第23話.悪意の貴族
対戦カードが当日に公開され、カインは一戦目の相手が面識のある人物だと苦笑する。
『この男・・・もしかして?』
イヴは、ふむ。と呟きカインは難しそうな表情をする。
「多分・・・・・・そうだと思う。」
男は以前特科校舎で絡んできたBクラスの貴族であり、
最近すれ違った時、カインに嫉妬と憎悪を孕んでいる目を向けていた男であった。
『ルード・サンダーズか』
雷魔法を得意としていて、実力もBクラスではトップに近いという二年生の生徒。
実力は申し分ないが、性格は最悪・・・というのが噂で聞いた話だ。
あくまで噂のため全てを信じるというのは、カインとしても避けたいところだが、以前の件を考えてみればそれも納得がいくのかもしれないと納得してしまう自分がいた。
「強敵には変わりない・・・気を引き締めていかないと。」
オリンピアの行われる会場は学院地下の競技場であり、オリンピア開催中はステージに結界が張られることとなる。
結界の効果は、観戦する全生徒たちを守るステージ外への衝撃の吸収。そして、戦闘を行う生徒たちに万が一の危険がないように緊急時に抜け出すため付与される転移魔法だ。
『一回戦開始まであと一時間をきりました。出場生徒たちは、直ちに会場準備室までお越しください。』
どくどくと脈打つ鼓動を止めることが出来ない。
緊張と興奮で脳内が真っ白になりそうなカイン。
『カイン今回は本当に俺を使わなくて良いんだな?』
「大丈夫・・・自分の力量を確かめたい。」
『そうか。お前がそう決めたのならば、不可視化しておけ。会話などは脳内で思念を送るように告げれば俺も返せる。』
「了解。」
「ほら、早く行ってきな。あんたは強くなった。」
「うん。ありがとうガブリエルさん。」
遅れてやってきたソフィとガブリエルからの声援を背にカインは会場準備室まで向かう。
「えーっと・・・。失礼しま・・・・・・す。」
『殺伐とした空気だな。』
男子生徒用の準備室へと向かったカインは、中に入った途端一瞬金縛りにあったのかと錯覚する。
そうだよく考えてみれば、一回戦から既に皆自分より格上の相手である。
そして皆、オリンピアで優勝するという目標を掲げ勝ちに来ている。
この殺伐とした空気がカインにそれを自覚させる。
「・・・・・・お前がカイン・・・か?」
「はい。貴方は・・・?」
自分より遥かに大きい体格で厳つい男。
リーチより恐らく強いであろうその男は、凄い剣幕でこちらを見下す。
「ふんっ。無能が。」
恐らくは、学院の三年生であろうその男はカインに舌打ちをするとその場から離れていく。
「見苦しいな。ガドウ。」
「なんだとッ・・・・・・・・・ち。お前か。」
一瞬殺気を孕ませた視線を向けた先にいたのは、白い紙に赤い一筋のメッシュが入った美しい顔立ちの青年。
燃え盛るような赤い瞳から向けられるその視線は非常に冷たいもので、体の芯から震え上がるような恐怖さえ感じてしまう。
「・・・・・・時期勇者様は、良いよなぁ。自分の力で勝ち取った訳じゃないのにカッコたる輝かしい未来が決まっててよぉ!」
「・・・・・・。」
その言葉にレイは反応しない。
「言ってみろよ?僕は生まれた時から才能があって勇者になる未来が決まっていたんですぅ。弱くても勇者なんで偉いんですぅってよぉ!」
近くにあった椅子を蹴り飛ばすガドウと呼ばれた男。
散々な良いようにカインは思わず口を開く。
「・・・・・・僕にもレイ君のことは分からないですけど、貴方は何を知ってるんですか?」
僕の修行を眺めていたゲイル先生に聞いた事がある。
彼は最初から強かったわけじゃないと。
必死に・・・努力を積み重ね、彼はかの勇者という重責にも耐えうる力を手に入れたと。
「あ゛ぁ゛?」
「貴方はレイ君の何を知っているんですか?」
こんなに吠えているガドウは、正直弱い。
この男がAクラスだとは知っている。が恐らくはレイの強さに嫉妬しているだけだろう。と。
「お前さ?少しは相手の力量見て話を吹っ掛けような?お前みてぇな雑魚は俺に話しかける権利はないわけよ?」
「そこまで吠えているとあなたの方が弱そうに見えますけどね。」
『はっ!言うじゃないかカイン。』
「イヴは黙っててよ。」
