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第6話.刀鬼と大聖女

 

 見るも無惨な姿となったカイン。

 既に息絶え絶えとなっており、ルシファーはそれを見下す。


「カ・・・・・・イン・・・・・・ッ!!」

「何故貴様ともあろうものがこのような存在を気にかける?魔法もろくに使えず、戦闘に関しても超がつくほどど素人。魔法も使えなかった男が『魔力の蓋』をこじ開け、今の貴様の頼りを得ただけで我と対峙する愚かな人間だぞ。」


 命の灯火が消えようとしているカインの瞳は既に虚ろなものとなっており、イヴリールは這いつくばりながらもその瞳を見つめ必死に声をかける。

 自らも命の危機に瀕しているはずのイヴリールだが、それでも彼はカインにひたすらに声をかける。


「くだらん。終わらせよう。『元最強の天使よ。』」


 ガブリエルは、魔物をひたすらに殲滅しながらも戦闘の合間合間でイヴ達の様子を確認していた。


「まずいッ!!イヴッ!!」


 叫んだその瞬間。

 ガブリエルの横を、目にも見えぬ速度で突っ切る光が一筋。


「・・・え?」


 熾天使であるはずの、ガブリエルすら分からなかったその光の正体・・・それは


「さらばだッ!!!」





 ─── ガキィィィンッ!!!




