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第16話.人型の魔物

今回は少しグロな表現多い・・・?かも?

そして、約8000文字と少し長くなっております。

 

 才能か。快楽か。無関心か。

 罪悪感(かんじょう)に囚われず人を殺すことの出来る人間はどれほどに居るのだろうか。


「そろそろ着くぞーカイン。」

「え、あぁ、はい!」

「なんだ?緊張してんのか?」

「えぇ・・・まぁ。」


 カイン一行は今、リベルタスから転移門で移動し離れたリベルタスの田舎の村から目的の場所であるセレネへ移動中である。


「あの人から聞いたか?対人戦について。」

「はい。聞きました。」

「あの人も長いことギルマス続けてるから、色んな人見てるみたいでな。新人が入ってきた際に必ず対人について聞くんだ。」

「そうなん・・・ですね。」


 聞いた話は思った以上にハードであった。

 人を殺すということを経て変わった人間の末路なんてそうそう聞くことは無い。

 心が弱かった。と言うよりは優しすぎたのだろう。


「彼らは優しすぎたのかも・・・しれませんね。」


 リーチにそう言うと彼は首を傾げる。


「いや・・・。優しいとはまた別だろ?

 自分の大切な人を殺されて尚、人を殺してしまった・・・という罪に囚われるのは少しおかしくないか?」


 そう言われ少し納得してしまう自分がいる。


「それはもう既に優しさじゃない。ただの偽善に近い何かだ。」

「確かに・・・そう言われてみれば自己保身・・・に近いのかもしれないですね。」

「そうだな。だが、人を殺したという罪に対して裁きを受けたい。楽になりたい。・・・まぁたしかに多少は罪を感じることもあるだろう。だが、復讐という鎖をつけてしまった以上その罪から逃れることは出来ない。だけどそいつは、『俺は間違っていない』っていう自己保身のために逃げ続けやがて自らが壊れてしまった。そんな感じじゃねえか?」


 リーチは、少し見えてきたセレネを眺めながら続ける。


「ギルマスからも聞いたと思うが、冒険者の請け負う仕事は、魔物退治だけじゃねえ。盗賊や闇組織の殲滅なんて事も普通にある。それも捕縛・・・じゃなく消滅・・・言わば殺害だな。」

「・・・・・・。」

「お前にもいずれ分かる。少なくとも俺は初めて盗賊の住処に行った時・・・『こいつらは生きてて良い存在じゃない。』そう思った。それだけだ。」


 その言葉が何を意味するのか・・・。それは容易に想像できる。

 盗賊や闇組織による女子供の誘拐や人身売買などが世界的な問題にもなっている。


「厄介な敵は魔物でもアベル達でもねぇ。人間なんだよ。

 少なくとも俺はそう思う。」

「人間・・・ですか。」

「・・・・・・。」


 後ろでその話を聞いていたソフィだが、特に話に割り込んでくるでもなく黙々と歩いている。


「っと。話してたら着いたな。あれが大森林セレネだ。」

「あ、あれが・・・・・・。」


 視界いっぱいに広がる緑。

 終わりの見えないその大森林こそがセレネ。

 神が作り上げたとされる森林であり、深層部への侵入はSランク冒険者以上しか許されないとされる大森林。


「とりあえずはセレネの入口付近にしか入らないが注意は怠るな。ゴブリンと言えど群れを成す生き物だ。そしてやつらが今なお生き残り繁栄している確固たる理由。それは『知恵』だ。やつらにも人間で言う六歳程度の知恵がある。

 子供程度の知恵と言えど侮るな。」

「分かりました。」

「カイン・・・これ。ユーリから預かってきた。」

「ユーリから・・・?」


 そう言って手渡されたのはユーリが戦闘時に付けていた黒い手袋。


「・・・・・・魔力通すと打撃強くなる。」

「ユーリがこれを・・・。」


 ありがとう。と小さな声で呟き、カインはその手袋を装着し魔力を通す。


「準備は出来たって感じか?」

「はい!」

「よし。じゃあゴブリンの巣窟に行くか。最初に言っておくが新人教育と言っても危険と感じた場合以外は基本的に俺達は手を貸すことはない。」

「分かりました。」

「良い目だ。覚悟もできたってところか。」


 リーチとそのパーティメンバーは、森を先導する。

 時より、ガサガサと茂みが揺れていたが魔物たちは姿を表さず、逃げていく。


「・・・・・・カイン。注意力散漫。」

「あ、あぁごめん。」

「・・・・・・気になるのは仕方ない。けど気は抜かない。」

「分かった。」

「嬢ちゃん師匠っぽいな!」

「・・・ぽいじゃない。ソフィはカインの師匠。」


 それから暫く歩くと、笑や枝などで作られている家屋などを発見する。


「着いたぞ。ここがゴブリンの巣だ。基本的にゴブリンは集落を作り、一集落で小さければ十匹から大きければ百匹ほどの大集落に至るほどのとこもある。今回は十匹程度の集落を見つけることが出来たからまずは一匹。討伐してみろカイン。」


