第7話.それぞれの戦場
「・・・・・・何をした。」
「ん?ただ転移しただけだよ。」
「空間魔法の一種か。」
クラウドは感心したように呟く。
「しかしな。空間魔法を使えるとはいえあれは超レア魔法だがハズレと呼ばれる魔法。そのような魔法を使えるというだけで貴殿は拙者と一騎打ちをすると・・・?」
「空間魔法ってさ。便利だよね。だから日常生活で使われがちで、戦闘などに関しての使い方にスポットライトが当たらないんだ。」
「ふむ。確かに言われてみれば。空間魔法は『場と場の移動』にしか使われない魔法という認識しか無かったな。」
「そう。だから僕はあえて戦闘面での空間魔法の行使を考えてみたんだ。」
ユーリは研究服を脱ぎ、動きやすい格好になると黒の革手袋を両手に着けてニコッと笑う。
「ふっ。良い。いつでも来るといい。」
「じゃ。こちらから行かせてもらうね。」
自らが話終わる前に、クラウドの目の前からユーリの姿が消える。
「ふむ。」
刀を瞬時に抜いたクラウドは、まだ現れていないはずのユーリの気配に気が付き、真正面に刀を向ける。
「へぇ。やるね。」
遠慮無しに振り下ろされる刀の一撃を、ユーリは笑みを浮かべ手の甲で往なし、腰あたりで構えていた右拳を放つ。
クラウドは、まさか刀が往なされるとは思っていなかったが、迫り来る拳を瞬時に身体強化を施し左手で受け止めるが。
「・・・・・・左手の骨にヒビが入ったか。なるほど。空間魔法だけでは強くなれぬと貴殿・・・身体強化を極めたのだな。」
「まぁね。今では常時身体強化中だから、慣れが生じてきたけどね。」
「貴殿もこちら側という事だな。」
「はは・・・。魔人であれそう言ってもらえるのは光栄だね。」
「ふっ。別段なんとも思ってなかろうに。」
クラウドは受け止めたユーリの右拳を払うと、右足でユーリの頭部目掛けてハイキックを放つ。がやはりユーリは難なく左腕でそれを防ぎ右手でクラウドの右足を掴む。
「君は刀を使う侍じゃないのか・・・なッ!!!」
掴んだクラウドの右足を体ごと全力で投げる。
「魔人は身体能力も人間より遥かに上でな。」
クラウドは、投げ飛ばされたが動揺すらせず背中から蝙蝠のような翼を出す。
「飛べるんだね。」
「全てにおいて人間に劣るものはない。」
「それは・・・どうかな?あまり自分の力を過信しすぎるのは魔人の悪いとこかもしれないよ?」
ユーリは再びクラウドの視界から姿を消す。
「・・・・・・。」
「空間魔法って、こんなことも出来るんだよ。」
上空から聞こえたその声に、咄嗟に刀を振るうクラウド。
「『虚断・・・・・・eins.zwei.drei』」
「ッ!?」
一回目、数えると同時に指を鳴らすと、刀の刃先が消えユーリには掠りもせず。
二回目、数えると同時に指を鳴らすと、クラウドの右肩が弾け飛び、鮮血が飛び持っていた刀は地に落ちる。
三回目、数えると同時に指を鳴らすと、クラウドの右翼の付け根が鮮血を撒き散らし消し飛ぶ。
クラウドは一時的に翼を無くし、真っ逆さまに地面へと落ちる。
「ぐはぁッ!!」
「これが僕の奥の手だよ。オリジナルの空間攻撃魔法『虚』」
地面に伏したクラウドは、苦しい声をあげながら地面から体を起こす。
魔人の再生能力は尋常ではなく、既に翼をと腕はニョキニョキと、再生されていた。がどうやら体力自体はごっそりと持っていかれたらしい。
「これが・・・Sランク冒険者か。」
「安心してよ。これでも僕は十強の中で一番弱いから。」
「・・・・・・拙者達からすれば安心できることではない・・・な。」
「そもそも君たちの目的は何なの?」
「君たちというより、これは真王の目的だ。真王は下等種族と呼ばれる人間達を殲滅し、魔物の跋扈する世界を創りその頂点に立たれることを望まれている。」
「そんな事をして何が楽しいの?」
ユーリは首を傾げる。
「むう。拙者も正直分かってはおらぬ。ただ真王の言葉を借りるのならば『楽しいから』であろうな。」
「・・・・・・まるで子供の無邪気な遊戯だね。無邪気故の恐ろしさを感じるよ。」
「真王の下に就いた拙者達は真王の願う世界を創るために動く所存。」
「君の忠誠心には惚れ惚れするよ。」
「拙者も貴殿の努力の上になった力。尊敬している。」
「残念だ。」
『別の出会い方をしていたならば、良きライバルとなれたのに。』
その言葉を押しとどめたユーリは、クラウドと睨み合う。
「そろそろあちらもルシファー殿が決着をつけるだろう。」
「それはどうかな。あの学院の生徒たちはしぶといよ?」
拳を少し前に突き出し、軽く挑発するユーリ。
クラウドもニヤッと笑みを浮かべ魔力を鋭利に纏わせ刃先のない刀を構える。
◇◇◇◇◇
ここは特科校舎裏手の校庭。
