第25話.一つ目の化け物
みんなと別れ冒険者ギルドへ向かったカインは、ソフィとイヴと共にいくつかの依頼をこなす為、セレネ大森林へと向かう。
既にCランクとなっていたとカインのこなせる依頼は数多く、選ぶのに困ることは無かった。
『何か森が静かだな』
「・・・うん。何か不穏な静けさ・・・だけどね。」
「・・・・・・警戒は怠ったらダメ。」
二人は森の中を駆けながら、一つ目討伐対象であるコボルト達の元へ向かっていた。
夕方だからかもしれない。とカインは変な憶測を立てずにただ森を駆ける。がやはり魔物の気配すら無く当たりは不気味な雰囲気を醸し出し静まり返っている。
「カイン・・・。」
「うん。」
カインとソフィの二人はこちらに迫り来る何者かを迎撃するため戦闘準備へ。
──ドスンドスンと木々を薙ぎ倒し、地面が悲鳴をあげるような音。
「グルォォォォッ!!!!」
「サイ・・・クロプスッ!!」
それは入口付近に出てくることは決してないCランクの魔物。
一つ目に一角。
緑色の巨大な体躯で腰に布を巻き、棍棒を右手に持っている魔物である。
普通ならCランクパーティ数組で相手するほどの強敵だが今ここにいるのは、カインとソフィのみ。
「・・・・・・カイン。やる。」
「うん。」
二人はサイクロプスの目の前から瞬時に消える。
「・・・・・・?」
どこに行ったのだろう?不思議そうにサイクロプスは首を傾げる。
「はぁッ!!」
二人は両脇から同時に現れ、断罪器で一閃。
「グルォォ・・・。」
「くそッ!!」
数メートルという大きさのサイクロプス。
どうやらまだ傷は浅く、やつからすればこの程度かすり傷に満たない。
「グルォォォォッ!!!!」
右手に持った棍棒をソフィ目掛けて振り下ろす。
「・・・・・・甘い。」
振り下ろされた棍棒を杖で難なく受け止いるソフィ。
足が地面にのめり込むものの、一切のダメージを受けずにソフィは棍棒を跳ね除ける。
「はぁッ!!」
背後が隙だらけになった今がチャンス。
カインは容赦なく断罪器を背中に、突き刺す・・・がサイクロプスの強靭な肉体・・・筋肉に阻まれ勢いが止まってしまう。
「硬いッ!!」
『気をつけろ。固有武器を使っているとは言ってもまだ弱い。緊張感をしっかり持つことだ』
契約者といえど、まだ未熟物。
カインはサイクロプスの反撃を恐れ断罪器を背中に突き刺したまま手放し、後方へジャンプ。
「シャイターンッ!!」
その名を呼ぶとサイクロプスに突き刺さっていた断罪器が、霧散し手元に戻ってくる。
『俺を投げるとは良い度胸だ。』
「ごめんって・・・。」
固有武器といえどまだ力を取り戻していないシャイターンの能力と未熟な契約者のカイン。
本来ならサイクロプス程度、足元にも及ばないはずだが現実はそうもいかない。
「『全体強化ッ!!』」
カインは強化魔法を自身に付与する。
「イヴ・・・。なんでこんな所にサイクロプスがいると思う・・・?」
『・・・もちろんこの静けさと何か関連があるだろな』
「だろうね・・・。」
カインは真正面からサイクロプスに向かい走る。
数メートルほどあった敵との距離をカインは瞬時に詰め、サイクロプスの眼前に現れる。
「グガァァアッ!!!!」
自らの目の前に現れたカインを左手で掴もうとするが、あまりに動きが早くサイクロプスは動揺する。
「ふッ!!」
断罪器を振り下ろそうとするカインの右方向から、再度サイクロプスの左手が迫る。
恐らく捕まれば、ソフィが杖で叩き潰すぐらいのことをしない限り握りつぶされて終わってしまう。
カインは、空を蹴って背後に回る。
「もらったッ!!」
この太い首を断ち切る。
強敵を目の前に既に迷いなどない。
「はぁっ!」
イヴもカインの動きに合わせ、サイクロプスの注意を引く為正面で迎撃している。
「終わりだッ!!」
断罪器がサイクロプスの肌に迫ったその時。
──── 恐怖を感じた。
「「ッ!?」」
二人はサイクロプスから離れ、同じ方向へ数メートル離れる。
「いやはや。お見事。気配を消していたつもりだったんだけどネ」
茂みの奥から出てきたのは、刈り上げられた金色の短い髪。そして、首を曲げ不気味な笑みを貼り付けた赤いスーツの男。
片眼鏡をかけ、細く鋭い目でこちらを見やる。
あまりの不気味さに背筋がゾクッと震えてしまう。
「だ・・・れだッ!!」
「おやおや?自己紹介をしていませんでしたネ?ワタクシは『七罪魔人』の一人である『グラゴラ』ですネ。」
「・・・・・・ッ!?な、んでこんな所に七罪魔人が?」
ソフィは震える体を必死に抑え、声の出し方すら忘れた頭で言葉を絞り出す。
「おやおや?こちらが自己紹介をしたというのに、あなた方は無しですカ?」
曲がっている首を更に曲げるグラゴラ。
「ネ。イヴリールさん?」
『・・・・・・・・・・・・。』
どうや相手は全て知っているらしい。
カインが契約者であること、そしてイヴが罪咎天使でありながら契約天使となった事までも。
「マァ良いでしょう。近々また会おうこともありますネ。今日はご挨拶・・・と言ったところですヨ。」
言葉通り、その男からは戦う意思など微塵も感じない。
「近々・・・どういう事だッ!」
