第28話.暗躍する魔人
「また・・・・・・か。」
目が覚めるともはや馴染みのある天井。
「あのねぇ。何度大怪我してここに運ばれてくるんだい君は。」
これには返す言葉もない。
「まぁ、ルエリア君と戦ってその傷で済んだというのは、君の体が丈夫なことを意味しているけども。だよ。」
「ご迷惑おかけしてます・・・・・・。」
苦笑しながらベッドに座ったままコルに一礼する。
「まぁ良いよ。一回戦に関しては相手の反則であの怪我を負っていたんだ。仕方ないという他ない。」
カインにそう告げ何かをぼそっと詠唱したコルの袖の中から黒いナニかが現れる。
「カラス・・・・・・?」
「ん?あぁ。使い魔さ。」
袖の中から出てきたナニかの正体は、カラスの使い魔。
コルは手の甲に乗せるとカインに聞こえない程度の声でカラスに呟く。
「何してるの?」
「君と話したいという人間がいてね。安心するといい。面識はあるはずだ。」
バサッと翼を広げて地面にあるコルの背後の影に隠れたかと思えば、そのまま影に吸い込まれるようにして溶けていくカラス。
「面識・・・・・・?ゲイル先生・・・・・・?」
「惜しいね。ミリアだ。」
「ミリア先生って確か、Sクラス副担任の『暴れ姫』だよね?」
「そうだ。実はね場内に巡らされた結界を作り出したのはマスティマだけど、当日の未登録武器所持者を見極めているのはミリアでね。彼女は『看破の魔眼』の持ち主だ。」
「魔眼ですか?」
「あぁ。ミリアの魔眼には攻撃性などは無いが嘘を見抜くという面では常人を逸脱しているよ。まぁ低位の魔眼だが使い道は嫌という程ある便利な能力だ。」
『まぁここからは本人から聞くといい。』それだけ言うと、コルは自らの仕事へ戻るため少し離れた場所にある席へ腰を下ろす。
「失礼します。」
気を見計らった・・・・・・否、コルが気配を感じとり去った数秒後にミリアがドアから顔を出す。
「あ、カイン君・・・・・・でしたよね。改めまして私はSクラス副担任でありAクラス冒険者のミリアです。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
軽い挨拶を交わした二人。
「本当ならば、もう少し早く謝罪に来たかったのですが・・・・・・。
都合が合わず・・・・・・ごめんなさい。」
「謝らないでくださいミリア先生!」
「いえ。これは教師であり責任者である私の誤認が招いた事です。」
「コルのおかげで傷は治ってますから。大丈夫です。」
「生徒を守るのが教師である私の務め・・・・・・なのですが、直接的ではないにしろ今回あなたを傷つけることになりました。」
「ルシファーと対峙した時に比べれば全然マシです。」
何度も頭を下げるミリアを制止しながら、カインは苦笑する。
「ミリア先生を責めるつもりはありません・・・・・・。」
だが、何故コルにあれほど言わせる魔眼を騙し、ルードが未登録の武器を持ち込めたのか。純粋な疑問がカインの中にはあった。
「あれは、恐らく私の魔眼と結界を凌ぐ隠蔽魔法の類でしょう。」
「隠蔽魔法ですか?」
「えぇ。ましてやマスティマ学院長の結界の精査・・・・・・をくぐり抜けるとなると古代級の。」
「何故そんな魔法をルードが?」
「あなたも関係者の一人ですからお話しておきます。」
ミリアは、眼鏡に人差し指で触れると言葉を続ける。
「マスティマ学院長からお聞きしました。先日グラゴラと対峙したことを。」
「・・・・・・はい。」
「その日グラゴラはなんと?」
「近々・・・・・・会うことも・・・・・・。ってことは。」
「えぇ。古代級を使えるともなると相当な実力者。そして古い文献からするとグラゴラというのは相手に力を『貸し出す』ことの出来る魔人といいます。」
「今回の件にはグラゴラも関わっている?」
「えぇ。それはまず間違いないでしょう。そしてもう一つ。セルビオさんです。彼はウィズさんに勝っています。本来ならばSクラスに勝つという素晴らしい戦績と言えますが。今回は・・・・・・。」
「今回は?」
「ユーリ先生にも聞き意見を共有しましたが、セルビオさんの魔力の巡りが些かおかしかったのです。」
本来ならばそこで止めるのが良かったのですが・・・・・・とミリアは罪悪感を感じているのか、若干俯く。
「ユーリ先生曰く、セルビオさんが施しているのは身体能力強化です。」
「身体能力強化ですか?」
「えぇ。それもユーリ先生と同等であると本人からお聞きしています。」
「ユーリと!?」
イヴが言っていた。彼は序列一位のレイにも匹敵する。と。
「それほどの身体強化を施して戦闘をしていたならばSクラスの子達も気付いておかしくないのですが・・・・・・。これに気が付いたのはマスティマ学院長とユーリ先生。そして魔眼持ちの私です。」
つまり・・・・・・。
「セルビオさんも隠蔽魔法を借り受けたのでしょう。」
