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第3話.熾天使の成れの果て

 

 カインが地下室においやられた同時刻。


「マスティマ。話が。」

「んー?なにー?入っていいよー。」


 マスティマの居る学院長室の前でユーリはノックする。


「実は一年生の・・・」

「カイン君の話かなー?」

「!・・・やはり気づいてたのか。」

「君の思っている通り、あの子は『縁』を結んでいる。そしてその相手も分かっているとは思うけどイヴだねー。」

「じゃあ・・・!!」


 マスティマはにやりと笑みを浮かべ、目の前にある水晶玉を見やる。


「その必要は無いんじゃないかなー。この状況を見るにしっかりと縁は結ばれてたんだよねー。」

「それはどういう事だ?」


 その質問には答えず。

 マスティマは『とある四人』を緊急で呼べとだけ言うと再び意識を水晶玉へと移してしまった。

 なぜそんな四人を?とは思ったユーリだが、マスティマに聞くことを諦め指示に従う事にした。













「ん・・・・・・。」


 体の痛みに耐えかねて目を覚ますカイン。

 目の前に広がっている光景を目の当たりにし言葉を失う。


「!? こ、ここは!?さっきまで真っ暗な地下室に居たはず・・・・・・。」


 辺り一面に広がるのは幻想的な森であった。

 肌を優しく撫でる風が存在し、ざわざわとカインを歓迎すると言うように靡く木々。

 地下室のはずなのに、空があり雲もゆったりと動いて太陽も存在していた。


「ど、どういう事・・・?」


 驚きに痛みを忘れカインは立ち上がる。

 心做しか空気も澄んでおり美味しく感じてしまう。

 カインは恐る恐る一歩、また一歩と歩みを進める。

 動物などは存在しておらず森だと言うのに虫の気配すらしない。


「本当に地下室・・・なんだよね・・・?」


 暫く歩いていると、茂みの奥の湖が視界に映る。

 吐血などで汚れていた服や体を洗いたいカインは、警戒もなしにその湖へと歩み寄る。


(見た感じでいえば水は透き通っており普通の飲料水となんら変わらない。)


 カインら手で掬った水を喉に通す。

 ゴクリ。と喉を鳴らし飲んだ水は普通の水と変わらない味をしていた。


「うん。普通においし・・・・・・」

『小僧。』


 どこからか聴こえたその声にビクッと肩を震わせるカイン。


「気のせい・・・かな・・・?」

『こっちだこっち』


 その声が聞こえるは、霧に包まれた湖の向こう。

 目を凝らしたとしても見えないその先だ。


『こっちにこい』

「え、いやです」

『黙れ、はやくこい』

「そもそも僕魔法も使えないし、湖の上歩くなんてこと出来ないですし。」


 警戒を怠ることなく、カインは後方へ一歩一歩下がる。

 禁足地と指定されている以上マスティマ学院長も隠したい何かがあるはずだ。

 がしかし、この声にどこか懐かしさを覚えている自分がいる。


『・・・・・・お前。あの時の小僧だな?』

「あの・・・・・・時?」

『覚えてないなら別に構わん』


 あの時。という言葉に該当するものなんて『二つ』ほどしか出てこない。

 ある日置き手紙を残し突如として、孤児院から姿を消した初恋の相手。

 そして・・・・・・。アベルの惨劇。


 あの日失ったものはあまりにも大きすぎた。

 二人が生きていればなんて、毎日。何度も考えている事だ。


「禁足地・・・・・・封印・・・・・・?どこか懐かしい声で・・・あの日・・・・・・・・・って・・・・・・・・・。まさか!?」

『察しが良いな』

「あの日の・・・・・・?」

『あぁ、とりあえず今はこっちにこい。こんな体になって無けりゃ俺からお前に会いに行ってたものの・・・』

「こんな体・・・?」

『この空間はあくまで俺の魔力で創りあげた幻想だ。お前が飲んだ水もな・・・。この事実を把握していればお前は幻にとらわれず湖の上を歩けるはずだが?』

「あっ・・・ほんとだ。」


 恐る恐る湖に足を踏み入れると地上と何ら変わらない、安定感で水面上を歩くことが可能になっていた。


「濃いな・・・」


 奥に進むにつれ濃くなる霧に不安を抱きながらも、進むカインの目の前に腰の高さと同等の岩。

 そして、その岩に突き刺さったボロボロの剣が現れる。


「あれ・・・・・・イヴリールさんは・・・・・・」

『目の前にあるだろ』

「目の前って・・・・・・目の前にあるのはボロボロの剣・・・・・・」

『ボロボロで悪かったな。罪咎としての枷が付きまとう以上俺の力はほぼ無に等しいからな。見た目からしてボロく見えるのはそのせいだ』

「でも何で武器に・・・?」

『あぁ、それも罪咎が恐らく関係してるな。天使長であるミカエルから罪咎として定められた例は・・・・・・俺だけだ。ある程度の仮定を交えて話すが・・・・・・』


 イヴリールさんによれば『罪咎天使』としての枷を付けられた天使は、力を何段階かに分けられ封印。

 本来であれば、その身一つを封じられる。が元最強と名高いイヴリールの力は強大で、儀をおこなえなかったという。

 結果的になされた処置はイヴリールの意識と力を七等分し、力を分散させた上で世界各地のある場所に封じられる事となった。


 目の前の武器はイヴリールの固有武器である断罪器(シャイターン)

