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第2話.復讐

第二話です。

 

「んー。よし。今日も異常はなしだね。」

「異常なしって事はやっぱ僕が魔法行使出来ないって事じゃない?」

「やー困ったね。君は本当に不思議な体をしているね。魔力の魔の字もないよ。普通魔法の使えない人々でも微量の魔力ぐらいならあってもおかしくないんだけどね。まぁそれはそうとして。」


 ユーリはニコッと笑い人差し指を立てる。

 これは、問題を出す時のユーリの癖だ。


「問題です。契約天学をするために必要なものは何?」

「親和性と、契約を結ぶ相手と契約者との間に絆を作ることかな。」

「そうそう。やっぱ君は優秀だね。そしてそれさえ出来れば契約は完了する。はずなんだけどそれさえも今の時代本当か定かは解明されていないからね。あくまで過去の文献による認識だ。」

「なるほど。」


 そしてユーリは続ける。


「マスティマ学院長から君への伝言だ。君・・・。惨劇の日にさ。何者かを見なかったかい?」

「・・・・・・何・・・ものか?」


そう言われて思い浮かぶのは1人しかいない。

ピンチを救ってくれたあの美しく勇ましい何者かの姿。


 ユーリは頭を掻きながら笑う。


「あるんだね?」

「ある・・・。あります。」

「どうしたの?」

「十枚の翼が生えている中性的な綺麗な顔立ちの天使に助けてもらった・・・。」

「・・・・・・今なんて?」


 ユーリの表情が若干変わったような気がしたカインだったが、再度答える。


「・・・・・・やはり。か。」

「やはり?」

「君があったのは天使で間違いないよ。それも熾天使と呼ばれる最上位の天使だ。」

「熾天使!?」


現代に残る数千年前の文献によれば熾天使というのは天使の階級の中でも最上級のものであり、神に最も近いものである。とまで言われている。


「つまり、君はイヴリールと縁を・・・。」

「? 今何か言った?」


ボソッと呟いたユーリの声が聞こえず聞き直すカイン。


「ん?あ、あぁ何でもないよ。」


 ここで二時限目終了のチャイムが鳴り響く。


「おっと。そろそろ時間だね。自習にしてるから生徒たちもチャイムが終わったら次の授業に向かってるだろう。カイン君。その事は誰にも言ってはいけないよ。イヴリ・・・天使のことに関しては『学院長』に話をつけてみるよ。」

