第21話.狂犬と無能
あれから数十分何故か互いに魔法を使おうとせず、決闘は殴り合いの喧嘩と化していた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ。」
二人は互いにボロボロになり、顔には複数のアザが出来ている。
さすがはCクラストップの実力・・・と言いたいが、想像以上の持久力を発揮しているベリル。
「リル・・・・・・リル・・・・・・。」
時々呟くその名前・・・。
もしかするとベリルにとって何か大切なものなのかもしれない。
『普通科にもあんなに骨がある男が居るのか。』
あのベリルとかいう生徒には何か鬼気迫るものを感じる。
「想像以上・・・」
イヴがぼそっと呟いた言葉に返すガブリエルも、ベリルになにか感じたようだ。
「俺はッ!!負けられねぇッ!!」
「僕だってッ!!」
殴り・・・殴られ、蹴り、蹴られ。
なんの技術もない喧嘩がそこにはあった。
「無能が・・・ッ!!なぜ今になってッ!強くなろうなんてッ!」
「君にはッ!関係ないッ!」
カインは、朦朧とする意識を何とか取り戻しベリルに近づくと頭突きを繰り出す。
「ぐぅッ!!気に入らねぇ・・・!雑魚がッ!何でそんなにも真っ直ぐに・・・!!」
昔の俺を見ているみたいだった。
何もせずにただ商人の奴隷となり食事を恵んでもらい。
ヘラヘラと笑って毎日を繰り返す弱かった自分を見ているみたいだった。
だから気に食わなかった。
「僕にもッ!譲れないものがあるッ!」
こいつも・・・もしかしたら・・・俺と同じように・・・誰か大切な誰かを・・・。
意思が強く宿るカインの瞳を見てベリルは、眉を顰めながら殴る。
「クソがッ!」
「うッ!!」
何故倒れねぇ・・・。
今までのお前だったら・・・流れに逆らわず諦めていただろう。
「死ねッ!!」
また殴る。
くそ・・・クソクソクソ。
気に食わねぇ・・・全てが気に食わねぇ。
無能のくせに・・・・・・ッ!!
「クソがッ!」
カインの頬に殴りを入れたベリルだったが、後方へ下がることも無くカインはベリルを殴り返す。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」
もう認めてしまおう。
こいつは確かに強くなった。
どんな方法かは分からない・・・でもこいつは強くなったんだ。
俺みたいにアベルという堕天使に・・・悪魔に頼ろうとせず。
認めた瞬間、あの時の自分の行為を後ろめたくなってしまった。
膝をつき、震え、それでも力を得ようとアベルを頼ってしまったことを。
目の前の真っ直ぐな男を見てしまって、己の愚かさが剥き出しになってしまった。
「ちっ。クソが。おい・・・・・・。カイン。」
フラフラと覚束無い足取りでこちらに殴りかかるベリル。
「なに・・・・・・うッ!」
もう避けることすら出来ずカインは、その拳を受けまたふらつく。
「お前は・・・・・・大切な人を・・・失ったことはあるか・・・・・・。」
「・・・・・・・・・ふッ!」
「うッ!!」
呼吸を整え、ふらついていたカインはベリルの腹に殴りを入れる。
「はぁはぁ・・・・・・うん。アベルの・・・・・・惨劇の・・・日・・・に。」
「そう・・・・・・か。」
二人はフラフラと近づき、互いに拳を交えようとするが狙いが定まらず互いの肩に腕を置く状態となり共に膝を着く。
「今までのお前は・・・昔の俺みたいだったヘラヘラ笑って周りに気を使って・・・・・・弱いままの自分で居ようとする・・・あの時までの・・・・・・俺に・・・。」
「はぁ・・・はぁ・・・・・・。そうなんだ・・・。」
「だから・・・だから気に食わなかった・・・。上を目指そうともせず・・・停滞しているくせに・・・は向かおうとする・・・。『リルを守る』そう言っていたくせに・・・結局目の前で・・・殺してしまった・・・・・・。あの時の俺に・・・似ていた・・・。」
「リ・・・ル・・・?」
「俺の・・・妹だ・・・・・・。」
段々と鼓動が一定の音を刻み始めるが、疲れきった体は言うことを聞かず二人は修練場の地面に倒れ込む。
「・・・・・・ベリルの妹?」
「・・・あぁ。俺が殺してしまった愛する妹だ。」
「愛していたのに・・・なんで殺したの?」
「俺たちは両親の借金のせいで一家離散してな。あの日は腹を空かせた妹の為に街に出てた・・・。親が借金していたとこはかなり有名な闇組織だったらしくてな・・・災難なことに妹の居場所がバレてついた頃には喉を潰され臓器をくり抜かれてた。」
「・・・・・・ッ!?ベリルは何も殺していないじゃないか!」
「はっ。嫌いな奴のために熱くなれるなんてお前変わってんな。」
「茶化すなよッ!!」
「俺が殺したも同然だ。俺に力があれば・・・あの時・・・妹を助けられたかもしれない。」
力があれば・・・生活に苦労せず妹を食わせていけたかもしれない。
力があれば、あの男より前に森へ到着し妹を助けることが出来たかもしれない。
今更になってそう思ってしまう。
「俺は復讐のために強くなることを誓った。」
理解した。
そうだったんだ、ベリルに抱いていた嫌悪感は・・・醜い嫉妬からくるものだったのだ。
何かを果たすため、強くなりたい。
それを有言実行するかの如くベリルは一年のCクラストップへ成った。
僕は羨ましかったんだ。
「そうか・・・・・・。僕はお前に嫉妬していたんだ。」
「・・・・・・。」
ベリルは言えなかった。
アベルと対峙し初めて、対ルシファーの前線に立っていたカインに・・・・・・嫉妬を覚えていたことを。
何も持ち合わせてない居ないはずの無能であるカインは、震える体でルシファーと対峙していた。
それなのに自分はというと力を追い求めるがあまり、アベルに力を願ってしまった。
「情けねぇ・・・。」
奴は『あの時期』『芽』と言った。
「・・・んじゃあ、そういう事なんだろうな。」
「・・・?ベリル?」
「・・・・・・何でもねぇよ。言っておくが俺は今でもお前の事が嫌いだ。」
「ふっ。僕もだよ。僕も君が心底嫌いだ。」
「・・・・・・そうかよ。」
その表情は何故か清々しいベリル。
「ふぅ・・・俺ここ辞めるわ。」
「・・・は!?何言ってるの?一年の普通科トップなんだよ?」
「そんな肩書き必要ねぇ・・・・・・どっちにしろその日まで時間がねぇ。」
「・・・・・・?」
小さく呟いたベリルの声がカインに届くことはなく、カインは倒れた状態でベリルに首を傾げる。
そんなこと気にした様子はなくベリルは、地面から起き上がる。
「っと。」
「ベリル?」
「何か戦いっつー気分でもなくなったしもう帰るわ。」
「本当に辞めるんだね。」
「お前には関係ねぇよ。精々授業頑張ることだな無能。」
「君には関係ないでしょ?じゃあね。」
ベリルはそれ以降言葉を返さず、修練場を後にする。
「情けねぇ。他人の力で強くなろうなんてよ。」
ベリルはアベルに抉られた心臓部分を強く握る。
「お前は俺が駒になれば・・・なんて思ってんだろうが・・・。お前の力の断片・・・利用させてもらうぞ。アベル。」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ狂犬は、その場から立ち去る。
その後普通科トップであった『狂犬のベリル』が学園を去ったことにより、普通科では騒ぎになったが暫くすればその喧騒も収まり、何事も無かったかのような日常へと戻っていく。
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