 その音は肉体を切ったならば出ない金属音。


「・・・・・・・・・ルシファーみーーっけ。」


 憎悪の込められた眼差しを向ける少し狂気じみた黒髪ポニーテールの隻眼眼帯の少女。



「ッ!!」


 油断していたとはいえ自らの懐に入り込んだこの少女に驚きを隠せないルシファー。


「ねぇ。覚えてないかなぁ?」

「・・・・・・貴様のような醜い女など覚えているはずがなかろう。」

「・・・・・・へぇ。そう・・・?」


 禍々しいオーラを纏う妖しき少女の姿に戸惑ったのはルシファーだけではなく、倒れているイヴリール、そしてガブリエルも同じだった。


「ちょ、ちょっと・・・!!はぁ・・・まって・・・くだ・・・さぁい・・・!!」

「あぁ?大体教師達の対処がもっと早ければ魔物だって片付いてるはずだろ?誰のせいで怪我人が出てると思ってんだ?」

「それはそうですけど・・・で、でも・・・。その・・・大変でしょうし・・・・・・。」

「あ?でも何だ?」

「ひぇぇ。何でもないです・・・。」


 妖しき少女に続きやって来たのは、金髪碧眼の美少女だ。

 はぁはぁと息を切らし、体の一部を激しく揺らしながらカイン達の元へと駆け寄る。


「あ、あの。まだ生きてますよね?」

「・・・あ、あぁでもカインは・・・。」

「えーっと、大丈夫です!!サラちゃんに任せてくだしゃいッ!!」


 大事なところで噛んだサラと言う金髪碧眼の美少女は、カインの真っ二つになった、下半身と上半身の断面部分をくっつけると、お祈りをするポージングをし魔力を練り込む。


「・・・必ず助けます。」


 遠目から戦闘をこなしながら、その様子を見やるガブリエルとソフィア。

 天界から降り、ソフィアと共に見聞を広めてきたガブリエルはその二人に関して知らないはずがなかった。


「あれがSクラスの序列十一位・・・大陸一の治癒魔法師兼ヤハウェの『大聖女』」

「ん。そしてあの黒髪が。」

「えぇ。Sクラスの序列七位・・・異国の侍と呼ばれる『刀鬼』」


 どちらも学生でありながらも大陸中に名を轟かせているSランク冒険者に近しい強者だ。

 その二人を初めて目の当たりにして、少し悪寒がするガブリエル。


「この世代・・・・・・。とんでもない逸材ばかり・・・。」


 生身でルシファーに挑む愚者とも呼べるが同時に勇気ある者とも取れる行動を起こしたカイン。

 ルシファーの虚をついたとはいえ、ルシファーの剣を防ぎ切った『刀鬼』

 そして・・・。


「『癒せ。癒せ。癒せ。』」


 サラの可視化された魔力は、一気にカインの体を覆い尽くす。


「『全てを癒せ。』」


 球体となったサラの魔力の中に影となって見えるカインの姿。


「『満ちる月(パンセレーノン)』」


 その瞬間、魔力の球体は眩い光を放ち霧散する。


「・・・・・・ふぅ。」


『治癒の最上級魔法』である完全治癒魔法を行使したにも関わらず、ため息ひとつつくと立ち上がり、イヴリールの元へと駆け寄る。


「貴方()も。」


 そう言うと、イヴリールの手を『失礼します。』と握り無詠唱で下腹部の傷を癒すサラ。

 これが『大聖女』たる証なのだ。

『完全治癒魔法』というのは元来治癒師十人ほど集まり行使する魔法で、成功も失敗も精巧な魔力コントロールの技術に依存する。

 成功率は一割未満とかなり低く失敗すれば、間違いなく死に至ると言われ、その危険さ故『禁忌』とまで言われた魔法。

 しかしサラは、その膨大な魔力量と積み重ねてきた研鑽により『完全治癒魔法』すらも失敗することは無い。

 もちろんその様な凄い点もあるが『完全治癒魔法』はサラですら八割近く魔力を持っていかれることもあり、『一月に一度』しか使えない。

 それでも凄いことには変わりない。


「ありがとう。あー・・・」

「サラです!」


 目をキラキラと輝かせイヴリールに元気よく返すサラ。


「そうか。サラ。ありがとう。」


 この子は俺が天使だと言うことに気がついている。

 イヴリールは即座にそれを理解する。

 その眼差しと元気よく跳ねる声。

 それは尊敬などというものではなく崇拝に近いものである。

 神と天使を祀るヤハウェの大聖女だからこそ、天使であるイヴリールに気づいたのだろう。


「カインは・・・?」

「大丈夫です。無事です!」


 カインの真っ二つとなった体は傷跡すらなく綺麗に接合されており、心做しか顔色も良いような気がした。

 イヴリールは再度、ありがとうとサラに声をかけるとルシファーとあの少女の戦闘を見やる。


「頑張れ・・・。ハルヒメちゃん。」


 戦闘力自体は皆無と言えるサラは祈ることしか出来ずその戦闘を見守るのだった。






「ハハッ!!いいねぇ!!面白いよッ!!あんたらッ!!絶対に邪魔すんじゃねぇぞッ!!」


 ハルヒメは刀をルシファーの頭頂部目掛けて振り下ろす。

 イヴリールやガブリエル達に言い放ったハルヒメは、以降言葉を発さず無言でルシファーとやり合う。


「・・・・・・。」


 頭頂部目掛けて振り下ろしたその刀は、ルシファーのポースポロスにより受け止められるが、空中で刀身に重心を置きルシファーに受け止められた事を利用し、ポースポロスと交わった際踏み台にし刀と腕力で更に跳躍し、一回転。

 そして、ルシファーの背後へと回ったハルヒメは、間髪入れず背後から横薙ぎに一閃。

 するが、驚いた様子もなくルシファーは、踏み込みも入れず驚異的な跳躍力と、堕天したその翼を使い飛ぶ。


「・・・・・・ちっ。お前の剣を利用して背後へと跳んだ私への当てつけか?僕は飛べますよってか?」

「ふんっ。そもそも貴様とは存在としての格が違う。そう怒りを顕にするな。程度が知れるぞ?」


 ハルヒメは、常時刀身に魔力を纏わせているため刃こぼれの心配はなく、寧ろ岩すら切れてしまうほどの切れ味を身につけている。

 そして、それだけでは無い。


「はぁッ!!」


 先程のカインと同じく・・・否それ以上の膨大な魔力を体に纏い身体強化を施すハルヒメ。


「ほう。魔法も使えると来たか。面白い。」

「は?身体強化の魔法しか使えねえよ。生憎私は・・・。」


 ドンッと地面を踏み抜くと、半径数メートル先まで亀裂が入り、ハルヒメのいた場所は少し沈む。


「お前を殺すためにここまで強くなったんだからなァッッッ!!!」

「隠している力はそれだけじゃなさそうだがな?」


 何かを感じ取ったルシファーは不敵な笑みを浮かべる。


「うるせぇぇぇぇぇぇえッッッッ!!!!」


 強靭な肉体を一時的に手に入れたハルヒメは、常人の目にも止まらぬ速さで空に留まるルシファー目掛けて飛ぶ。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇええええッッッッ!!!!」

「騒がしい。」


 ルシファーは、自分目掛けて飛んでくるハルヒメに剣を振り下ろす。が、ハルヒメは刀で見事に往なしキィィィィンッ!!と耳障りな金属音をたて、スライドさせて正面からルシファーの首筋へ刃を向ける。