魔物達の殲滅のため赴いたはずのSクラス生徒の一人である少年は、敢えて単独行動を名乗り出たため、一人で殲滅を行っていたがそこに一人の謎の美少年が現れる。
「で?何の用だ?」
「初めまして『勇者の末裔』僕はアベル。今は悪魔と魔人を統合し『真王』を名乗っているよ。」
「早く話に移れ。」
「そんな硬いこと言わないでよー。ね?レイ君。君は勇者の末裔だからね。挨拶しておかないとと思って・・・ね?」
美少年の姿でニヤァッと下卑た笑みを浮かべるアベル。
「・・・・・・殺すぞ。」
「うわー。怖いなー。なんで怒ったのかな?あ・・・。もしかして勇者の末裔って呼ばれるのが嫌だった?」
「・・・・・・来い。『レーヴァテイン』」
「へぇ。スル・・・聖剣かぁ。僕が勝ったら貰ってもいい?色々と・・・・・・」
「死ね。」
「口悪いなぁ。」
レイはアベルの返事など聞く気も無く、言葉が終わる前に真正面から斬りに行く。が・・・。
「ねぇ。舐めてるの?」
レイはアベルの周囲一メートルの空間に入った途端に、体が停止する。
その感覚は非常に気持ち悪く、自分では動かしているつもりなのに体は言うことを聞かず精神と肉体が乖離したような感覚である。
アベルはニコッと笑いレイの居る一メートル先の方向へ、指で銃の形を作り『バンッ』と呟く。
「あ、ごめん。軽く力入れたつもりだったけど、殺しちゃうかも・・・。」
「ッ!!」
『ひゅッ』と言葉にならない呼吸音だけが口から出るとレイは、その場から数十メートル飛ばされる。
アベルは笑みを浮かべながら、黒く綺麗な翼を広げレイの元へ飛ぶ。
「・・・・・・くっ。」
立とうとするが、体に力が入らず。
「勇者の末裔といってもやはりこの程度なんだね。僕は天使だった頃に本物の勇者と手合わせしたけど、こんなもんじゃなかったよ?」
「・・・・・・し、るか・・・。俺は・・・勇者じゃない・・・。ただの・・・『一条レイ』だ。」
「へぇ。」
アベルは完全に興味を失い虚無を見つめる様な視線をレイに向ける。
「そんな・・・・・・。そんな目で俺をッ!!見るなぁッ!!」
・・・・・・記憶の中で蘇るトラウマ。
その視線は何度も感じたことのあるものである。
レイには伝説の勇者と同じく『聖剣使い』の証である聖紋が胸に刻まれている。
それは生まれつきであり、アイアス王国公爵である父はそれを自慢してまわっていた。
そのせいか物心着いた頃には既に『次期勇者』として、期待という重りを科せられていた。
しかし、レイの剣技や才能は全て平凡なものであり聖紋ですらも反応を示さず聖剣を扱えないでいた。
『お前にはガッカリだ。』
『何でお母さんたちの期待を裏切るの?』
『見てみろよ『勇者様』だぞ?』
何故だ?俺は別に望んでこんな力を手にした訳じゃない。
悔しい。恨めしい。見返してやりたい。
そうして、努力を積み重ねマスティマ総合学院にてSクラス序列一位の座に君臨したレイ。
次第に、心に歪みが生じ出す。
『何故両親の言うことを聞かなければならない?』
それは間違った期待を押し付けられた結果の正しい疑問。
『俺は強い。誰の指図も受けないでいいだろ?』
それは強さを手にし、あまりある力が過剰な自信となり表れだした心の奥底の反逆心。
『力が・・・全て・・・?』
心の奥底で起こる葛藤を何度体験したことだろう。
募った疑問は、日常生活にも現れるようになりレイは孤高の最強として学院で一人となって行った。
「悲しいねぇ・・・。勇者の背中が大き過ぎるがあまりに、それに比例し君に対する期待も大きなものへと。結果君は悔しさと苦しみをバネに『次期勇者』へと成り上がった。」
「俺は・・・!!勇者なんてものにはならないッ!!」
「いいや。君はならなければいけないんだよ。薄々気づいてるんでしょ?」
「・・・・・・・・・。」
「もう遥昔の伝説である勇者が復活するかもしれないんだよ?」
アベルはにっこりと笑う。
「今のままでは君はアイアス王国での勇者としての未来しかないよ?」
全てはこのために。
アベルはレイに手を差し伸べる。
「こちら側へおいで。君を客人として迎え入れる手筈は既に整えてある。」
「お前も・・・・・・ッ!!お前も俺の勇者としての力が欲しいんだろうッ!!」
アベルは平然とした態度で言葉を返す。
「ぷ。僕らは悪魔だよ?魔人だよ?堕天使だよ?誰も君を勇者として羨望したりしないさ。」
「・・・・・・え?」
「なに?それとも本当は君もそれを望んでいたのかな?」
「・・・ッ!!そんなわけッ!!」
「・・・・・・で?どうするんだい?」
手を差し伸べたアベル。
レイはしばらくの沈黙の後、立ち上がるとアベルに向き直る・・・・・・。
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