 この中にはイヴリールの肉体と意識の核が封じられているため最低限の力を発揮することは可能とのことだ。

 そして、肉体そのものも封印され武器としての身体での存続を余儀なくされるという。


『まぁ、つまりそういう事だ』

「でも、イヴリールさんは悪くないですよね」

『良い悪いで言えば正直なところよく分からん。俺自身仲間に何も言わずにあいつらの元へ来てしまったからな。そこは少なからず俺が悪いと言えるな』

「でもそのおかげで僕は救われました!」

『そうだな・・・。俺も熾天使としては軽率な行動だったと思うが、俺個人としては間違っていないと思っている。がそれももしかすると軽率だったのかもしれない。』

「・・・・・・?」

『俺とお前の間に縁が結ばれている。所謂『契約天学』という契約を結べる縁がな。』

「縁・・・・・・?」

『あぁ、要するにこの武器(おれ)の使い手に選ばれたって訳だ。』

「それのどこが軽率なんですか・・・?」

『お前をこれから激化するアベルたちとの戦いに巻き込んでしまうかもしれない』


 その言葉を聞きカインはにこりと微笑む。


「なんだ。そんなことですか?」

『そんなこと・・・?』

「僕はあの二人を許せない。」

『・・・・・・だろうな』

「それに僕はあなたに会うためにこの学院に来ました。この学院で色んなことを学べばいつか、熾天使であっても会えるはずだから・・・と」

『ここまでの全てが縁により結ばれ辿る運命だったってことか』


 やれやれと、呆れたように・・・どこか嬉しそうに剣は言葉を続ける。


『ならば俺を抜け。とりあえず仮契約と行こう。』


 カインはその言葉に黙って頷くと、剣に触れる。


「うわッ!?」


 突如として現れた魔法陣に、思わず声を上げたカインだったがそれ以上動揺することなく岩から剣を引き抜く。

 思った以上に軽々と抜けたその剣は錆び付いているもののどこか威圧感を醸し出している。


『よし。じゃあもうここに用はない。地上へ出るぞ。』


 その言葉と同時に世界は暗転し、先程まであった森などが全て消え真っ暗な地下室へと戻った。


「ビックリした・・・。」

『久しぶりの人間だったからな。歓迎の意味も込めて空間をいじってただけだ』

「久しぶりの人間?他にも来た人いるの?」

『あぁ、何度か禁足地という言葉にひかれ来た人間はいた。無論追い返したがな。その後その人間たちがどうなったか知りたいか?』

「・・・・・・聞かないでおく」

『まぁ、マスティマに告げ口して学院から追放してもらっただけだから安心しろ。ほら、口動かしてないで早く階段をあがれ』



 一歩一歩、イヴリールとの会話を楽しみながら、未だに痛む体を癒すためカインは真っ暗な地下室を歩き回りドアをみつけやっと出ることが出来た。


「ここは・・・。」


 階段を上がって出た場所は、修練場の裏手の倉庫の隣の茂みだった。

 どうやらこの地下室というのも、茂みでカモフラージュされた場所にあったらしくどうやってかそれを知ったゼクスたちが僕を引きずり込んだのだろう。


「でもなぜ・・・。」


 なぜここに罪咎天使として追放されたはずのイヴリールさんが居るのだろうか?