「? う、うん。じゃあ僕はこれで。」

「うん。また明日ね。」


 カインは一礼し、研究室から出ていった。


()()が一番イヴリールのことを知っている。悪魔でもなく天使でもない神の作り出した中立の存在。だけどマスティマは何か知っている。何せイヴリールの親友だからね。」


 ニコッと笑いユーリは、注いだ紅茶をこくりと飲む。













「何で学院長なんだろう?」


 ふとその疑問が口に出てしまうカイン。


「まぁそれも明日分かるだろうし・・・。今日も頑張ろう。」


 そうしてカインは一日授業を終え、放課後となる。

 皆、部活に勤しむ中のカインは一人寮へと帰る。

 この学院の部活もさほど普通の学院と変わらずサッカーやバスケなどのスポーツがある。

 スポーツなども元々はるか昔の勇者様達の世界のものらしい。

 部活なんてそもそも無能と言われ嫌われている僕には関係の無いことだ。

 カインはそう考え、足を進めていると後ろから声がかかる。


「あ、あの!!カインさん!!」


 聞き覚えのない女性の声にカインは振り向くとそこには、先程嫌がらせを受けていたリゼの姿があった。


「君は・・・確かリゼさんだったよね。」

「はい!さっきは助けていただいたお礼が出来なかったので・・・。もし良かったらお茶でも!!」


 頭を下げるリゼにカインは苦笑し答える。


「やめておいた方が良いよ。君も知ってるだろうけど僕何かと生徒たちから無能呼ばわりされてよく思われてないから。関わらない方がい・・・」

「か、関係無いです!!」


 突然の大声に少しビクッとするカイン。


「リゼさん?」

「あの。一回だけでも良いのでお茶を・・・。」


 潤んだ瞳かつ上目遣いで擦り寄ってくるリゼ。

 が、カインはいつもの好奇の目とは別に邪な視線を感じ取る。


「・・・・・・。ごめんねリゼさん。また今度でも良いかな?今日はちょっとやらなきゃいけないことが。」

「は、はい!分かりました!必ずですよ!!」


 右手をがっちりとリゼの両手でホールドされる。


「う、うん分かったよ。じゃあまたね。」

「はい!」


 ルンルンとスキップしながら女子寮へと向かったリゼ。


「さっきの視線は・・・やっぱ懲りなかったか。」


 その視線の先を流し目で見やるとやはり、相手はリゼに関係を迫っていた三人であり、リゼの迫りようをみた三人はカインに憎しみに近い感情を込めた視線でこちらを見ていた。

 この二ヶ月で人の視線に込められた感情には痛いほどに敏感になっていた。


「仕方ない。リゼさんに被害が及ぶ前に。」


 とは言っても、先程は理解のあるユーリの授業であったため正当防衛で終わることが出来たが、この学校の教師は基本的に平民であり『無能』である僕に厳しい。


「言葉で平和に解決するしか。」


 流石に魔法を行使してまでこちらに危害を加える気はないだろう。

 あちらもそこまで落ちぶれてはいないはずだ。


 カインは、そちらの三人の方をしっかりと見据え、視線で人目のつかない普通科棟の裏へと誘導する。

 遠目で見た限りだと、舌打ちをしていたがどうやら意を汲み取ったらしい三人は棟の裏へと足を運ぶ。


「とは言ってもあの三人を説得する材料なんて・・・」


 結局説得する材料を見つけられずに、棟の裏へとたどり着いたカイン。

 そこには案の定三人がニヤニヤと笑い待ち構えていた。


「あのさ。君たちまだ諦めてないの?」

「諦める?何でだ?俺たちが最初に目をつけた女だぞ?あとから出てきた無能なんかに渡すかよ。」

「そーだそーだあの女はアイアス王国ローグラム子爵家ゼクス様の性奴隷として買われることに・・・」


 性奴隷。その言葉を耳に入れたカインの表情は殺人をも厭わないと思えるほどに恐ろしい目付きで、取り巻きである二人はしりもちを着く。


「「ひ、ひぃぃぃ。」」

「お、おい。こんな奴にビビってんじゃねえぞ!!こいつは、魔法すら行使できなかったのにこの学院に入った無能。俺たち3人でかかればどうってことないさ!!この学院は俺たちのような魔法が使えるエリートだけが通える学校なんだから!!」


