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第27話.レベルワン

 

「ふぅ・・・・・・。」


 ルエリアから放たれるプレッシャーは凄まじく、心做しか呼吸まで荒くなっていく。


『行けるか?』

「・・・・・・正直無理だね。今の僕じゃルエリア先輩の足元にも及ばない。」

『だろうな。』


 美しくも猛々しいその立ち姿。

 雷鳴が奏でる音は、カインを威嚇するように激しさを増す。


『目には目を歯には歯を。』

「・・・・・・?」

『言葉通りの意味だ。相手も全力を持って神器を使いお前を倒しに来るから断罪器・・・つまり俺を使え。というな。』

「・・・・・・だね。」


 カインの右手には光が収束し、次第に剣へ。


「それは・・・・・・?」

「僕も全力で行かせていただきます。」


 途端に獰猛な眼差しと共にルエリアの口元が歪む。


「最高よ。カイン君。」


 蒼く輝く光とともに彼女の威圧感は、更に増す。

 竦んでしまいそうな足を必死に立て直しカインは、ルエリアを睨む。


『それでいい。相手は格上だ。殺し合いでなくともこれは真剣勝負。決して気を抜くな』

「うん、分かってる。」


 わずか数秒の静寂が会場を包む。



 ────来る。


 最初に静寂を割いたのはカイン。

 神雷共鳴で数段階能力が上昇しているルエリアに、攻撃を譲れば隙ができるのは一目瞭然。

 ならば、例え負けるとしても先に攻撃を仕掛けルエリアとの戦闘に目を慣らすことが最優先。という結論に至ったカイン。


「はぁッ!」


 圧倒的強者への恐怖は確かにある。が不思議と震えは止まっていた。


 金属音が激しく鳴り響く剣撃。

 互いに様子見で軽く剣を交えるが、僅かな隙にルエリアの剣筋が変わる。


『避けろッ』


 イヴの言葉に反応し、間一髪のところで避けたかと思えたが右腕に痛みが走る。


「よく避けれたわね。」


 感心したように呟くルエリア。

 かすり傷で済んだものの未だにジリジリと痛む右腕。

 剣と肌が触れた瞬間に体に走った電撃・・・・・・あれをまともに受ければ戦闘続行は厳しいだろう。


「どうもッ!」


 相手は序列五位の強者。

 右腕ばかりを庇っていれば、小さな隙が生まれる。

 彼女はその隙を確実に狙ってくるだろう。

 どちらにしても窮地に立っているのは変わりない。


断罪器(シャイターン)には、契約者への恩恵として治癒能力も携わっているが、一段階めの枷が外れているとは言えど今の治癒能力でこの傷はどうする事も出来ん。』


 ルエリアとの距離は僅か十数メートル。

 契約者としての恩恵を受けているカインの身体能力からみて、一歩踏み出せば剣を振りかざすことは可能。


『どうするカイン。』

「どうするって・・・・・・。」


 明らかな劣勢の中、ルエリアへの警戒を怠ることなく思考を巡らせる。


 真正面から行けば確実に返り討ち。

 背後に回ったとしても、ルエリアへ傷をつけるのは至難の業だろう。


「打つ手なし・・・・・・かもしれない。」

『最初からあのルエリアという女に勝つことは不可能だ。

 』

「それは分かってるけど!」

『良い機会だ。格上相手との対人戦というものをこの戦闘で学ぶといい。どうすれば圧倒的不利な戦況で生き残れるか。が今回は重要かもしれないな。』

「生き残る・・・・・・。」

『まぁ、今回は時間制限のある中での戦闘という事もあり多少は楽かもしれんが。』