 残りは俺たちがやる。と頼もしいリーチ達。

 剛腕の斧の全員が一斉にゴブリン達に向かい走る。

 流石はBランクパーティと言ったところか。

 四人全員が言葉を交わさずに別々のゴブリンに向かい斧を振るう。


「・・・カイン。あれを狙って。」


 ソフィの指差す方向には、一匹のゴブリンが座っていた。

 他のゴブリンが戦う様を眺めながら。

 一匹だけ・・・焦ることなく。戸惑うことなく。


「もしかして。」

「・・・・・・そう。ゴブリンソード。」


 ゴブリンの派生系進化の中でも王道のゴブリンソード。

 放っておけばそのままAランクパーティに匹敵するゴブリンキングへと成る危険な存在だ。


「分かった。行ってくる。」

「・・・ん。」


 カインはゴブリンソードに向かって走る。


「バカかッ!!!そいつは俺らでやるッ!!!!おい嬢ちゃんッ!!!!わかってて行かせたのかッ!!!!」

「・・・・・・・・・。」

「カインは新人だぞッ!!!!分かってんのか!?」


 分かって無いのはお前たちの方だ。

 契約天学(フェアトラーク)の力を得ているカインの基礎能力をわかっていない。

 ソフィはリーチを無視しカインの戦闘を窺う。









「グギ・・・?」

「ゴブリン・・・ソード。やるしかない・・・よね。」


 ゴブリンソードは切り株から立ち上がる。


「グギギ?」


 一番弱そうなお前がやるのか?

