第22話.オリンピア前日の修行
オリンピア開催前日。
ここ数日で予選が行われ、本日オリンピアの参加者が決定した。
オリンピア参加決定者は、Sクラスから十人、Aクラスから六人、Bクラスから三人・・・そしてFクラスから一人。となった。
「予選でもうかなりみんな強かったんだけど・・・。」
Fクラスからは無論カインが出ることとなっているが、これは前代未聞の異例であり、学院で『無能』だと言われていたカインが出場することが分かったことで学院内は更に衝撃を受けていた。
「ソフィはなんで辞退したの?」
「・・・・・・面倒臭い。」
・・・なるほど、実にソフィらしい理由だ・・・・・・。
「何か実感無いなぁ・・・。本当に僕がオリンピアに出場できるなんて。」
「・・・・・・当然。ソフィが修行に付き合ってるから。」
「そうだね。ソフィのおかげだよ。」
夜の修練場で二人体操座りで話すカイン達。
『なんだ?まだ始めないのか。』
その呟きが修練場内に響く。
無論イヴだ。
「やっほー。ソフィに呼ばれてきてあげたよ。」
そして、時期を測ったかのようにひょこっと修練場入口から顔を出すガブリエル。
「何でガブリエルさんも?」
「・・・今日はガブリエルと戦闘してもらう。」
「・・・へ!?無理無理無理無理!!!」
力を取り戻してないといえど一段階目の力の奪還。
確かにイヴを使えば何とかなる・・・・・・とは正直言えない。
ガブリエルが相手となるとカインは一秒と経たず負ける自信しかない。
「・・・師匠命令。」
「横暴だ・・・。」
ジト〜ッと睨むソフィにため息を吐き、カインは立ち上がる。
「安心しな。私も手加減するさ。」
『本当ならば俺が相手をしたい所だが、ガブリエルが居るのならば良い機会だ。』
ガブリエルのやる気のなさと対となるかのように、イヴはやる気に満ちている。
「本当に手加減お願いしますよ。ガブリエルさん。」
「・・・・・・じゃあ始める。」
ソフィは、体操座りしたまま手を上げる。
ガブリエルはカインの前に立ち、木剣を手にするとこちらに殺気を向けてくる。
手加減とは言っても、思わず震えて動けなくなりそうだ。
「じゃあ・・・始め。」
降ろされたソフィの腕を合図に、ガブリエル目の前から消える。
『気を抜くなッ!』
「くッ!!」
違う。消えたのではなく二人が早すぎて反応する速度が追いつかないのだ。
カインは右側面から振るわれるガブリエルの猛攻に対処しようと、右手に握っていた木剣でガブリエルの木剣を受け止める。
「へぇ・・・やるねぇ。」
口ではそのように零しながらも、未だにガブリエルは力の一部すらも出してはいない。
「まずい・・・」
ガブリエルの速度について行くのでやっとだ。
カインは何とか頭を回転させ、対処法を考える。
「『速度強化』」
意識と体が分離しそうな違和感を覚えながらも何とか、背後からの攻撃を躱したカインは、前を見上げると既にそこにガブリエルの姿は無く・・・。
「くそ!」
この二ヶ月で覚えた魔法の一つである『速度強化』に、まだ体がついて行かず、少しよろけるカインだが、堪え迎撃を開始する。
「な!?」
「何を驚いているんだい?この程度で。」
残像・・・否、分身と呼ぶのが近しいであろう。
もう一人のガブリエルが突如として現れる。
「二対一で行かせてもらうよ。」
背後から迫る分身の木剣を振り返り魔力を込めた拳で往なし、そのまま分身の左腹部へ打撃を与え霧散させると、正面から迫ってきたガブリエルの木剣を握り受け止め、もう片方で握っていた木剣でガブリエルの頭部目掛け一閃。
「うわー。危な。」
難なく躱したガブリエルは、封じられた木剣を迷いなく手放し素手での戦闘へ移行する。
「中々に成長したねぇ。」
ガブリエルは、笑みを浮かべながらカインと拳を交える。
「くぅッ。」
手加減をされているはずなのに一撃一撃の重みが、自分とは違う。
腕の軋む音を聞きカインはそれを自覚する。
「『身体強化 』」
未だ五属性を扱えないカインは、基本属性を使うという目標を捨て身体強化魔法を極めるという術を選んだのだ。
「並行して二つの強化魔法を使うかい!やるねぇ。」
「ふぅ・・・ふぅ・・・。この状況で褒められてもあまり嬉しく無いんですけどねッ!」
舞うかの如くひらりとカインの攻撃を次々に躱すガブリエル。
『カイン。侮るな。』