「甘い。」


 ルシファーは重心を後ろに傾け、宙返りすると同時にハルヒメの腹部を回転の勢いと合わせ蹴りあげる。


「ぐふぅッ!!」


 ルシファーの蹴りは身体強化を施したその体ですら耐えるので精一杯で、蹴られた肉体は上空へ飛ぶ。


「そのままでは貴様は我とまともに戦うことすら出来ない。まぁ、本気を出そうが我に勝てるとは思わないことだ。」


 空を飛び最高到達点に達したその僅か数秒。

 何とか状態を起こし空を飛べないハルヒメが着地の方法を考えていたその背後にルシファーは現れる。


「なッ!?」

「空は翼を持つものの住処だぞ。我らとてそれは同じ。」


 驚きと同時に落下するハルヒメ。

 着地の方法を考えるよりも先に防御を選び地に背を向けルシファー見据える。

 ルシファーはトドメと言わんばかりの一発を食らわせるため、拳に力を込める。

 ミシミシッと力を込められたルシファーの拳は聞いたことの無い音を上げ、ハルヒメに振り下ろされる。


「死ぬが良い。」

「ふざげぇうぉ゛゛」


 防ぎ切ると決めたはずだったルシファーの攻撃を受け、ハルヒメの両腕の骨は凄まじい音を立て折れる。


「ハルヒメちゃんッッッ!!!」


 ドゴォォオンッ!!と音を立て、広場の中心地に落下したハルヒメは既に意識を失っており、サラは急いでその場に駆け寄る。


「ふむ・・・。少し力を弱めすぎたか。やはり力の加減が分からぬな。」


 違う。こいつは今自分の力を試すためだけにハルヒメという女性を使ったんだ。

 こいつは人が死のうが生きようがどうでもいい。

 何故ならば取るに足る存在ではないから。


 それを悟った瞬間に鳥肌が立ちゾッとするカイン。


「ほう。死の淵から蘇ったか。雑魚よ。」

「・・・お前とアベルだけは許さない。」


 サラの魔法を受け復活していたカイン。

 少し接合部分にまだ違和感は感じるものの特に支障はない。


「待てよ貧弱男。そいつは私の獲物だ。」

「ハルヒメちゃんッ!!だ、ダメだよぉ・・・。」

「バッ!!おまッ!!その名前で呼ぶんじゃねえッ!!」


 一瞬顔を赤くしたような気がするが、瞬きをするとハルヒメと呼ばれたその生徒は紅い瞳でルシファーを睨む。


「クックック。我らはどうやら相当に恨まれているらしいな。何故だ?親を殺されたか?兄弟姉妹を殺されたか?親族を殺されたか?恋人を殺されたか?」


 笑う。ルシファーは嗤う。


「くだらない。そんな必要のない()を無くしたぐらいで。」


「「「ッ!!」」」


 ここにいる全ての者が反応する。

 そして渦巻くのは一つの感情。

『怒り』ただそれだけだ。


「殺すッ!!」


 ハルヒメは治癒中にも関わらずサラを押しのけ、地面に突き刺さっていた刀を手に取りルシファーに襲いかかる。が先程とは違いルシファーはポースポロスでハルヒメの刀を受け止め更にはハルヒメを数十メートル先へと払う。


「ぐぅッ!!」


 先程までの戦闘はルシファーの遊戯だったという事が鮮明にわかってしまうほどの力の差。

 ルシファーは、ハルヒメへと歩みを進める。

 一歩、また一歩と。


 そんな様子を見てハルヒメの危機を察したカインは、無意識に足を進めていたが、イヴリールに腕を引っ張られる。


「カイン・・・。もうやめろ。お前には無理だ。今いっても邪魔になるだけだ。間違いなくな。」

「・・・無理だから・・・無理だから目の前の女の子を見捨てろって言うの?」

「・・・・・・ッ!それは・・・・・・。」


 悲しげに下唇を噛み、カインの制服の裾をギュッと握るイヴリール。


「イヴ。何度も話していますが、僕は『アベルの惨劇』の日にとある天使に助けられたんだ。」

「・・・あぁ。」

「僕はその天使のようになりたかった。かっこよくて、優しくて、強くて。」

「・・・・・・あぁ。」

「僕にはサラさんのようなすごい魔法も、ハルヒメさんのようなすごい剣術もない…だけど・・・。僕はイヴのようになりたい。」


 ニコッと微笑むカイン。

 あの日泣き叫んでいた子供とは思えない逞しい表情を浮かべていた。

『あぁ。カインは強い。』そう思えるほどに。

 そしてイヴリールはとある覚悟を決める。


「『汝、罪咎天使であるイヴリールと縁を結びし者。』」


 イヴリールは、目を閉じカインの両手を自らの右手を地に翳すと二人の下には魔法陣が現れる。


「はぁ、どうやら俺も相当に甘くなったらしい。カイン。

俺と正真正銘の契約天学(フェアトラーク)を結べ。」

「・・・・・・?!!イヴ!!・・・・・・ありがとう決断してくれて。」

「ッ!?」


イヴリールは心の奥底を見透かされたように驚きの表情を浮かべる。カインは分かっていたのだろう。イヴがまだどこか躊躇いがあったことに。そして自らの戦いに巻き込むこととなった後悔を。


「『我イヴリールはこれよりカインと契約天学を結ぶ。我、これより剣となりてカインと共に戦場を駆けると誓おう。』」


 イヴリールとカインの周りには無数の光が現れる。


「『契約天学(フェアトラーク)──完了(フィーネ)』」


 その光は収縮し二つの光となり、片方はカインの右手に、そしてもう片方はイヴリールの右胸元へと取り込まれ『契約紋』という紋章へと変わる。


 突如として眩い光を放ったカイン達を見やるルシファー。


「ほう。『契約天学(フェアトラーク)』を行使したか。だが片や無能、片や罪咎天使として力を9割失った雑魚だ。

 その様な雑魚どもが我に対抗できると思ってるのか?」


 ルシファーの底知れぬ力を目の当たりにしたカイン。

 だが、その瞳には『恐怖』や『諦め』などは微塵も感じさせない。

もしよろしければブクマやPt評価など作者の励みとなるのでお願い致します。

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