 ゴブリンの言語だが、何故か意味だけは感じとれたカイン。


「はぁッ!!!!」


 開始の合図など無い。

 カインは、拳を構え突進する。


「グギッ!!」


 ゴブリンソードは、想定していた速度ではない敵を迎え撃つべく剣を持ち横薙ぎに一閃。

 するが、カインはとてつもない跳躍力で空へ。

 無論ゴブリンソードにはそんな跳躍力は無く、空へ跳んだカインを見据えるだけである。


「はぁッ!!」


 上空からゴブリンソード真っ逆さまに落下。

 その際に右拳に魔力を込め剣を構えるゴブリンソードに迎撃準備を行うカイン。


 拳と剣が交わりゴォンッ。と鈍い音の鳴り響く大森林。

 ザワザワと鳴く森に響くその音は異質。


「流石はゴブリンソード・・・・・・。」


 上空からの勢いすらも、容易に逃がし受け止めるゴブリン。

 カインの顔目掛け拳を繰り出そうとするゴブリンソードの動作をいち早く察知し、後方へ回避するカイン。


 そのままさらに後方へ跳んだカインは、背後にある木を足場とし、地面と平行になるとメリメリッと足場が音を立てるほどに力いっぱい飛びゴブリンソードへ向かう。


「グギィィッ!!」


 カインに攻撃を見透かされたゴブリンソードは、叫んでカインに向かい走る。


「ふッ。」


 息を整えゴブリンの眼前に迫ったカイン。

 眼前到達の際に攻撃を繰り出すため、空中で体勢を整えようとするカインに一瞬の隙が出来る。

 そこをゴブリンソードが見逃す事はなく、剣を振りかざす・・・が。


「よし。」


 ゴブリンソードが瞬きをすると、既に視界からカインは消えていた。


「ギ!?ギギィ!?」


 思い切り振りかざしたため、勢いを殺すことが出来ずゴブリンソードのもった剣は空を切り隙が生じる。


「はぁッ!!」


 背後に回っていたカインは、人間で言う脊髄付近に魔力を込めた右の拳で一撃入れる。


「グギィ・・・ッ。」


 苦しそうに呻くゴブリンソードは、地面に勢いよく体を打ち付けピクピク震える。

 カインはゴブリンソードの持っていた剣を、右手に持ちゴブリンソードを見据える。


「これで・・・終わりだ。」


 そんな様子を少し離れた場所から見ていたソフィとゴブリン()()を討伐完了していた剛腕の斧。


「・・・・・・気を抜くなって。」


『気を抜くなって言ったのに・・・』とソフィは小さな声で呟く。


「カインッ!!避けろ!!」


 その言葉に反応来たカインは、背後を見やる前に即座に右へと避ける。


「グギィ・・・。」


 くそう。と悔しそうに声を出すもう一匹のゴブリンソードと杖を持ったゴブリン。


「・・・・・・ゴブリンメイジ・・・。」


 ゴブリンソードと同じくゴブリンキングへの進化を許された進化形態の一つであるゴブリンメイジは、ソードとは違い名の通り魔法を操るゴブリンである。


「くそッ!!俺らも行くぞッ!!」

「・・・・・・だめ。」

「なんでだよ!!確かにあいつは俺らの想像するより戦闘センスに長けていたがッ!!」

「・・・・・・。」


 黙って見ていて。その視線を受けリーチは『ぐっ。』と悔しげな笑みを浮かべ押し黙る。


A()()()()()()()のお嬢ちゃんの殺気に怯えるなんて・・・情けねぇ。」

「・・・・・・。」


 拳を握りしめ、リーチ達は戦闘の行く末を見守る。

 倒れていたゴブリンソードは、どうやら脊髄が粉砕されたらしく立ち上がることは疎か呼吸をすることすら困難になっている。


「グギ。」

「グギィ。」


 作戦会議を始めたかと思えば、ゴブリンソードとメイジは二人で倒れているゴブリンソードを守るように立つ。


「ッ・・・・・・!」

「・・・・・・いけない。」


 若干の焦りを抱き始めるソフィ。


「どうしたんだ・・・?あいつ。」

「・・・・・・弱さ。」


 ソフィはカインを見据える。

 会って数日だが、知っていた。

 彼の弱さを。




「・・・・・・・・・あぁ。」


 これだ。


 仲間を守るゴブリン達に対して人間味を感じてしまった。

 対人戦について・・・覚悟を決めたからゴブリン討伐に赴いたはずなのに。

 討伐対象である()()に情を抱いてしまった。


「これじゃあ・・・僕も盗賊たちと一緒じゃないか・・・。」


 大切な人を奪う側・・・。

 大切な人々を守りたいがために強くなる。

 そう決意したはずなのに。


「カイン。」


 そこでソフィが離れた場所から飛んでくる。


「ソフィアさん。」

「・・・・・・倒して。」

「・・・・・・分かってる・・・分かってるんだけど。」


 カインは自らの左手を見る。


「震えるんだ・・・。」

「・・・・・・。」


 カインの手は確かに震えていた。

 それは恐怖から来るものか・・・否。

 大切な仲間を守ろうとするゴブリン達に対して自分を重ねてしまっているのだ。


「・・・・・・カイン。ゴブリンは討伐しなければいけない対象。」

「分かってる・・・・・・。」

「・・・・・・奴らは人間の女を繁栄のために犯している。」

「・・・・・・分かってる。」

「・・・・・・産んだ女はまた孕ませられ死ぬまでそれを続けられる。」

「・・・・・・分かっ」

「分かってない。カインはわかってない。ここで倒さなければまた犠牲者が出る。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・カイン。守るべき対象を見誤らないで。倒すべき対象を見失わないで。」

「・・・・・・・・・。」


 割り切ることが出来ない。

 目の前で起きた出来事を見て、討伐という二文字を躊躇ってしまう。


「分かってる・・・。これは・・・優しさじゃない。」


 愚かさ。だ。


 目の前のゴブリン達は警戒しながらも攻撃を仕掛けては来ない。

 倒れ込んでいるゴブリンソードを心配してのことだろう。


「僕には・・・・・・。」


 右手からするりと抜け落ちる剣。

 後方からは、失望と言わんばかりにソフィがため息を吐く。


「・・・・・・期待したソフィがバカだった。」


 カインより前に出て上位ゴブリンに向かい手を翳すソフィ。


 これが・・・これが僕の望んだ結果だったのだろうか。

 先日のように、皆の後ろに隠れ守られ見ているだけ・・・。


『・・・・・・あい・・・し・・・て・・・る。』

『逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!頼むッ!!お前達だけでも生きていてくれッ!!!!!』