「・・・・・・ッ!!てめぇ!!」
「喧嘩はやめたまえ。」
そこで少し離れた場所から仲裁に入る眼鏡をかけた男。
スラーっとした体型にレイには劣るが冷たい視線でこちらを睨む。
水色の短髪でいかにも頭の良さそうな男だ。
「チッ。どいつもこいつもッ!!」
そう言ってガドウは準備室を出ていく。
「すまないね。うちのクラスの問題児が。」
「い、いえ。仲裁ありがとうございました。」
「はは。何。気にする事はない。実は深夜に君が修行している場面を見てしまってね。」
「ッ!それは・・・そのー。見苦しい場面お見せしてすいません・・・。」
自分はまだまだ弱い。
ましてやAクラスのトップに見られるなんて・・・。
「何を言う?正直一回戦で君と当たらなくて良かったと思うほどだったよ。一回戦で手の内全てをさらけだしてしまっては、今更二回戦以降の対策が立てられないからね。」
「・・・!そんな、大袈裟ですよ。あの・・・迷惑でなければヨシュア先輩と呼ばせていただいても・・・。」
「もちろん。僕もカインと呼ぶね。よろしくカイン。」
Aクラストップ。
頭脳明晰、そして実力共に、一番Sクラスに近い存在。
ヨシュア・ブライアント。
氷魔法という、基本属性ではない特質属性の魔法を操る今回の優勝候補にも入ってくる生徒の一人だ。
人柄がよく、人望も熱くこの学院の聖人と呼ばれている。
ヨシュアは、戦いになると一変氷のように冷たい瞳で冷静に相手を追い詰める戦闘のスペシャリスト。
『冰創師』と呼ばれる三年生だ。
『一回戦開始まであと五分きりましま。出場者はステージへ。』
「おっと。そろそろ行かないとね。お互いに頑張ろう。」
「はい。」
『あの男かなりできるな。』
「まぁ、ヨシュア先輩は有名だからね。」
ヨシュアに一礼し、背中を見送る。
声援を送ろうと思ったが、先輩は強い。
僕からの応援など必要ないだろう。
「よし、行こう。」
カインは臆すること無く、一回戦の行われるステージへ。
「やっぱり少ないな。」
『お前に人望がないことがよくわかる。』
「うるさいよイヴ。」
観客は数十人程度、やはり皆Sクラスなどの輝かしい生徒たちの応援へ出向いているのだろう。
しかし、これでも多く集まった方である。
Fクラスであるカインの出場を聞きつけ面白半分で寄ってきた生徒が多数。
少数が、応援に来たリゼやソフィ達。
中には最近までいざこざのあったFクラスの生徒たちも応援に来てくれている。
そしてガブリエルはユーリと共に教師専用の観客席で見守ってくれていた。
「ふっ!来たな無能!」
この前の情けない姿が無かったかのように、ルードは堂々たる振る舞いを見せる。
「よろしくお願いします。」
「また蹴り入れてやるから泣くんじゃねえぞ?」
不思議と不快には思わなかった。
修行の成果なのかある程度の実力であれば、戦わずとも力量が測れるようになったからだ。
『それでは、オリンピア一回戦。これより・・・・・・開始ッ!!』
「『サンダーアローォォォ!!』」
「ふッ!」
遠距離から中級魔法を打ち込んできたルード。
これは予測済みだ。
カインは、迫ってくる無数の雷撃のうちの一発を右へ避ける。
『さぁぁあッ!!一回戦Aグループの実況はこの私、コーディでお送りします!!』
「無駄無駄無駄ァァァッ!!当たって死ねッ!!」
殺すことは反則になると知っていても、相手はしっかりと殺意を持って魔法を放っていた。
この男もそれほどにオリンピアには真剣に挑んでいるということだろう。
「はぁッ!」
迫りきた二発目を拳で相殺し、三発目を跳んで華麗に躱すカイン。
『凄いッ!凄いぞぉッ!!カイン選手一年Fクラス生徒にも関わらず、華麗にルード選手の攻撃を躱していくゥゥッ!!』
「クソがッ!!『サンダーインパクトッ!!!』」
直線上にカインを視認したルードは、上級魔法を力いっぱい凝縮し放つ。
バチバチッと鳴り響く雷鳴。
肌でピリピリと感じるその威力は、当たれば軽傷では済まないことを指している。
「・・・・・・・・・勝てる。」
『己の力をあまり過信するなよ。お前は強くなったが、それは周りに比べてじゃない。お前自身と比べて・・・だ。』
「うん!分かってるッ!!」
