめわたりの男の子は顔をしかめた。
「ところではなしは変わる(かわる)が、ゆめわたりというからには夢を渡る(わたる)んだろう?どんなゆめをみてきた?」
「そうだなあ。デルムントはひかりものが好き(すき)?」
「ああ」
「いろんな色や形のボタンをあつめてる男の人がいて、偶然出会った(であった)おなじ趣味の女の人と、二人はボタンの交換をして、結婚するんだ」
「へえ」
「あと、金平糖に凝っている(こっている)女の子がいて、紅茶に砂糖の代わり(かわり)にいれて飲むんだ(のむんだ)。くちにふくんで紅茶をちびちび。しゃらしゃらの口当たり(くちあたり)」
「きみの協力があればそこへつれていってあげるよ」
「わあ、ほんとう?」
ゆめわたりの男の子はとびあがって喜んだ(よろこんだ)。
「あ……でも。この木がどこまで成長する(せいちょうする)のか気になるんだ」
「じゃあ、もう一つ(ひとつ)おはなしをしよう」
第二話☆歯医者
シルバという名の歯医者がいた。いろんな動物の虫歯を治して(なおして)その名を轟かせた(とどろかせた)。
宇宙人が、シルバの腕をみこんで宇宙のあちこちにつれていった。
麻酔をかけて、いろんな歯を治療した。入れ歯は宇宙人の技師がつくってくれた。
シルバは銀河一の歯医者と呼ばれた(よばれた)。
あるとき、シルバは自分の親知らず(おやしらず)が痛くて(いたくて)どうにか治そう(なおそう)としたが、出来なかった(できなかった)。
宇宙人はシルバを地球につれかえった。
シルバが宇宙で活躍していたあいだに地球では何百年も経っていた(たっていた)。
歯医者を探したが(さがしたが)どこにもいなかった。
総合病院にいくと、不思議な技術でいともあっさり親知らず(おやしらず)が消え去って(きえさって)しまった。
虫歯もあっという間に健康な歯にはえかわった。
「つめものも必要がないなんて!」
シルバは新しい(あたらしい)技術を学んだ(まなんだ)。
歯だけではなく、いろんな病気や怪我をなおせるようになった。
宇宙人はもうシルバをひつようとしなかった。かわりに地球の治療技術だけもっていった。
「もう、歯医者という職業はいらないな」とシルバはためいきをついた。
幕間☆金平糖
「歯医者さんはひつようだよ!」
「そうだね、まだ当分のあいだひつようだね」
「遥か(はるか)未来までみてきたの?」
「時空を旅してるからね」
「ぼくもゆめだけじゃなくて時空をわたろうかな?」
すると、デルムントはさびしそうな顔になった。
「時空をわたると、帰れなく(かえれなく)なってしまう。やめたほうがいい」
さわさわさわさわ。
ふたりの頭上で梢のみどりの葉が音をたてていた。
「じゃあ、やめとくよ」
男の子がそういうと、デルムントはにっこり笑った(わらった)。
「この木はこのままおおきくなって、世界樹になるだろう」
「すごいね。また見に(みに)こようかな」
「さあて、無事に(ぶじに)見れると(みれると)いいな」
デルムントはひと息ついてから、いった。
「それじゃ、金平糖を食べようか(たべようか)?」
「いま、もっているの?」
「いまからつくるのさ」
「だれが?」
すると、なにもなかった空間から大釜とザラメとグラニュー糖と食紅が現れた(あらわれた)。
小人がやってきて、ザラメを核にしてグラニュー糖の溶けた(とけた)水をふりかけながら、大釜を熱し(ねっし)ながらがらんがらんまわしはじめた。
「ほんとうは時間がとてもかかるんだけどね」
デルムントがウインクすると、ものすごいスピードで小人が働いた(はたらいた)。
砂糖水はみるみるうちに大きなかたまりになってゆく。食紅で色をつけて、一色できあがった。
「すごーい」
「しらべたら、チョコレートの金平糖ってのもあるらしい。保存方法が大変そうなきがするけど」
「それもいつかたべたいなぁ」
「そうさな。ほれ、できたてを一個頬張って(ほおばって)ごらん」
「もごもご」
「なに?」
「あまい」
あははとふたりは笑った(わらった)。
「きみが話していた(はなしていた)紅茶の女の子のところへいこうか?」
「いまから?」
こころなしほっぺが赤く(あかく)なっている。
「そのこのこと好き(すき)なのかい?」
「ち、ちがうよ」
もっと真っ赤になってしまった。
第三話☆小さな(ちいさな)お茶会
お仕事で10000字前後のものを請け負ったのですが、こちらはなかなか進まず、「おばちゃんですが、この度若い娘さんに転生しました!」の方に力が入ってしまって、そちらを提出することにしました。およそ1か月の間に熱発して二週間くらい寝込んでいました。
備忘録代わりに。