「あ!いたいた!!カイン君!!」


 その言葉に反応しそちらを見やると修練場の二階の窓から手を振るユーリの姿が。


「ユーリ!これは・・・違っ!!」


 禁足地の噂はどこにあるかは知らないが聞いたことがあった。

 教師たちからも口うるさく言われることだが、もし入れば良くてこの学院を退学、最悪の場合は・・・


「あはは。知ってるよ。学院長が呼んでるよ。」

「が、学院長・・・。」


 カインは、修練場から出てきたユーリの後をついて行き学院長室前にたどり着く。


「ねぇユーリ・・・。やっぱこれって退学・・・?」

「はは。そんな身構えないでもいいと思うよ。カイン君。多分君にとってもそう悪い話ではないと思う。」


 ユーリの後押しで心が決まったカインは、『失礼します。』とドアを開く。


「待ってたよーーー?」


 部屋のソファに座って待っていたのは、ロリともショタとも取れるブカブカの白シャツを着た可愛らしい子供であった。


「カイン君。これが学院長のマスティマだ。」

「は、初めまして。」

「これって酷いなーー。うん。よろしくねーー?カイン君。」


 膨れっ面になったと思ったらニコッと笑うマスティマ。


「あの・・・なんで僕はここに呼ばれたんでしょうか?」

「あのねーーー。君ももうある程度予想ついてると思うけどねーー。君、禁足地入ったでしょ?」

「ッ!!」


 あまりに突然の殺気に思わず、カインは後方にジャンプし戦闘態勢に入る。

 ユーリは流石と言うべきか、殺気をまともに受けても動じずに頭を抱えていた。


『マスティマ・・・俺の相棒を脅かすなよ。』

「ははは!!すまないすまないイヴ。それにしても凄いね。さすが()()()()()の身体能力を持つだけある。それは先天性のものかな?本当に魔法だけに囚われ君を無能と罵っているバカ共に聞かせてあげたいよ。どうせなら剣術とかに優れた学院で剣術を教わりその身体能力を利用して伸ばして欲しかったけどそれも違うんでしょ?」


 心做しか口調も変わっているような気がするマスティマはニコッと笑みを浮かべると、机を挟んだ前のソファに座るよう促す。


「安心してね。別に僕は君をどうこうするつもりはないよ。事情も知っているからね。」

「知っている・・・?」

「うん。この学院内の事は全て僕は見ている。所謂傍観者と思ってもらって構わない。」

「それで・・・僕はどうなるんでしょうか?」

「だからどうにもしないって。ただ君にはやるべき事があるだろう?」


 ニコッと笑うマスティマ。

 その言葉にカインは頷く。


「僕は・・・。僕はイヴリールさんと仮契約を結びました。」


 その言葉を待っていた。そう言わんばかりの笑みを浮かべるマスティマ。


「知っている全て見ていた。」

『ったく性格悪いな。』

「ははっ。すまないなこれは元からの性格でね。」

『知ってるさ。』

「知っての通りそこの彼は僕の親友でもある。はるか昔からのね。天使と悪魔どちらにも属さないはずの僕がこの総合学院で学院長をしているのもそれが理由さ。今は罪咎天使としての枷をはめられているイヴリールだが、これから数々の戦闘をこなして行くことで君とイヴの中でも新たな変化が生まれることだろう。僕は何も出来ないけど応援してるよ。あくまでも中立であるからね。どちらかに明らかに偏ったとあれば僕の存在自体が消滅してしまうからね。数千年と生きてきた僕だけどまだこの世界の未来をみたいからね。」

「は、はぁ。」



「あ、そうそう。ゼクスくん達の処遇はどうする?消す事もできるけど?」

「・・・え?」

「え?って当たり前でしょ?彼らは禁足地に無断で侵入。更には学院の生徒を魔法を使いリンチし禁足地へ投げ込んだんだから。因みに禁足地の場所を教えたのは君を毛嫌いしてる老人教師だったらしいね。名前は忘れちゃったけど。

 禁足地の場所は教師のごく僅かしか知らないはずだからね。誰かがポロッと口にしちゃったのかな?どんな理由であれ、彼らは禁足地に足を踏み入れてしまった。君に処遇は任せよう。」


「・・・・・・じゃあ命は奪わないであげてください。」

「・・・・・・ほう。」

「追放という形で終わらせてもらうことはできませんか?」

「んー。記憶を消せばどうにでもなるだろうけど・・・いいのかい?あの子たちにはかなり酷いことをされたろうに。」

「いえ。あれは僕の自業自得とも言えるでしょう。ですが僕は間違ったことをしたとは思ってません。」

「ははっ。面白い子だ。ユーリとイヴが気に入るだけのことはあるよ。それに君のような真っ直ぐな子にならばイヴを任せることができるよ。ただし・・・分かってるよね?」


 そこでマスティマの雰囲気は一転する。

 先程までとは比べ物にならない殺気を醸し出しこちらを睨む。


「イヴは『罪咎天使』だ。この学院にいる間ならば安全かもしれないが、君は『罪咎天使』と手を組んだ反逆者となる。天使と敵対し、悪魔と同一視され。無能と呼ばれている今よりも苦しい生活を強いられることになるかもしれない。君が生半可な覚悟でイヴと契約すると言っているのなら・・・僕はイヴを君から遠ざけねばならない。そうだねぇ・・・。僕は一週間この学院を離れなければならない。だから・・・。うん。一週間後。君の決意を聞かせてね。」

『ほんとに良い性格してるよマスティマ』

「それはどうも!」

『褒めてないんだがな。』


 凄まじい殺気を瞬時に消し、マスティマは掴みどころのない笑みを浮かべる。


 この時はまだ知らなかった。あんな事になろうとは。

 かつての惨劇の記憶を鮮明に・・・

 そして悪魔という存在を・・・

 カインは再び思い出すこととなる。



爆速で書き進めております。

Pt評価やブクマなど作者の励みとなるので是非よろしくお願いします。

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