 あの日の母の最期の言葉は・・・父の最期の言葉は・・・今尚、脳内で再生されている。


『貴方の大切な人々が殺されそうになったら・・・・・・貴方はどうするの?』


 その言葉に僕は決意したんじゃないのだろうか。


「・・・・・・貴方は剣を捨てた。誰かを守るために奮う拳を捨てた。貴方は守りたいとする対象を見殺しにした。」


 ソフィは淡々とそう告げる。


「・・・・・・ッ。」


 ドクリと何かが蠢いた。


 チクリと何かが痛んだ。


『お兄様。』

『兄ちゃん!』


 とある双子が居た。

 本当の兄のように慕ってくれた双子が居た。

 時に行き過ぎた行動を取るがそれでも愛おしい双子の妹が居た。


『カイン・・・無理をせずいつでも帰ってこいよ。』


 孤児院で育ててくれた院長(じいちゃん)が居た。

 優しく微笑んで・・・心配そうに僕を見つめそれでも送り出してくれた人が居た。


『兄ちゃん!』

『カインお兄ちゃん!』

『カイン君。』


 孤児院の子供達が居た。

 僕が居なくなると聞いて泣きじゃくった弟たちが居た。

 妹たちが居た・・・・・・兄が居た。


『カイン。強くなりなさい。』


 ・・・・・・そうだ。

 初めからそうだったんだ。

 誰かを守るというエゴの前に無駄な偽善は必要無かった。


「・・・・・・はは。」


 誰かを守るために、誰かを傷つけると言うのなら。

 相手からしてみれば僕は(てき)にほかならない。

 僕はただ守りたいという(おもい)を貫けば良い。


「・・・・・・?」


 乾いた笑いを出したカインにソフィは首を傾げる。


「ソフィ・・・席を外してくれ。僕がやる。」

「・・・・・・そう。」


 その後ろ姿は、どこか嬉しそうで。

 ソフィはその場から消える。




「お、おい。嬢ちゃん?」


 攻撃するかと思えば即座に戻ってきたソフィにリーチは、疑問を浮かべる。


「もういい。覚悟が決まった。」

「・・・・・・?」


 メンバーと共に首を傾げたリーチだが、その言葉の意味を数秒と経たずに理解することになる。




「ふぅ。」


 剣を拾って呼吸を整えたカイン。

 その目には強い意志が宿っている。

 正義感でもない。同情心でもない。使命感でもない。

『エゴ』という歪で確固たる強い意志が・・・確かに宿っている。


「ギギィッ!!」

「ギィッ!!」


 殺気を感じとった二匹。

 ゴブリンソードは剣を構え、ゴブリンメイジは詠唱を開始する。


「ふッ。」


 カインはこちらに照準を定めていたゴブリンメイジに剣を投げる。


「ギィッ!?」


 間一髪の所で避けたゴブリンメイジだが、既にそこにカインは居ない。


「ギィッ!!」

「・・・・・・ッ!!」


 右拳にある程度魔力を込めたカインは、ゴブリンソードの正面に現れ、強烈な打撃を放つ。

 暴風・・・とまでは行かないものの、あたりの木々は衝撃に揺れゴブリンソードは受け止めはしたものの、数十メートル吹き飛び剣は粉砕される。


 討伐対象であるゴブリンの一匹が、一時戦闘離脱した事によりカインはゴブリンメイジへターゲットを変更する。


 魔法がメインのゴブリンメイジは、近距離の戦闘に弱い。

 その事を理解していたカインは相手の瞬きの間に完全に迫り拳を放つ・・・と思いきや膝蹴りでダメージを与える。


「グギォッ!?」


 カインは更なる追撃を容赦なく繰り出そうと、先程投げた剣を右手に持ち、左手で地面を支点とし思い切り肘を曲げたと思えば、バネのように伸ばしその勢いで一瞬中に浮いていたゴブリンメイジを、より空へ蹴り飛ばす。


