第26話.契約者と適性者
『こちらでも細心の注意を払って警戒しておこうかー。』何とも緊張感のない喋り方で、しかしどこか畏怖を感じさせるようなプレッシャーを放っているようで。
マスティマは顎に手を添え言っていた。
『二回戦出場者は、ステージへ。』
グラゴラの事が引っかかる中放送が鳴り響くと共に、カインはステージへ足を運ぶ。
「だい・・・じょうぶなはずだ。」
グラゴラがあの森にいた理由ははっきりとは分からない・・・が、嫌な予感が留まることは無い。
この学院も無関係とは言い難いからだ。
刻一刻と迫る纏雷姫との二回戦。
カインは、ステージへと登る。
今回の観戦者は多く、百人程はいるだろうか。
やはり、Fクラスの無能とSクラスの纏雷姫の戦いという事もあり注目されているのだろう。
『ルエリア様ァァァァッ!!』
『相も変わらずお美しいッ!!』
『カイン君ッ!!頑張ってぇぇえッ!!』
「・・・・・・リゼさん。」
ルエリアに数多くの声援が飛ぶ中、リゼは立ち上がりカインを応援していた。
「ありがとう。」
『良い子だな。』
「うん。」
今は戦闘に集中しよう。
カインは、気を取り直し対峙していたルエリアを見る。
「・・・カイン君だったかしら。」
「はい。ルエリア先輩。」
「頑張ったのね。」
聖母のような頬笑みを浮かべるルエリア。
「はい。自分にも強くなりたい理由があります。」
「そう。だからといって加減はしないわよ。」
右手を左手の指輪に翳すと、ブォンと音を立て現れる蛇腹剣。
「光栄です。」
『良いか。俺は正式な武器として認められている。いざとなったら俺を使え。』
「うん。分かってる。」
カインも黒手袋を付け、ドクンドクンと早まる鼓動を落ち着かせるため呼吸を整える。
初めてのSクラス生徒・・・それも序列五位である『纏雷姫』との戦闘。
『さぁ!!まもなく始まります!!Aグループ二回戦!!これを勝ち上がれば、Aグループ勝者とBグループ勝者の準決勝!!どちらが勝つのか私には予想が出来ませんッ!!
『無能』と呼ばれていたはずが、オリンピアへ出場を果たし一回戦では反則をものともせず漢を見せたカイン選手!!
そして、『纏雷姫』と呼ばれる学院の序列五位ッ!!ルエリア選手!!さぁ・・・・・・』
「貴方・・・かなり無茶したらしいわね。」
どうやら、一回戦目の映像を見たらしいルエリアはため息を吐きながらカインに投げかける。
「はは・・・。まぁ・・・はい。」
「それ以前のことはハルヒメからも聞いているし、あまり無茶ばかりしてると身が持たないわよ。」
「ご忠告ありがとうございます。でも大丈夫です。」
「まぁ良いわ。」
『カイン選手ッ!!下克上なるか!!これよりAグループ二回戦ッ!!』
先程までの緩やかな空気が嘘のように一変。
ルエリアの纏う雰囲気がガラリと変わる。
「・・・・・・。」
その様子を一番近くで感じ取ったカインは、プレッシャーに当てられ怖気づく事無く、開始の合図を待つ。
『始めッ!!!』
「ふッ!!」
先に仕掛けたのはカイン。
「『全体強化』」
が・・・しかし。
「『瞬雷』」
バチッと何かが頬を掠める。
「・・・・・・え?」
カインの視界にすら捉えることの出来ないスピードで横切った雷は、後方で凄まじい衝撃音をたて爆発する。
「何が・・・?」
何が起こったんだ?