「楽って・・・・・・。」


 目の前に立つルエリアはこちらを余裕の眼差しで眺めるばかりで一切、攻撃を仕掛けてこない。


「まだ来ないのかしら?カイン君。」


 余裕のある笑みを浮かべるルエリアに、思わずカインは苦笑する。


『これが隙になるかもしれないな。』

「ん?」

『簡単に言えばお前は無意識下で舐められてるんだよ。あの女自身にそういう意図は無くともな。』


 イヴが言うにはルエリアは、全力を持ってして向かってきた。がそのためより対峙する格下のカインとの間に差が生まれ実戦での緊張感すら抱けず今に至る。という事だろう。


『こればっかりは、対人の実戦経験が乏しいというのが主な原因だろう。』

「なるほど・・・・・・。」

『本当の殺し合いであれば、女も男も関係ない。どちらも対峙するならば敵だ。お前も躊躇うな。』

「・・・・・・分かってる。」

『・・・・・・。』


 実戦経験のなさで言えばルエリアよりも、カインの方が乏しい。

 ()()を使えばあるいは・・・・・・。


「・・・・・・イヴ。」

『やるか?』

「うん・・・・・・『契約天学(フェアトラーク) ── 権限解放(レベルワン)』」


 白く輝くオーラを纏い、前髪の一部分だけが白くなるカイン。

 契約天学(フェアトラーク)の奥の手である『権限解放』

 本来ならば契約天使との親和性が高まるほどに、強力になっていく『権限解放』だがイヴは罪咎であるため本来の力を発揮するには世界各地へと散った力を取り戻す他ない。


『おぉっと!?!?!?ここで、カイン選手奥の手か!?』


 大興奮の実況。

 カインは軽く苦笑すると、戦闘の妨げとなると判断しルエリア以外の情報を一切遮断し、より一層集中力を増す。


「へぇ・・・・・・。」


 纏う雰囲気が一変したカインを見て、ルエリアは笑みを浮かべる。


『第一段階の契約天学。やはりこの程度か。』


 イヴは少々残念そうにつぶやくが、それでもこの力は通常のカインとは比べ物にならない力を得ている。

 身体能力は数倍となり、心做しか先程よりも冷静に。

 黒目だった瞳は黄金色へと変化し、魔力をより一層緻密に感じ取る・・・だけでなく視認することが可能に。

 明らかな変化を遂げたにも関わらずやはり、未だに・・・・・・。


「勝てる気がしない。」


 ルエリアの放つ威圧は、あの日見たグラゴラと同等またはそれ以上。

 改めて戦況を覆すことは不可能だと察したカイン。

 だが、この大会のために費やした努力を無駄にはしたくない。


 未だ余裕の表情を浮かべているルエリア。


 「こちらから行こう。」


 イヴに同意を求める前に、カインは軽くルエリアに向けての一歩を踏み出す。


『な、な、なん・・・・・・だ?何が起こった?』


 思わず実況も動揺する。


 一歩踏み出したと同時に、会場内に台風の如く吹き荒れる風。

 そして激しく響き渡る金属音。


 会場内にいた少数の強者だけが、カインの動きを目で追うことが可能だった。

 そして標的であるルエリアはというと。


 「・・・・・・正直ここまでやるのは予想外よ。」

 「とは言っても受け止められてるんですけどね。」


 剣を交え追撃を恐れたカインは即座に後方へと下がり、再度攻撃を仕掛ける。


 「ふっ。」


 呼吸を整え、凄まじい速度で背後へ回ったカインだがルエリアは華麗に後方へ向き直り真上から振りかざされたカインの一撃を右へ避けながらも憂いを断つため自らの剣で往なす。