「今すぐに対処すべきでは・・・・・・」
「いえ。悔しいですが出来ません。彼が明確な敵対行為をなさなければこの学院では校約により裁けないのです。」
校約とは、マスティマが定めた学院の掟であり、この学院ではそれが遵守される。
その中の一つに、教師は守るべき対象である生徒に危害を加えてはならない。という校約がある。
その為、敵対行為と見なした相手以外に危害を加えることが出来ないのだ。
「問題は・・・・・・」
ルードがどうやってグラゴラから祝福を受け取っていたのか。
そして、セルビオという生徒はグラゴラとどういう繋がりがあるのか。
「グラゴラ自体の能力が昔の文献にしか残ってないため、本来の実力や能力の詳細などが不明なんです。」
「マスティマ学院長やイヴならば何かを知ってるのでは・・・・・・。」
「いいえ。カインくんも知っての通りあの方も確かに天使や悪魔と同等の存在ではありますが、あくまで中立。学院長やイヴさんのご友人としてという立ち位置ならある程度こちらに加担することは出来るでしょうが、天使や悪魔についてどちらかの有利に働く行為をすれば即座に存在自体が消滅してしまうため本人は『知らない』などで話を終わらせてしまうでしょう。」
天使や悪魔などはアベルの惨劇以来、世界で認知された存在であったが、罪咎として封印されていたイヴに関して知っているとなれば、ミリアもマスティマ学院長が認めた信頼のおける教師の一人という事であろう。
「じゃあイヴは・・・・・・。」
『残念だが俺が戦ったのは2000年も前だ。
以前とは勝手が違う。恐らく最高峰の悪魔である魔王たちも、それに連なる魔人達も、あの日のルシファーと同等と考えるのが良いだろう。』
今まで言葉を発することがなかったイヴが、カインの視線に気が付き言葉を返す。
剣が喋るというのは、よく考えると面白かったのかカインの口角が若干上がる。
『何を笑っている?』
「いや、ごめん何でもないよ。」
気持ちを切り替え、再び真剣な空気が部屋を包む。
「実力を知るには、実際に対峙するしかないという事だよね。」
『あぁ、他の天使達ならば知っているだろうが・・・・・・。残念ながら俺は仲違い中だ。ガブリエルも俺が罪咎となって直ぐに天使たちを見限りソフィと契約したとあいつ自身が言っていたことを考えると情報を持っているとは考えにくい。あと一つ可能性があるとするならば。』
「天使とともに悪魔たちを追いやったSクラス冒険者たち・・・・・・だね?」
「残念ながらそれも厳しいかと・・・・・・。」
ミリアが申し訳なさそうに会話に割って入る。
「世界の混乱を招くことを恐れ『追いやった』という形にしていますが・・・・・・。実際には救われた。という方が正しいでしょう。」
『悪魔側に本気で戦う意思が見られなかった。ということか。』
「つまりは、悪魔側は本気を出すことで実力が顕になることを警戒し魔王大陸へ一時的に避難した・・・・・・と?」
『悪魔側・・・・・・というより、アベルとルシファーだろう。あれは魔王大陸を拠点としていた悪魔である八曜魔王達と元より魔王大陸に存在していた七罪魔人達の協力を経て護衛してもらっていたというのが正しい。』
つまりは、実力の一切をその場で出していないにも関わらず実力が拮抗したまま、魔王大陸へ帰還した。ということだ。
『そこからみてもわかる通り悪魔や魔人たちの戦力は、想像を絶するものとなっている。七罪魔人や八曜魔王・・・・・・一人で小国を滅ぼせるぐらいに・・・・・・な。』
「小国を・・・・・・『カインくん!』」
保健室のドアがバタンと開き、赤く綺麗な髪と少し潤んだ瞳で心配そうにこちらを見つめて名前を呼ぶ生徒が一人。
「リゼさん。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!心配したんだから・・・・・・。」
どうやら、コルはミリアに連絡すると同時にリゼさん達にも目覚めたと通達していたようだ。
「ごめんね。リゼさん。」
「毎回無茶しすぎだよ・・・・・・。」
そんな二人を見てか、ミリアは微笑み椅子から立ち上がる。
「では、私はこれで。」
「え、あ。ありがとうございました。色々とお話聞けて良かったです。」
「いえこちらこそ。再度謝罪にさせてください。この度は本当にごめんなさいカインくん。」
カインの制止を無視して謝罪するミリア。
「それと。三回戦・・・・・・。何か嫌な予感がします。こちらも警戒していますが、カインくんもお気を付けて。」
そういうと保健室から颯爽とさり、入れ替わるようにソフィやガブリエルなどがやってくる。
「・・・・・・カイン。負けたけどよくやった。」
皆に囲まれながら、和気あいあいと話していたカイン一行だったが、最終的に保健室の長であるコルから『静かにしろぉー!』とお叱りを受け保健室から追い出されることとなった。