「おやおや、人間は元気ですネ。そのままの意味ですヨ。では私はこれデ。」
「待てッ!!」
「これは些細ですがプレゼントですヨ。」
男は白い手袋を外し、指を鳴らす。
─── パチンッ。
途端にサイクロプスを黒い魔力が侵食し叫び始める。
「グルォォォォッ!!!!」
「では、サヨウナラ。」
「待ッ!!」
カインは、サイクロプスの振り下ろした棍棒を回避し後方へ。
「動きが・・・。」
「・・・・・・さっきとは比べ物にならないほど速い。」
ソフィは、白い肌に汗を滲ませる。
「・・・・・・これはやつの魔法。」
サイクロプスの動きが、凄まじいほどに速く。
そして、避けた際に地面に叩きつけられた棍棒の威力も先程とは段違いに上がっていた。
その証拠に、地面は激しい音を立て揺れる。
「・・・・・・・・・もしここで倒せなければ・・・。カイン。分かってる?」
「・・・うん。分かってる。」
もう迷いはない・・・はずだ。
対人となればまだ分からない・・・が、みんなを守る為ならば。
「行くよッ!ソフィッ!!」
「えぇッ!!」
サイクロプスの目で追うのもやっとの凄まじいスピードで、カインとイヴは迫る。
「ふッ!!」
『いい剣筋だ』
カインは、サイクロプスの左足目掛けて横薙ぎに一閃。
シュッと音を立てるが、未だ左足は健在。
皮膚を切り奥の肉が見えているが、サイクロプスを見るにどうやら全くと言って良い程にダメージを受けてないようだった。
「くそ・・・ッ!」
知能は対してないサイクロプスだが、このセレネ大森林で過ごし得た戦闘経験がある。
反撃すらせずソフィに攻撃を繰り出すサイクロプス。
この程度の傷では痛くも痒くもないということだろう。
「ふッ!!」
カインは怯むことなく、サイクロプスに向かい走る。
「グルォォォォッ!!!!」
体格も能力も全てにおいて勝っているはずのサイクロプスだが、ソフィに攻撃を一度も与えられない事に腹を立てていた。
いくら力を失っているといえど永い時で得た技術がある。
サイクロプス程度に遅れをとるイヴではない。
「・・・・・・・・・その程度?」
言葉の通じないサイクロプスを煽るかのようにソフィは嘲笑を浮かべる。
「グルォォォォッ!!!!」
殴り殺す勢いで棍棒を振るうサイクロプスだが、それも上へ跳びひらりと躱される。
「・・・・・・『水刃』」
ソフィは上空から、水魔法で大量に作りだした刃を振りかざす。
が、サイクロプスは断罪器を気にする様子もなくソフィの居る上空へと拳を振り上げる。
「・・・・・・まだまだ。」
大量に作りだした水刃を、一瞬で霧散させソフィはサイクロプスの目を狙い魔法を放つ。
「『天光』」
光魔法・・・否、天使、または一部の人間にしか使えぬ聖の初級魔法。
その光は、サイクロプスの一つ目を眩ませる。
「グゥゥゥゥッ!!!」
目を抑えて苦しむサイクロプス。
光魔法すら使えるソフィに少し驚きを隠せなかったカインだったが、気を緩めずにサイクロプスへの迎撃の気を図る。
「・・・・・・カイン。」
「分かったッ!!」
苦しみ棍棒を振り回し暴れるサイクロプスの動きを出来るだけ予測し、華麗に躱す二人。
人型の魔物であれば、人間と同じ部位に心臓がある。
カインは心臓を狙い『断罪器』に魔力を込めてより強力に、鋭利に。
そしてソフィはサイクロプスの頭部へ先程よりも巨大な氷魔法の刃を放つ。
「『アイシクルエッジ』」
「はぁぁぁあああッ!!!」
グラゴラにより、強化されたサイクロプス。
普通ならばBランクの魔物に値するであろうその強さを身につけたはずだったが、相手が悪かった。
片や、学院で無能と呼ばれ続けた契約者。
片や、最高峰の魔法使いであり契約者。
二ヶ月と少し前ならば、カインが足を引っ張って負けていたかもしれない。
だが、カインは契約者として大切なものを守るため強くなろうと努力し、そして成長を今なお続けている。
「グ・・・・・・・・・グゥゥ・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・はぁ・・・はぁ。」
『よくやった。二人とも。』
サイクロプスは、眩い光に苦しみ目を抑えたままの状態で地面に倒れ込む。
「・・・・・・終わった。」
血であろう液体が、サイクロプスの体から流れ辺りに広がっていく。
「強かった・・・。」
確かに強かった・・・はずなのに。
あまりに呆気なく倒せてしまったことにカインは、驚いていた。
「・・・・・・二人で倒したけど・・・今回はカインの成長のおかげで楽に倒せた。
「僕の・・・?」
「・・・・・・カインは着実に強くなってる。」
あぁ・・・そっか。あの修行は無駄じゃなかったんだ。とカインは胸の奥が熱くなるのを感じる。
「・・・・・・ふぅ。」
まだだ。まだ気を緩めてはダメだ。
「イヴ。マスティマ学院長にこの事を伝えに行こう。」
『あぁ・・・そうだな。・・・嫌な予感しかしないな』
二人は依頼討伐を中断し、学院へ。
「何か・・・胸騒ぎがする・・・ね。」
カインとソフィ、そしてイヴの感じた不穏な予感は、すぐに現実へと変わることをまだこの時は知らなかった。
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