第4話.訪れる天災
「ねぇー。眠たいよーー。」
「アァ゛ン!?うるせぇよクソガキィッ!!!」
「むさ苦しいわ。本当にやになっちゃう。」
「・・・・・・。」
とある一室。
巨大な円卓を囲んでいる十六の人影が。
「なぁ『ルシファー』さんよ。本当に実行すんのかい?」
「・・・・・・あぁ。世界を手中に収めるのならば。まずはここから攻め、後方の憂いを断つことから始めなければ。」
「しかし・・・なぁ?いくらこのクラウドと言えど、童共に刀を向けるのはなぁ。」
「・・・・・・やってもらわなければこちらも困る。でなければ・・・」
「まぁまぁルーも落ち着きなって。」
「・・・・・・しかしアベルよ・・・。」
「クラウドくん頼むよ。ここさえ攻め落とすことが出来れば、周辺国も総崩れ。それに別に手をかけろって言ってるわけじゃないしさ?ね?」
「むぅ・・・・・・。致し方ないか。承知した。このクラウド・アプリストスがマスティマ総合学院への襲撃お供致しましょう。」
「うん。ありがとう。君がいてくれたら心強い。あ、でもロストマギアは使わないでね。一人スカウトしたい逸材がいるから殺したくないんだよね。」
ニコッと笑うアベル。
「あ、そうそうもちろん今回は僕たち『八曜魔王』の出番はないから待機ね。」
「カッカッカッ。よいよい。のんびりと過ごせるのならば儂も文句はないわい。」
「殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい。」
「もーダメだよ?クリスタ?氷の魔王である君がそんなに熱くなってどうするの?」
暗く巨大な一室の円卓を囲んでいる十六人。
『悪魔』と『魔人』ふたつの種族を統合し、『八曜魔王』となった上に自らが真王となったアベル。
そしてそれと同等の地位を獲得し、最強の魔人たちである『七罪魔人』の上に立つものとなった堕天使ルシファーが
『マスティマ総合学院』への襲撃を計画していたことなどカインは知る由もない。
「じゃあそろそろ行こうか。ルー。」
「・・・・・・あぁ。着いてこい。クラウド。」
「承知。真王とルシファー殿が行かれるのなら正直このクラウドも必要なかろう・・・が。マスティマ総合学院の生徒たちがどれほどのものか拝見させて頂こう。」
◇◇◇◇◇
マスティマとの話し合いを終えた次の日。
カインは、自室で一人・・・・・・否二人で会話をしていた。
「イヴリールさん」
『俺のことはイヴでいい。それとタメ口も無しだ』
「うん。じゃあイヴ」
『それでいい』
「・・・・・・・・・・・・。」
特に会話も続かずに、のんびりと時間だけがすぎていく。
ベッドで天井を見るカインと立て掛けられた剣しばらくの沈黙の後口を開いたのはイヴだった。
『沈黙も良いが、あの日からのお前の成長をきかせてくれ。』
「・・・・・・うん。」
「じゃあ、まずは孤児院の話から。」
「・・・・・・あぁ。」
そう言ってカインは続ける。
彼は笑顔に孤児院で仲良くなり今はもう家族のような存在である子供たちについて語る。
「ラナとサナっていう僕の妹のような可愛い双子が居るだけど。その子たちも『アベルの惨劇』で親を亡くした子達で最初は心を開いてくれなかったんだ。院長いわくラナとサナは、僕と同じく目の前で両親を魔物に殺られた上アベル本人と会ってしまい、兄すら殺されてしまった・・・と。」
アベル。その言葉を聞いて長年留めていた凄まじい激情が押し寄せてくる。
ただ・・・。
「それで、一緒に暮らし始めて二年後にやっと会話してくれるようになって。二人とも懐いてくれたんだ。暮らし始めて一年の頃はお風呂にも入らず、二人ともずっと何かに怯えた様子で抱き合って爪を噛んでたけどね。」
何故。何故関係の無い人々まで巻き込んで苦しめたのか。
それだけが理解できない。許せない。
怒りに我を忘れそうになるカインはそっと目を閉じる。
「僕はその二人を見て変わろう。と思ったんだ。怯えて泣いていた頃の僕じゃダメなんだ。僕を助けてくれたあの人のように・・・って。」
天井に届くことの無いその手を伸ばし、目を開く。
「イヴのようなかっこいい大人になりたくて。僕は二人を・・・いやもう僕たちのような悲しむ人間を増やしたくない。だからこそ人々を守るためこの学院に来た。イヴ・・・あなたが強くなれ。と言ってくれたから。」
『そう・・・・・・か。』
「はい。だから、ありがッ!?!?」
いきなり激しい揺れに襲われ、カインは言葉を止める。
揺れには驚いたがそれでも平然としていた話していたイヴリールは何かしらの気配を感じとる。
「・・・・・・。」
その瞬間抑えていた激情が、体外へと漏れ出す。
「ア・・・ベル・・・・・・ッ!!」
守るべき人間を無差別に魔物に殺させ、挙句自ら悪魔側に寝返り天使と悪魔の拮抗していた力の均衡を崩し自らはそれを遊戯としか思っていない悪魔に相応しい男。
「ア・・・ベル・・・って・・・え?う、嘘だよね?」
「・・・・・・いや・・・。俺が間違えるはずがない。」
「マスティマ学院長は・・・今不在だよ?どうすれば・・・。」
「カイン。俺を連れていけ。罪咎天使として追放されているだけで最低限の力の破片であればまだ使える・・・あの二人の目をくらますぐらいのことは出来る。」
「ルシフェルも・・・居るの?」
「あぁ。」
「分かった。」