「な!?」
無意識に連携をとったのかガブリエルの背後という死角から現れた分身は、カインに強烈な一撃を与える。
「ぐッ!!」
見事に顎にクリーンヒットした分身の拳。
意識が飛びそうになったが、カインは立ち上がると再び二人に迫る。
「『全体強化』」
思考速度も上昇し少し余裕が出来たのか、視界が開けたカインは凄まじいスピードでガブリエルに攻撃を仕掛ける。
『全体強化』は、カインが得た強化魔法の中で現在最も強力な魔法となっており、思考速度、身体能力、移動速度の全てが今の限界値まで引き出せる魔法だ。
やはりまだ未熟なため十五分という限界はあるが、契約者として得た身体能力がある為、常人より恩恵を受けることが出来る。
「くッ!さっきより攻撃が強くなったねぇ!」
「まだまだですよッ!ユーリは常時強化魔法を行使していると言っていました!自分もそれぐらい・・・いや!それ以上に強くならないとッ!」
ユーリの場合は常時発動している強化魔法に加え、空間魔法を行使するのだ。
ならば強化魔法しか使えない自分は、それ以上に強くならなければいけない。
そのためカインはひたすらに強化魔法を極めている。
「はぁッ!」
『その調子だ。』
視界の右側隅から木剣を振るおうとしていた、分身に回し蹴りを入れたカインだったが、それも右腕で受け止められていたため、分身は数メートル後方へ下がるだけに押し留まった。
どうやら先程までよりも強化された分身だったのか霧散せずに、ホコリを払う仕草をすると再びこちらに敵意を向ける。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
ソフィには何度も稽古をつけてもらっているカインだが、ガブリエルとの手合わせは初。
手加減されていたにしても何とも戦いにくい相手のため、体力の消耗が激しい。
少し離れた場所で観戦していたソフィが突然口を開く。
「・・・・・・カイン。」
「・・・?なに?」
「本気を出して。」
「本気・・・?」
「ここ二ヶ月・・・。貴方は本気を出してない。」
「僕が?」
コクリと頷いたソフィは、言葉を続ける。
「ゴブリン戦の時にみせた力はそんなものじゃなかった。」
「あの時は・・・・・・。」
覚悟が決まっていた。
結局は後から揺らいでしまったが覚悟は確かに決めていた。
それに、殺さなければ殺される・・・その自覚もあった。
「つまり・・・手加減していたにしても私を舐めてたのかい?」
「ガブリエルさん!違います!!」
『あー・・・。諦めろカイン。少しだけ付き合えば気は収まる。』
「イヴ!?」
先程とは比べ物にならないほどに、ガブリエルから発せられるプレッシャーは異様。
「安心しな。手加減はするよ。」
「手加減・・・って・・・。」
体が震える。
殺されるかもしれない。そんな恐怖がカインの脳裏に過ぎる。
「どこからでも来な。」
ガブリエルは構えずに立っている・・・がその立ち姿のどこにも隙はない。
「・・・・・・カイン。やる。」
「・・・・・・鬼畜すぎる師匠だ・・・。」
木剣を右手に構え踏み込むカイン。
地面に強く踏み込むため力を入れると自らが震えている事を再度理解する。
絶対的強者・・・そして、殺し合いに対する恐怖は、今尚増すばかり。
でも強くなるためには。
「やるしかない。」
カインは真正面から跳び、上空からガブリエルの頭部目掛けて木剣を振り下ろす。
どこからが相手の間合いなのか等と考えてしまうがそもそも、熾天使であるガブリエルからしてみれば視界に広がる光景全てが自らの間合いではないだろうか。
「はぁッ!」
集中しろ。
攻めなければ殺される。
守らなくても殺される。
ガブリエルは、その場から一ミリたりとも動くことなく上から振り下ろされる木剣を左手で鷲掴みにする。
「ふッ!」
集中力を研ぎ澄ますため呼吸を整えたカインは、鷲掴みにされる直前、ガブリエルの目の前から姿を消すと次は死角であろう背後から一撃。
「上を取るという優位さを捨て木剣という武器を捨て、背後に回るという咄嗟の判断は良いねぇ。まぁ木剣が触れた瞬間の反撃を恐れての事だろうけど。」
ガブリエルの背中にあと少しで触れる・・・と思ったカインだったが。
「・・・え?」
「相手が常人ならそれも通じたんじゃない?」
