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第15話.大森林セレネ

 

「そのためには、まず冒険者登録をする必要があるけどね。」

「・・・・・・マスティマ学院長からの。」

「えぇ。まぁ指名依頼っていうか・・・マスティマからの試練っていうか。だってあなた魔物すら倒したことがないのでしょ?」

「はい。」

「それに貴方が戦おうとしてるやつらだって。人間と同じなのよ。同じ形をした同じ人間(いきもの)を最初から簡単に殺せる人間(いきもの)なんて、少数しか存在しない。」


 ヴァローナの言葉を聞き、頷くカイン。


 「僕には・・・無理です。同じ人間を殺せるとは思えない。」

 「弱肉強食の世界に貴方は首を突っ込んでしまった。ならばもう無駄な倫理観は捨てなさい。」


 ヴァローナは真剣な眼差しでこちらに告げる。


 「特にこの冒険者という立ち位置は盗賊や闇組織の殲滅なんてものも請け負う職業なの。」

 「人を・・・殺す・・・。」

 「難しい職業なのよ。殺すことを躊躇うと次の犠牲者が生まれる。もしくは自分が殺されることになる。殺すことに慣れてしまうと自分という存在が保てなくなる。」

 「・・・・・・。」

 「人間という仕組みの中で、殺害っていうのは一つのトリガーなの。自らを壊してしまう・・・ね。私はギルドマスターとして何度も見てきたわ。とある盗賊に大切な人(こいびと)を殺され、復讐を果たした冒険者。

 闇組織に誘拐され、両目を失い帰ってきた娘を抱きしめ眠った翌朝。娘が自害していた。なんて話もね。その男は激怒し闇組織への報復を果たした・・・けど。」

 「・・・・・・けど?」

 「一人目の男は人を殺したという罪悪感から逃げられることはなく、冒険者を辞め薬に手を出して今や盗賊となっているわ。」


 恨んでいたはずの存在に自らが・・・。

 カインは思わず息を呑む。


 「二人目の男は、最期に言っていたわ。『人を殺すということは俺からしてみれば容易かった。だが今でも思い出す。自らの体に飛んでくる生暖かい赤の液体。刃先から伝わってくる生々しく気持ちの悪い感触。聞いた事のない人間の断末魔。死の間際の絶望、怒り、痛み、悲しみ。全てが表情に現れていた。今でも脳内では映像が蘇る。俺は確かに強かった。でもそれ以上に・・・心が弱かったみたいだ。』そう言って彼は後日恋人の墓の隣で酒を手に持って自害していたのが発見されたわ。死因は毒によるものだったらしいわ。」

 「・・・・・・・・・。」

 「こんなのは一部でしかない。良い?冒険者っていう職業。

 そして君がこれからさらに足を踏み入れる弱肉強食の世界ではそれが当たり前なの。それでもあなたは・・・。冒険者になるの?それでも貴方は・・・復讐を果たすの?」


 一瞬の戸惑いが生じる。

 人を殺す。その事について深く考えたことなど一度もなかった。

 冒険者という職業はそれほどまでに心を強く持たないと続けられないという事実。

 恐らくヴァローナは、カインの心の弱さを一目見て理解したのだろう。


 「大切なものを守りたい。その気持ちがあるのなら決して揺らがないで。仮に・・・貴方の大切な人々が殺されそうになったら・・・貴方はどうするの?」

 「僕は・・・。」


 想像する。


 孤児院の家族たちが今、その場で襲われる場面を。


 想像する。


 学院の仲間たちが今、その場で襲われる場面を。


 想像する(おもいだす)


 かつて起こった惨劇。その日の父と母を。


 湧くのは衝動(怒り)