妙な反応をしたイヴリールだったが、カインはそれを気にしている暇は無く、剣を右手に持ち自室を出る。
「衝撃音がしたのは・・・・・・」
『すぐそこの広場だ。試しだカイン。足に力を込めるイメージをして飛んでみろ。』
「今はそんなことしてる場合じゃ・・・」
『今がその時なんだ。早くしろ』
有無を言わせぬその圧に押し負け、カインはイヴの言う通りに足に力を込め全力で跳躍する。
「うわぁぁぁああ!?!?」
『今の俺に出来るのは、お前の身体能力の底上げだけだ』
「それが出来たら充分じゃ・・・・・・ッ!?」
『その程度じゃあの二人から睨まれただけで失禁するぞ』
「そんな・・・ッ!」
『よし、そろそろ気合いを入れろ。見えてきたぞ。』
空から見渡すと、学院内の広場には三人の人影が存在しそれを取り囲むように教師陣が戦闘状態で構えていた。
『居るな・・・。』
イヴリールの声にカインが敵を視認すると見つけると即座にその場に、着地する。
「おや、おやおや?イヴリールじゃないか!久しぶりだね!」
「・・・・・・天使に見捨てられた犯罪者。」
「ほぉー。この人が罪咎天使様か。」
一人は白髪で、マスティマのような笑みを張りつけた仮面のような不気味さを感じる。
顔が整っている美少年の分余計に不気味さを禁じ得ない。
真っ白な服に身を包んでいるため堕天使なのだが、一瞬だけ天使と見紛ってしまう。がカインもはっきりと脳裏に焼き付いていた。あの腹立たしい笑顔。
憎しみという感情に飲まれそうになるカインだが、歯を食いしばり何とか押し留まる。
その美少年を睨みイヴリールは言葉を発する。
『アベル・・・・・・お前ッ!!』
「うわ、もう怖いなぁ。いきなり怒鳴るのやめてくれよ。」
「・・・・・・弱い犬ほどよく吠える。」
「はは、それもあながち間違いではないかもね!罪咎天使として枷を嵌められているイヴリールはどうやら現役の頃の十分の一すら出せないみたいだから。」
『ルシフェル・・・ッ!!』
黒髪で少しウェーブのかかっている髪。
目の色は白に近い薄い水色。
上半身は鍛え上げられた戦闘向きの体を露わにしており、下は布を巻いたどこかの民族のような衣装を着ていた。
「失礼。このクラウド。自己紹介を忘れておりました。
クラウド・アプリストス。ルシファー殿の下で『七罪魔人』として仕えているただの侍だ。」
『・・・なるほど。本当に悪魔と魔人の傘下に加わったらしいな。』
「やだなぁ。傘下に加わるじゃなくて傘下にしてあげたんだよ。」
カインは思わず驚愕の表情を浮かべる。
古い文献の中に書いてある化け物たち。一人一人が天災と呼ばれるほどに常軌を逸した力を持つと言われている。
『七罪魔人』と呼ばれる七人の伝説の魔人。勇者も足元に及ばず、結局は人間側が領土を譲渡することによって不可侵条約を取り付けることで怒りが収まったとされる化け物達。
そして『七曜魔王』と呼ばれる七人の魔王。
力で言うならば神にも届くと言われている。
そんな、ふたつの勢力を容易くねじ伏せ傘下にしたなどと言ったアベルの言葉はカインには理解できなかった。
それはイヴリールも同じようで・・・。
『七罪魔人と七曜魔王を・・・?』
「だからそう言ってるでしょ?因みに今は『八曜魔王』になってるけどね?」
「まぁ王たるに相応しいのはこのクラウドもアベル様しか考えられませんぞ。」
「まぁ、無駄話もここまでにして僕はスカウトに行こうかな。積もる話はあるけどまた今度話そうね・・・?イヴリール?」
ニヤァッとこちらに向けられた笑みは、カインを恐怖させる。
マスティマよりも底知れない何かを抱えている目の前の化け物に恐怖するのは当然のことであろう。
『待てッ!!』
イヴリールの叫びは、虚しく鳴り響きアベルは瞬時にその場から消える。
この学院内にいることは間違いないが今は目の前の二人を相手する余裕しか無かった。
「・・・・・・。」
『ルシフェ・・・いや。ルシファー。あんな底知れぬ悍ましい男と良く居れるな。今のあいつは正気じゃない。無論お前もな。』
「・・・・・・無駄話は良い。来い。」
「じゃあこのクラウドは教師陣を相手に致しましょう。」
ルシファーから目を離し、クラウドを視認するイヴ。
その構えはカインから見たらいい加減なものであった。
素人目から見れば隙がある、甘い。そのような考えの浮かびそうなあまりにも次元の違う強敵。
イヴリールは叫ぶ。
『今すぐ逃げろ!!お前たち死ぬぞッ!!』
「多分・・・多分大丈夫だよ。イヴ。」
カインは自信満々に呟く。自分の事かのように。
「この学院には、Sランク冒険者が居るんだ。今は教師として身を固めているんだけど・・・ね。」
『!?』
この大陸で十人しかいない人類の最高到達点。
「そんな自信満々に言われちゃあ仕方ないね。カイン君。」
姿を現したのは、研究服に身を包んだ馴染みのある一人の男。
「貴方が僕の相手になってくれるのかな?」
「・・・ほう。このクラウドを前にして怯えない・・・か。」
「君以上にやばい化け物と対峙したことがあるからね。」
「フッ。面白いことを言う。」
二人は静かに睨み合い数秒の時が経つ。
どうしたら大勢の人に見て頂けるのだろう・・・。笑
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