 「グギャッ」


 そのままブレイクダンスを舞うかの如く、華麗に体勢を立て直ししっかりと地に足をつけたかと思えば、ゴブリンメイジの居る空へ高く跳ぶカイン。




 「常人の戦闘スタイルとは・・・思えねぇ・・・。」

 「・・・・・・。」


 その感想にはソフィも同意である。

 アクロバティックな戦闘スタイルではあるが、あのようなスタイルで戦闘を優位に運べる人間がどれほど居るであろうか。


 「・・・・・・。」


 あれは才能・・・というより、仮契約により得た身体能力があの体に馴染んだ結果であろう。

 魔法を使えなかったカインは、取り柄がその常人の域を超える身体能力しか無かった。

 しかし、契約天学(フェアトラーク)を結んだ事によりカインの身体能力はさらに上昇。

 それに合わせて今まで発現しなかった魔力すら行使することが可能となった。

 今の彼に勝てるのだろうか・・・・・・。

 ソフィは、思わず身震いし戦闘の経過を見守る。




 「ふッ。」


 追撃を受け宙に浮かんだゴブリンメイジより、更に跳んだカインはゴブリンメイジが最高到達点に達するとともに、自らの持つ剣を容赦なく振るう。


 「グギィィィヤァァッ!!」


 断末魔が森林に鳴り響く。

 小さく不気味な体、緑色の肌。

 特徴的な鼻と耳。大きな目。

 見た目は違えどカインは理解した。

 今確かに人型の魔物を斬ったのだと。


 上半身と下半身が分裂・・・否切断される。

 体内からは先程食べたのか消化途中の色々なものが地面へと落ちていく。

 グシャリと気味の悪い音を立て肉を絶ったカインだが、

 感じるのは剣を伝い手に残る気味の悪い感触と、肌に飛んでくる青黒い液体の生暖かさ。


 上下真っ二つにした事により、ゴブリンの臓器であろう物体が次々に地面へグチャりと音を立てて落ちていく。


 「ゔッ。」


 先程食べた食事が逆流しそうになる。

 喉を伝いやってくる胃液(それ)を何とか抑え込み、カインはゴブリンメイジの亡骸より先に地上へと降り立つ。


 「グ・・・ギ・・・ギ・・・。」


 残りはあと二体。

 地面に倒れ込んでいるゴブリンソードは苦しみながら亡骸となったメイジに手を伸ばす。


 「泣いて・・・・・・いる・・・のか・・・・・・。」


 ゴブリンソードの瞳からは確かに涙が流れていた。


 「・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・ふぅ。」


 様々な感情が溢れ出しそうになる。

 僕は今、強さ(なにか)を得るために、何かを捨てようとしているのではないか・・・。


 「すぅ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・。」


 荒ぶる精神を落ち着け、カインは倒れ込んでいるゴブリンソードの背中に剣先を触れさせる。


 「グ・・・・・・・・・ギ・・・・・・。」


 それだけでゴブリンソードは大人しくなった。

 自らの死を感じ取ったのか・・・はたまた仲間の場所へ行けると安堵したのか。

 それは僕には・・・・・・


 ─── ザシュッ


 分からない。


 「グ・・・・・・・・・。」


 青黒い液体が宙を舞う。

 勢いよく飛び散ったその返り血をカインは浴び、目を閉じる。


 「この感触は・・・一生忘れることが出来ないだろう・・・な。」


 決意を固めたというのに。

 まだ手が震えている。

 まだ声が震えている。

 まだ泣きそうになってしまう。


 「グギィィッ・・・・・・グ・・・・・・・・・ギ・・・・・・?」


 数十メートル先から走って帰ってきたゴブリンソード。

『二人を助ける。』という強い想いを持ち再び死の待つ戦場に帰ってきたのだろう。

 言葉を失ったゴブリンソードだったが、瞬時に殺気を撒き散らす。


『怒り』『悲しみ』そのどちらとも取れる声は。表情は。

 カインにとって苦しいものであった。


 「グギ・・・ッグギィィッッ!!!!!!!!!」


 走ってこちらに向かってくるゴブリンソード。

 だが、もう既に迷いのないカインからすればその走る様はスローに見えたに違いない。


 「・・・・・・遅い。」

 「・・・・・・・・・ヒュッ。」


 カインは、瞬時に消えると走るゴブリンソードの背後に現れそのまま横薙ぎに一閃。

 ゴブリンの首と体が別れを告げる。

 三匹の中で一番生々しい死を感じ取れる断末魔だった。


 「ゔぅッ!!お゛ぇ゛ぇぇぇえ!!!」


 張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた途端。

 カインは地に手と膝をつき我慢していた吐き気が溢れ出す。

 口から流れていく胃液とともに、罪悪感と嫌悪感が流れることはなく、カインの瞳から一粒の涙が落ちた。


戦闘表現とかが苦手で上手くないですが、

楽しんでいただけたでしょうか?

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