 理解した。

 自分にもこの衝動はあったのだ。

 誰かを守りたいというのならば、この世界ではそれ相応の代償が必要なのだ。


 弱肉強食の世界でそれは、つまり。


 「・・・・・・ます。僕は殺します。」


 「そう。」

 「殺らなければ守れないというのなら僕は・・・。もう二度とあんな思いはしたくない。」


 あまりにも真っ直ぐに見つめるその瞳は、穢れを知らず怖気ずくことも無い。

 大切な人々を守りたいという純粋な気持ちから来る心の強さ。

 それと同時にその真っ直ぐな気持ちに危なさすら感じてしまった。

 大切な人々を救うためなら自分が犠牲になることも厭わない。

 まるで・・・あの■■のように。

 あれは、強くなりながらも弱すぎた。

 弱肉強食の頂点に立つには脆すぎた。

 だから、死んだ。だから、裏切られた。


 目の前の少年がかつての■■に重なってしまう。


 当時は誰かを守るために強く在ることが出来るのならそれで良いのだろう。

 ()目を瞑っていた。

 だがあの人は言った『あれは脆い。』

 ■■は確かに強かった。

 だが、知らなかったのだ。

 信頼していた仲間からの裏切りという穴に。

 ■■はあの人の言葉通り脆かった。


 「・・・・・・カイン君。誰かのために強くあろうとすることは否定はしないわ。」


 あの悲劇を繰り返すことがないように。


 「でも・・・自らもその対象としなさい。守るべき対象と。」

 「自ら・・・も?」

 「えぇ。貴方のような人間が居たことを思い出したのよ。

 ()()はあまりに強すぎた。優しすぎた。彼女は英雄になるべきじゃなかったのよ・・・。だからカイン君。

 誰かのために自らを犠牲にしようとするなんてことはナシよ。」

 「・・・・・・?分かり・・・ました?」


 今はまだ分からなくても良い。

 いずれ分かる日が来るかもしれない。


 「しんみりとした空気になってしまったけどごめんなさいね。私としてはマスティマから聞いた人物像しかなかったからどんな人間なのか確かめたかっただけなのよ。」


 ヴァローナは、お茶を啜り言葉を続ける。


 「これからは誰かを守ることだけじゃなく、自分を守ることにも全力を尽くしなさい。かつて・・・貴方を守った御両親のためにも。」

 「・・・・・・ッ。はいッ。」

 「いい返事ね。じゃあそろそろ初クエストにでも行ってもらおうかしら。」

 「ん・・・ばりばり。もぐもぐ。」


 会話の最中お煎餅を食していたソフィはようやく会話が終わったかと言わんばかりにお茶を啜り煎餅を流し込む。


 「・・・・・・ゴブリン。あれが最適。」

 「そうね。私もそう思っていたわ。対人戦も必ずあるはず。そして相手は殺す気で来る。そんな時カイン君が躊躇いでもすれば隙が生じて殺されるなんて事も有り得る。」

 「ん・・・。ゴブリンで人型に対する耐性を付ける。」

 「じゃあ、『大森林セレネ』でゴブリン退治ね。案内はリーチにでも任せるわ。」


 大森林セレネ。

 かつて一柱の神がその手で作ったとされる森の一つで、この世界で一番の広さを誇る大森林でもある。

 深層部には未だ誰も入ることが出来ていないという未開の地もあり、噂では天使などと同じく伝説の中の生き物である『四大精霊』などもいるのだとか。

 入口付近は比較的弱い魔物しか出ないため新人冒険者の教育、鍛錬などに使われることがある。


 「一応リーチはあれでもBランク冒険者だから、最悪の事態になっても生きて帰ることは容易よ。まぁ、ソフィも居るしね。」

 「ん。」


 人型の魔物と言えど姿形は人に近いゴブリン。


 もし、大切な人々が盗賊に襲われそうになれば、僕は・・・。

 そう決めたはずなのに。

 ゴブリン退治と聞いてしまっただけで体が震える。


 ヴァローナがそれを察してか、微かに笑みを浮かべる。


 「仕方の無いことよカイン君。初めての魔物退治・・・それも人型・・・となれば怖いのも仕方が無いの。

 皆そこを通過して冒険者になって行くの。」

 「・・・はい。」

 「例え盗賊たちを殺さないにしても貴方はルシファーと対峙することを選んだ。ならば必ず悪魔や魔人を殺すなんて事も出てくるの。今回のゴブリン退治もしっかりと覚悟を決めて挑みなさい。」

 「分かりました。」

 「・・・・・・そろそろ行く。」

 「そうね。じゃあ出ましょうか。」


 そう言うとギルドマスターであるヴァローナは先導し、一階へ降りるとリーチへ声をかける。


 「リーチ。」

 「お、ギルマス。なんだ?話は終わったのか?」

 「えぇ。貴方にも依頼よ。」

 「セレネの新人教育か?」


 ヴァローナはこくりと頷き、『任せたわ。』とリーチに言葉を返す。


 「まぁ、俺といえば新人教育だしな。今回は嬢ちゃんも居るしなんの心配もねぇだろ!んじゃ行くか!お前らも来いよ!」


『剛腕の斧』Bランクパーティのリーダーであるリーチが皆に声をかけると、『えー』と気だるげな声を出しながらもついて行くメンバー達。

 どうやらパーティ内の関係はかなり良好らしい。


 「え、ちょ!」


 ガハハハハ!とリーチはカインの肩に腕を回し肩を組んだ状態でギルドを出る。


 ソフィは相変わらずの無表情だが、どこか眠そうにリーチたちの後を着いていくのだった。


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