カインは、肌に触れるか触れないか・・・ギリギリの所を焦ることなく回避し、そのままルードへ向かい走る。
「何でだッ!!何で当たらないッ!!」
『ルード選手ッ!!若干の焦りを見せるがカイン選手は余裕の表情ッ!!これは学院始まっての下克上なるか!?』
「『身体強化』」
『カイン選手強化魔法を自分に付与したかッ!!しかし、強化魔法にしてはカイン選手の動きが早すぎる!!』
当然の事であろう。
契約者として得た力に更に強化魔法を上乗せするのだから、それはもう常人ならば目で負えないスピードとなっている。
「ルードさんには悪いけど・・・。もう終わらせる。」
「嘘だ嘘だッ!!貴族であるこの俺が・・・ッ!!どこの下等な親から生まれたか分からないゴミに負けるなんざッ!!」
「・・・・・・は?」
『カインの触れてはいけない琴線に触れたな。あの小僧。』
空気が一変し、カインの言葉に怒気が篭る。
「『全体強化』」
一発で決める。
怒りで我を忘れる前に。
カインは、自らの間合いを把握しルードに接近する。
「くそッ!!」
右手で懐からナイフを取り出すルード。
武器の持ち込みは申請を通れば良しとなっているがこれは恐らくは反則。
どうやって、厳しいボディチェックをすり抜けたか分からない。
しかし、ルードならば汚い教師に賄賂を払ってなども考えうる。
明確な殺意を持ってる上に反則を行うルード・・・だが、実戦ならばこういう事もあるだろう。
カインは、ルードの右腕に打撃を与える。
「ゔっ」
凄まじいスピードでルードの懐へしゃがみこんで、強烈な一撃を放たれたルードの右手には、激痛が走り思わずナイフを手放す。
「終わりだ。」
カインは怒りを何とか抑え込み、真下からルードの鳩尾目掛けて一撃。
「ゔッッッッ!!!」
ルードは、倒れるかと思いきやカインの肩を掴むと同時に、懐へ忍び込ませていた二つ目のナイフをカインの心臓へ。
「ぐッ!!」
心臓目掛けて飛んできたナイフを、間一髪の所で防いだカインだったがナイフが左脇腹にめり込む。
「ふ・・・・・・は、はは。やった。勝ったぞ。」
汚い。とは言えない。
実際の戦闘ならばこういう事もありうるのかもしれない。
そうなれば汚いなどと言っている暇はない。
これはあくまで実戦形式で行われるバトルだ。
明確な殺意を持って刺したルードには後に処分が言い渡されるはずだ。
だから今は・・・。
左脇腹がジンジンと痛む。
熱い。今は興奮状態という事もあり痛みよりも熱を持った体に気を取られてしまいそうだ。
ポタポタと滴り落ちる血液を見て、カインは実感する。
実戦ならば、こういうこともあるのか・・・。と。
『これはッ!?これはこれはッ!!ルード選手ッ!!明確な殺意をもっての行動ではないでしょうかッ!!今すぐに中 し・・・・・・・・・』
「僕がッ!!勝つッッッッ!!!」
アナウンスがかき消され、会場全体にカインの咆哮が鳴り響く。
「終わりだッ!!ルードッ!!」
「クソッ!!もう良いッ!!どうなってもいいッ!!あれは・・・あれは俺の女だッ!!お前のせいでッ!!情けない姿を晒したッ!!もうどうなってもいいッ!!殺してやるッ!!」
『どうしようもないクズの類か。』
カインに刺したナイフを引き抜くと、再度カインを狙い襲いかかってくるルード。
やばいな。
血液を流しすぎたかもしれない。
意識が保てなくなってきている。
「はぁぁあああッ!!」
カインは、自然と震える声を上げルードの攻撃を避けることもせず会心の一撃を食らわす。
攻撃は単純。
右手による本気の一撃をルードの顎に放ったのだ。
「・・・・・・ッ。」
そのまま意識を失いフラーっと倒れ、上を向いたまま失神するルード。
『か、か、か、勝ったぁぁぁあああッ!!!カイン選手ッ!!反則勝ちになるかと思ったがッ!!男気をみせルード選手を倒したァァァァッ!!!』
「は、はは。」
やばい。左脇腹を二ヶ所刺されてしまった。
でも、これでようやく一歩踏み出せた。
「勝った・・・・・・よ。」
こちらを見つめるソフィとリゼ、二人と続けて目を合わせそのままカインは、意識を失う。
波乱の一回戦を終えたカインは、目覚めた後二回戦の相手を知る事となる。
pt評価やブクマなどよろしくお願いします。