 やはり。予想は的中したようだ。

 こいつらは人目のないこの場所で魔法を・・・それもこの学院内で。


「それが何を意味するか知ってるの?この学園に対する侮辱行為であり法を逸脱する行為だよ。下手すれば君たちはこの大陸に居られなくなる。」


 カインの忠告を聞いたゼクスは、考えを改めるかと思ったが『ハッハッハッ!!!!』と甲高い声で笑いこちらを見る。


「バレなければいいんだよ?君はこれから大人しくやられていればいいんだ。」


 一度Sクラスの一人である天才少女の魔法構築をこの目で見たことがある。

あいてに術式を気取られず、瞬時に発動へと映るその手際の良さ。

こいつらとはレベルが違かった。


「君たちがその気なら。」


 カインの目付きは鋭く。

 ゼクスが瞬きをしたその一瞬でカインは姿を消す。


「・・・え?」


 目の前から消えた無能にゼクスは思わず変な声を出す。


「は、ははははは。逃げたのか!!あの無能!!マスティマ総合学院の生徒ともあろ・・・」

「誰が・・・逃げたって?」

「ひぃっ!!!」


 背後から聞こえた声に振り向いたゼクスだが、既に取り巻き二人は意識を刈り取られていた。


「お、お前!!何をした!!ひ、卑怯な手でも使いやがったか!!」

「卑怯な手?使ってるのはお前らだろう?リゼさんに何を吹き込んで脅しているのか知らないけど、これ以上彼女に関わるのなら・・・」


 カインはゼクスの股の間に力強く足を踏み込む。


「ひっ!!」

「分かってる・・・よね?」


 笑顔で告げるカイン。

 普段静かな人程怒ると怖いというが、カインからするとこれでもまだ優しく告げている方だった。


「くっ!!くそっ!!」


 ゼクスは足をガクガクと震わせながら取り巻きを置いて一人で逃げて行ってしまう。


「あ!待って!この二人・・・は・・・。」


 棟の角を曲がり姿が見えなくなるゼクス。

 暫くどうしようか悩んでいたカインだったが結局二人を置き去りにして寮の自室へと帰ったのだった。











「ふぅー。」


 一風呂浴び、濡れた髪のまま自室の椅子に腰を下ろすカイン。


「あの様子だと諦めないだろうな。」


 後頭部に両手を回し、椅子を後ろ足立ちさせながら上を眺める。


「このまま・・・このままもしあの熾天使に会うことができなかったら僕は・・・。いや!弱気になってちゃダメだな。」


 カインはよし。と立ち上がりいつもの日課である夜のランニングをする為、寮の外へと出る。

 相変わらずの三国の中立の丘に立てられた夜は何故か独特な雰囲気を漂わせているがカインは嫌いではなかった。


 カインは軽く準備運動すると学院の外周をまわりだす。


「・・・・・・。」


 ここで何者かが後をつけてきていることに気がついたが、カインは気のせいだろうと気にせず走り続ける。


「・・・はぁ。はぁ。」


 数は三人。やはりこれは・・・。


 カインは、そこで立ち止まるとゼクスたちの隠れているであろう茂みの方へ視線を移す。


「あーあ。気付いてるのか。なら仕方ない。」

「なっ!?」


 出てきたゼクスとその取り巻き二人は殺気を醸し出していた。


「お前たち・・・それがどういう事なのか分かってるのか?」

「くくく。それは昼にも聞いたなぁ。だから言ってるじゃん。バレなきゃどうでもいいってさぁ!!!」


 ゼクスは襲い掛かる。

魔力を拳に纏い、身体能力強化を施しているのだろう。


「くっ!!」


 強化を施しているため身体能力も並外れたものになっており、いくらカインの身体能力が高いといえどそれをも遥かに上回るスピードでゼクスは攻撃を仕掛ける。

 カインが苦戦するのも無理はないだろう。

 生身で魔物以上の存在と戦っていることになるのだから。


 ゼクスはわかりやすいほどに顔を狙ってきているため不幸中の幸いか未だ攻撃は当たってはいない。


「くそっ!!風纏しても避けるのかよ!!」


 カインは回避しながらも思考をめぐらせる。

 先程居た二人がどこかに姿を消している。

 それを理解したカインは即座に口を開く。


「姿を消すところを見るとゼクス。君の取り巻き達は後方支援とか、遠距離攻撃を得意としているのかな。」

「うるせぇっ!!俺に恥をかかせた罪。必ず償わせてやるッ!!!」


 右ストレートを繰り出すゼクスの拳をギリギリのところで避け、後方へと下がるカイン。


「!?」


 後方へ数メートルほど下がると、左足に違和感が現れる。


「ッ!!掛かったな!!無能!!」


 左足を見やると、足には蔦が絡まっていた。


「なるほど。これが狙いか。」


 目を凝らし周りを見ると茂みの奥でゴソゴソと動く取り巻きの二人が居た。

 二人が恐らく、魔法を行使したのだろう。

『土属性』魔法だろう。


 これは詰んだ。そう思える状況に瀕したカイン。

 冷や汗を流しどうにか対抗策は無いか考えるが、やはり浮かばず。


「へっ。貴族様をバカにするからこうなるんだ。」


 蔦が強く絡まり身動きの取れないカインは、ゼクスの容赦ない一撃を受ける。


「ぐはッ!!!!」


 重い。腹に穴が空くのではないか。魔法を行使している相手の攻撃を生身で受けたカイン。

 あまりの痛みに吐血する。


「ぷっ。血吐いてやがるぞこいつ。お前が俺からリゼを奪うから・・・奪うからこうなるんだ・・・ぞッ!!」

「ぐぅッ!!!」


 殴られ四つん這いになった所を腹部に勢いよく入る蹴り。

 カインは意識が飛びそうになるのをどうにか抑える。


「なぁ。お前らもやろうぜ。」

「ゼクス君流石にもう・・・」

「終わりにしておこうぜ・・・」

「あ?お前ら俺に逆らうの?平民のくせに?俺自ら友達に選んでやったのに逆らうんだな?」


 脅しの意味を含めた言葉を二人に放つ。

 二人はその言葉に、体をびくっと震わせる。


「やれ?」

「「・・・・・・。」」

「そうか・・・ならもうお前らの親は・・・。あぁ残念だ。明日にはもうこの世に・・・。」

「う、うぉぉぉぉぉ!!!!」


 二人は、結局ゼクスに屈する形で倒れているカインを何度も蹴る。


(これは・・・まずい・・・意識が・・・。)


 魔力をまとった三人からの容赦ない蹴りを受け、意識を保つのがやっとだったカインはその場で意識を手放す。












(こ・・・ここは・・・。)


 恐らくはゼクスの取り巻きのどちらかに背負われている状態であろう自分の状況を把握する。

 何やら階段を降りているようだ。


「聞こえてるか?無能。この場所はな?マスティマ学院長が直々に『禁足地』として発表している学院のとある地下室だ。」


(地下・・・しつ?)


 パクパクと口を動かすカイン。

 ギギギィと音を立て開いた禁足地と言われる地下室のドア。


「ここから出てきたものは居ないんだぞ?何が潜んでるか分からないこの場所の餌食にお前はなれるんだ。有難く思え。」


 ゼクスは下卑た笑みを浮かべ、カインをドアの奥へと追いやるため勢いよく蹴り飛ばす。


「がはぁッ!!!」


 暗く奥の見えないドアの先。


(まっ・・・くら。)





 そこでカインの意識は再び途絶える。

みていただきありがとうございます。

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