 息一つ切らさずに、全ての攻撃を丁寧に対応するルエリア。


 五感が鋭くなったカインの耳に、ズシンと響く金属音が鳴る。

 未だ剣は、ルエリアを捉えることが出来ず。


 「はぁっ!!」


 ルエリアはカインの振るうその剣の悉くを軽くあしらい後方へと下がる。がカインがそれを見逃すことは無く。

 断罪器に魔力を込め、ルエリアへ斬撃を放つ。


 「!?」


 予想外の攻撃を仕掛けられたルエリアは、僅かに動揺を見せるがまるで蛇腹剣が一つの完成された生き物かと錯覚するほどに、ムチのように扱い緩やかに斬撃を打ち消す。


 「さすがです。」


 敬意を込め呟くカインだが、攻撃の手を緩めることなくことは無く。

 また一歩踏み出し人間の域を軽く逸脱したスピードで、ルエリアの懐へ飛び込む。


 「『瞬雷』」


 懐に飛び込んだはずのカインの眼前にバチバチッと、激しい音が鳴る。


 「ッ!」


 危険を察知したカインは、前方に働いた勢いを何とか足で踏ん張り殺し斜め後方へと下がり瞬雷を回避する。

 背後で凄まじい雷鳴が鳴り響くのが耳に入る。


 「まだ行くわよ。」

 「・・・・・・え?」


 その言葉が聞こえたのは右耳のすぐ側。

 数秒前まで、目の前にいたはずのルエリアは瞬きの間に真横に到達していた。


 何とか、対処しようと試みるも時は既に遅く。

 右下腹部に激しい鈍痛が響く。


 「ぐぅッ!」


 痛みと同時に場内ギリギリまで吹き飛ばされたカインは、片膝を着き何とか平常を保つが、既に目の前には蛇腹剣の刃先が。


 「はぁッ!!!!!」


 恐れすら抱かせるその速度と、強力な攻撃。

 間一髪のところでカインは刃先を往なすが、既に余裕はない。


『・・・・・・あの女。』

 「間違いないよ。」


 確証を得た。


 「ルエリア先輩は、時間が経つ事にその速度と力を増している。」


 契約天学の権限解放を経てようやくまともに戦えるようになったはずのカインだが、ルエリアの底はまだ知れず。


 「もう終わりかしら?」


 手は尽くした。


『力の差が歴然・・・・・・か。』


 もう無理だ。

 いくら頑張ってもやはり無能だったのだろうか。


 「・・・・・・・・・。」


 絶望的な状況の中、今尚諦めていない生徒が一人。


 「カイン君っ!!!!!!」


 応援席から立ち、涙目でこちらを見やる赤髪の生徒。


 「リゼ・・・・・・さん。」


 心が折れそうになっていたはずのカインだが、彼女と目が合う。


 「こんな事しか言えないけど・・・・・・カイン君のしてきた努力は無駄じゃない!!私は近くで見てきたからっ!!!!!」


 両手を前で握りしめ。

 周囲を無視してこちらに大声で言い放つリゼ。


 「そう・・・・・・だ。僕はまだ・・・・・・。」


 ── やれる。


 「まだ立ち上がるのね・・・・・・。」

 「はい。応援してくれる友達が居るので。」

 「友達って・・・・・・まぁ良いわ。」


 呆れたような表情を一瞬浮かべたルエリアだったが、再起したカインに警戒を緩めず。


 「最後に・・・・・・。なぜこの剣が『靁竜剣(ケラウノス)』と呼ばれているのか。敬意を評してあなたに見せてあげる。

『権能解放 ── 靁神竜(ケラウノス)』」


 途端、蒼く輝くその雷が蛇腹剣を覆う。

 凄まじい雷鳴と共にまとわりつき、形を成す。


 「これ・・・・・・は・・・・・・。」


 最初は、その格が違う緻密かつ繊細な魔力コントロールに驚いていたカインだったが。


 「竜・・・・・・?」


 先程の『雷獣』よりも更に上。

 神性すら帯びているのでは?と思わず鳥肌すらたってしまうその凝縮された魔力量と息を飲む威圧感。

 意志を持っていると錯覚してしまいそうなほど、ルエリアの上を漂うその竜。


 ルエリア自身の能力は低下しているものの、それを補って余りあるこの目の前の何か。

 分かっていたことだが、序列五位『纏雷姫』の名は伊達じゃない。


 「これで終わりにしましょう。」


 蛇腹剣を軽く振るうルエリア。

 その動作で、目の前の竜は眼前に。


 「・・・・・・えっ?」

『避けろッ!』


 あまりの速度に状況が掴めず、思わず間抜けな声を出すカイン。

 イヴの言葉すら既に遅く。


『カイン・・・!・・・・・・イン!』


 朧気な意識の中イヴの声を聞きながら

 そのまま、意識を手放すカイン。




 しばらくの静寂の後、会場内に実況の声が鳴り響く。


『しょ、勝者・・・・・・学院序列五位・・・ルエリア・グロームッ!』


 激しい戦闘の末あっけなく終わったその、凄まじい歓声の中綺麗な所作でお辞儀をし会場を去るは戦闘の勝者ルエリア。

 この戦いで誰もが無能だったカインという一人の生徒を認めざるを得ず。


 この日のルエリア戦は幕を閉じた。


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