気がつけば背後を取られていたのはカインの方だった。
耳元で囁かれたその声に背筋が凍りつく。
「ッ!」
カインは、即座に後方へ回避し次の手を考える。
「まだ速度も、力量も、技術も全てが拙いねぇ」
ルシファー戦では攻撃型空間魔法というユーリの力があったからルシファーに傷をつけることが出来た・・・けど、そんな事いつもできるわけじゃない。
それに、いつまでも誰かに頼り甘えているだけじゃ強くなれない。
自分でやれる事は・・・。
カインは『ふぅ・・・。』と息を吐くと、ガブリエルを見据える。
「行きます。」
「いつでも来な。」
瞬時にガブリエルの前に現れる。
『なんだい。』また無策か。そんな呆れた声を上げるガブリエルだったが、そんな呆れも束の間。
「ッ!!」
先程までとは比べ物にならない程に速度が上昇していたカインの攻撃を避けるため後方へと下がる。
カインは、ガブリエルが後方へ下がったのを確認しながら地面に落ちていた木剣を拾うと、それをゴブリン戦と同様に後方へ下がったガブリエルの方へと投げ、それを追随する。
「速いねぇッ!」
ガブリエルは、投げられた木剣を右腕で軽くあしらう。
「ふッ!」
「これがあんたの本気かい。」
カインは軽く跳びガブリエルの頭部と同じ高さまで到達すると同時に横から蹴りを入れるが、ガブリエルもそれを左腕で受け止める。
「次はこっちから行くよッ!」
地に足が着いてないままカインは胸ぐらを片手で捕まれ、その場から投げ飛ばされる。
「ぐッ!」
その衝撃は、魔物から突進される以上の重みと痛みが走りカインは苦悶の声を上げる。
手加減されているにしても、やはりこれが力の差だ。
カインは、修練場の端まで飛ばされると自らの体が床と並行になるように壁に足をつけると、重力による制限を受ける前に瞬時にガブリエル目掛け跳ぶ。
「はぁぁあッ!!」
今はこの拳しかない。
戦いにおいてもまだ経験も知識も少ない未熟者だ。
だがこれからはイヴと共に戦う契約者だ。
『断罪器』という固有武器もある。が
でもそれだけではダメなんだ。
武器に頼りきってはダメなんだ。
イヴに頼りきってはダメなんだ。
まだまだ弱いけど、僕は強くなりたい。
来るべき日のために・・・そしていつか本気のイヴと肩を並べるために。
──ゴォンッ!
と鈍い音が鳴る。
「初めてあった時からすれば・・・・・・凄まじい成長ねぇ。」
「あり・・・がとう・・・ございます・・・。」
真正面から正直に拳を交えたカインだったが、ガブリエルに押し負け地面に体をうちつける。
「あんたはまだまだ強くなれるよ。」
「はい。」
「今だってまだ、土から芽が生えてきたレベルだしねぇ。」
そう言ってガブリエルは、カインに手を差し伸べる。
「・・・・・・終わり?」
鬼畜な師匠は相変わらず健在だ。
「ソフィ・・・流石に厳しすぎない?」
『こいつは明日からオリンピアに出場するんだ。そろそろ体を休ませる事に専念させる。』
「・・・・・・ん。分かった。」
師匠の許可が出たことで今日の修行はこれまで。となった。
『明日からはいよいよオリンピアだ。心の準備は出来てるか?』
「うん。大丈夫。」
カインは、清々しさを感じさせる笑顔で返し、何かを思い出したかのようにソフィの方へ顔を向ける。
「そうだ。ソフィ。」
「・・・・・・?」
「今日まで二ヶ月師匠として修行に付き合ってくれてありがとう。」
「・・・・・・ん。」
そう言えば結局修行の期間は曖昧だったな。と思い出したカイン。
「・・・・・・。」
何か言いたげな表情を浮かべるソフィ。
ここ二ヶ月で、ある程度無表情の中から感情を読み取れるようになったカインは首を傾げる。
「どうしたの?ソフィ。」
「・・・・・・これからは?」
「これから?」
「・・・・・・・・・もう修行終わり。これからも友達で良いの?」
不安そうな表情を浮かべるソフィ。
人間関係が少ないソフィは不器用なのだろう。
理解したカインはニッコリと笑う。
「これからも友達としてよろしくね。ソフィ。」
「・・・・・・・・・うん。」
心做しか嬉しそうなソフィの表情を見て、二ヶ月の修行を無駄にしないためにカインは明日からのオリンピア本戦を頑張ろうと拳を強く握りしめた。
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