映像では何度も見ていた『瞬雷』
それは、ルエリアの得意とする雷の最上級魔法。
青く光るその輝きだが、目で追えるとするならそれはルエリアと同等、またはそれ以上の強者だけだろう。
掠めるだけで体には激しい電撃が走り泡を吹く。
一回戦目はこれで、相手を容易く倒したルエリア。
幸い、契約者として上昇した身体能力もあり何とか初撃で気絶は防げたがこんなものを何度も受けていれば負けるのは時間の問題。それに・・・。
「これが・・・最上級・・・?」
違う。この速度といい、この破壊力といい既に彼女は次のステージへの成長を進めている。
所謂、『神代魔法』という現代でも使えるものは百人にも満たない伝説の力への成長を・・・だ。
契約者ならまだしも・・・この年でここまで才能を持った人間も稀有だろう。
「カイン君?来ないのなら私から行くわよ。」
余裕の表情でこちらを挑発するルエリア。
最早、自分の体が強敵と対峙し緊張と恐怖で震えているのか、それとも未だ見ぬ強者に自分がどれだけ太刀打ちできるかを考える武者震いを起こしているのか分からなくなってくる。
「やれるとこまで・・・。」
ルエリア先輩の肩を借りるつもりでやってみたい。
それが導き出した結論だ。
「『全体強化』」
全体強化の重複。一回程度ならまだこの体も耐えうるはずだ。
「ふッ。」
呼吸を整えたカインは、まだ誰にも見せたことの無い尋常ではない速さでルエリアへ詰め寄る。
「速いわね。」
しかしルエリアは、驚いた様子もなく蛇腹剣を鞭のように振るいカインの間合いを警戒し後方へ下がる。
「はぁッ!!」
しかし、カインもそれに対抗するように蛇腹剣を拳で迎撃しながらもルエリアとの距離を詰める。
「『神靁共鳴』」
蒼く輝く神秘的な雷で自身を包み・・・否纏うルエリア。
紫色の綺麗な髪は、蒼く光り輝き紫の瞳も蒼く変化する。
これが『纏雷姫』という異名となった所以だ。
蒼い雷を纏った彼女は、疾風迅雷という言葉に相応しい。
生き物としての格が一段階上がると言ってもいいこの魔法を編み出したのも彼女自身。
雷の如く走るその速度は音速にも匹敵し、バチバチと音を立てるその体は雷鳴の如く鳴り響く。
「『雷獣』」
詠唱とともに、ルエリアの右隣に雷で創られた虎が現れる。
『ガルゥゥッ・・・・・・。』
あれは魔物でも何でもない。間違いなく魔法で作られた魔法生物。
ルエリアを倒せば消えるであろうその虎だが、カインにはルエリアに近づく術すらない。
「行きなさい。」
『グルゥゥッ!!』
虎は、ルエリアの指示を受け雷鳴の如く叫びカインへ襲いかかる。
「はぁッ!!」
幸いなことにどうやらこの手袋は魔法防御が施されているらしく、最上級の攻撃魔法ならば何度も耐えうるほどに強力な手袋だったため、この手袋を通しての攻撃ならばいくら雷で作られた魔法生物といえどこちらに通電することは無い。
或いはかつて、異世界から伝わり日常で使われるようになったゴムならば・・・とは思いはしたものの、恐らくは・・・無理だろう。
神代魔法への成長段階にあるルエリアの魔法に対抗するのならば、魔法以外ないのだ。
目には目をと言うやつだ。
『ガルゥッ!!』
牙を剥き出しにして、襲いかかってくる虎の腹部に一撃を与えた隙に再度ルエリアに詰め寄り攻撃の隙を窺う。
「あの距離を一瞬で・・・カイン君。貴方本当はSクラスに居てもおかしくないわね。」
「どうもッ!!」
カインは、ルエリアの言葉に半分耳を貸さず全力で右拳を振るうが、いとも容易く左手で往なされる。
「背後・・・大丈夫?」
分かってる。
「はぁッ!!」
往なされる事を予め予想していたカインは、そのまま地面に転ぶ勢いで右手を付き、背後から襲いかかる虎への迎撃のため右手だけで跳び体を翻す。
『ガルゥウッ!!!』
着地すると既に、目と鼻の先に来ていた虎。
「ふッ!!」
カインは、しゃがみ攻撃を回避すると再度腹部に拳をのめり込ませる。
瞬間、一度は虎の腹部に穴は空くもののルエリアの魔力供給もあり瞬時に修復される。
無論、魔力消費も激しいと予想したカインだったがルエリアに魔力の枯渇を望むのは厳しいであろうと判断し、既にその線は諦めている。
『やはりッ!!『纏雷姫』凄まじいッ!!蒼く光り輝くその姿はまさに神秘ッ!!圧倒的に優勢な状態を築いているぅぅぅぅッ!!!!』
実況の言葉に歓声が湧く観客席、だが完全アウェイという訳でもなく、少ないがFクラスやリゼの声援なども耳に届いてきていた。
『しかししかし・・・?対戦相手であるカイン選手も不利な状況でありながらも、まだその表情には余裕がある様子ッ!!これは反撃に期待できるぅぅぅうッ!!』
そんな無茶な・・・。
実況をしている人物に苦笑をうかべるカイン。
「まだまだいけそうね?カイン君。」
ニヤリと妖艶な笑みを浮かべ獲物を見るような視線でこちらを睨むルエリア。
「この状況のどこに余裕が見えるんですか・・・。」
「話せている時点で、随分と余裕そうだけど・・・。」
虎の猛追を受けながらもそれを軽々と躱すカイン。
「いや・・・・・・正直かなりきついですよこれッ!!」
虎の頭部に凄まじい打撃を与え、一度は霧散するもののまた復活するその再生力にため息を吐くカイン。
「・・・・・・電虎は、いくら殴っても無駄よ。」
「そうでしょうね。」
淡々と述べるルエリアに頷きながらも、電虎への攻撃の手を緩めないカイン。
『ガルゥ・・・・・・。』
無傷のまま、電虎はカインにプレッシャーを放つ。
キリがない。そう思ったカインは、ルエリアと電虎から距離をとる為数メートル後方へと跳ぶ。
電虎は、そのまま追撃を行うことなくルエリアの元へと近寄る。
「カイン君・・・貴方強いわね。」
電虎の頭を撫で、流し目でこちらを見やるルエリア。
「ありがとうございます。」
「そんな貴方に・・・敬意を評して見せてあげるわ。」
途端に、電虎は霧散し光る粒子となる。
「これを見せるのは、アヴァンスと本気で戦闘した時以来かしら。」
青く光る粒子は、そのままルエリアの蛇腹剣へと吸収される。
「ッ!!」
あまりに強大な力を前に、カインは更に後方へ。
「『靁竜剣 ── 権能解放 』」
過剰なまでの魔力の流れ。
暴発寸前に見えるその膨大なまでの魔力を、コントロールし自らの力としているルエリアはもはや、人間と呼べない領域にいるとしか思えない。
『これはッ!!これはこれはこれはこれはッ!!ルエリア選手・・・まさかまさかの『神器』の権能解放ッ!!カイン選手を対等の敵と見なしたかッ!!』
神器・・・それはかつて神々が使ったとされる伝説の武器。
今では国宝とされるものも多いが、代々受け継いできた家宝として扱われる武具も多数。
そしてグローム家が代々受け継いで来た武器がこの『靁竜剣』である。
神器は自らが認めるものにしか自らの行使を許さず。
今まで、グローム家に適性者がいなかったため武器として使われることがなかった『靁竜剣』だが、今代の適性者として選ばれたのがルエリアである。
完全に操る事が出来ればその力は天使の固有武器と同等・・・またはそれ以上のものもある。
ケラウノスは、中でも最高峰に値する神器である。
「さぁ・・・カイン君。いつでも良いわよ?」
妖艶な笑みを浮かべ、こちらを挑発するするルエリア。
「・・・・・・。」
恐怖で竦みそうになる気持ちを奮い立たせ、カインはルエリアに再び対峙する。
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