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第11話.白衣の幼女

 

「怪我人は休んでろよ。」

「ゲイル先生・・・心配無用ですよ。貴方のクラスのサラさんのおかげで、かなり楽になりましたから。」


 ポースポロスという最高峰の固有武器で体を斬られて、僅か十数分で楽になるはずがない。

 いくら、優秀な治癒魔法の使い手がいようと・・・だ。

 イヴは、それを理解している。


「何が楽になりましたから。だ。今にも倒れそうな顔で胸抑えてよ。」

「まぁ、そのおかげで直接攻撃を与えられたんですから。」


 無理に爽やかな笑みを浮かべるユーリ。


「貴様・・・・・・確かユーリと言ったか?」

「そうだけど?」

「・・・・・・よかろう。次会う時までに我と渡り合えるように研鑽しろ。」

「無理言うな・・・。こっちはこれでも限界なんだけど・・・。」


 そこに気を見計らったように突如として何かが現れる。


「帰るよルー。もう僕達の目的は果たした。とは言っても種を植えただけだ。これから芽吹くかどうか。それともそこの下等生物たち同様に踏み潰され生涯を終えるかどうか・・・は分からないけどね。」

『アベルッ!』


 思わず叫ぶイヴ。だが既にアベルの眼中にイヴの姿はなかった。


「じゃあね。暫くは君たちと会うことは無いだろうね!

 疲れたでしょ?ルー。()()()()()()()()()のは。」

「・・・・・・今の力を御するのは難しい。危うく殺しかけた。まぁ、あの小娘が治したようだがな。」

「あは!殺しかけたんだ!死人が出なくてよかったね。」

『待てッ!アベルッ!』

「じゃ、クラウド回収して帰ろっか。バイバイ。」


 そう言うと二人はその場から消え去る。

 先程までの出来事が嘘だったかのように、魔物たちも全て霧散し消え失せる。


「助かった・・・んだよね。」


 カインは、プレッシャーと緊張から解き放たれる。と同時に魔力切れを起こし地上へと落下する。


『カインッ!』

「ありがとう・・・イヴ。」


 こうして、短くも長い天災達との戦闘は一旦幕を閉じる。

 幸いだったことは、手加減をされていた・・・ということだった。


 今思い返して見れば、ルシファーは時間稼ぎだったのかもしれない。

 戦闘以上に会話の多い数時間だったことは確か。

 本当に時間稼ぎだったのか、それともルシファーの起こした気まぐれだったのかは今となっては定かではない。

 しかし最後の膨大な魔力量を見ればわかる。

 ルシファーならば、僕たちを・・・いや、ここに居る学院全員を瞬殺できたんではないか・・・と。


 終幕があまりにもあっさりとしているせいで現実感すら感じない。

 だが、これは現実だ・・・。と

 震えるからだと体の傷が語る。


「終わった・・・・・・終わったけど・・・・・・。」


 自分は役に立てなかった。

 確かに魔力を得て少し調子に乗っていた部分もあったがルシファーと対峙することで全てが、未熟だと理解した。


 弱い。あまりにも弱すぎる。

 この戦いで三回命を失いかけ、三回とも周りの人々のおかげで命拾いした。

 何が一緒に戦えて光栄です。だろうか。

 何が許さない・・・だろうか。


「未熟だ・・・・・・未熟すぎだ。」


 小さく呟いたその言葉が聞こえたのは、カインを抱えたユーリとその胸に抱かれた(イヴ)のみ。


「強く・・・・・・なりたい・・・・・・」


 空を見上げ、小さく呟くカイン。


『あぁ。お前はまだ成長する。今は暫し休め』


 青白い顔で痛みを必死に抑えているユーリの顔を見ながらカインはそのまま意識を手放し眠りにつく。








 地上から上へ昇り、さらに上空に位置する異界。

 人間界では長い歴史で架空とされてきた天界では、緊急会議と称し、熾天使達が集まっていた。


「奴らが地上に現れた。」

「奴ら・・・・・・というと?」


 厳格そうな一人の男が、重い口を開いた。


「・・・・・・ルシフェルとアベルだな。」

「その通りだ。」

「ふぅん。放って置いて良いんじゃない?ウチらには関係の無いことなんだし。」

「・・・・・・元とは言え我らの同胞。尻拭いは我らでするべきだ。」

「全くウリエルは頭が硬いんだから!ほらもっとフランクに考えようよー。ウチ面倒臭いし。」

「だねー。僕もそれには賛成かなー。だって人間なんて消えて当然の生き物でしょ?」

「ラファエル君。それはどうかと思います。元は神が創りし物。だとすれば我らと同じく創造神を親に持つ仲間ではないですか。」

「アベル殺ろー。」

「そーだ、そーだー。」


 テーブルをトンッと指を置き鳴らすミカエル。


「全てカマエルが見た通りだ。そしてもう一つ。」


 ミカエルはみなを見据え口を開く。


()()の封が一つ砕けた。」


 その言葉に皆真剣な面持ちへと変化する。


「皆のもの。来るべき時に備え力を蓄えろ。」

「「「「「「了解」」」」」」


 ミカエルの言葉に熾天使一同が返事をし、解散する。

















『・・・・・・・・・イン・・・カイン。』

「ん・・・・・・。」

『何度呼びかけたと思ってるんだ。』

「おはよう・・・・・・イヴ。」


 ベッドから上体を起こすカイン。


「ここは・・・・・・。医務室・・・?」

『あぁ、もう既にルシファーとの戦闘から二日経ってる』


 ベッドを割り振ってある布のカーテン越しに小さな人影が現れる。


「マスティマから全て話は聞いた。魔力発現して即身体強化を酷使するとは。大バカものだ。」


 カーテン越しに聞こえるその声は可愛らしい少女の声そのものである。


「縁を結んだものとの再会により『魔力の蓋』が開いたというのは、まだ分かる。()は何度かあった事だ。しかし。初めての魔力行使で身体強化魔法を限界以上に酷使したそうじゃないか。」


 バサッ!と勢いよく開かれたカーテンの先には、栗毛色の綺麗な髪に大きく見開かれた茶色の瞳。

 見た目でいえば完全に幼女だが、纏う空気はただならぬ様子のナース幼女。


「何故生きている?不思議だ。本来なら爆散してもおかしくない。あれか?身体能力が常人より優れているから身体強化に耐え得たのか?否。そんなはずは無い。だって君は力を『借り受けた』だけだから。」

「借り・・・受けた?」

「その通り。『アベルの惨劇』の日にイヴと縁を結んでいた君は『契約者(仮)』という立場にある。そのため君はイヴと契約する際に得るであろう力の一端を前借りしていたのさ。」

「つまり僕の身体能力が高いのは。」

「イヴのおかげだったという事さ。魔力が皆無だった件もそれに関係している。」

「というと?」

「君は幼き頃にイヴに出会い縁を結んだ。そう魔力が発現する前に。縁を結んだことにより得てしまった身体能力(力の一端)そしてこれからは発現するであろう魔力。幼い君の体では間違えなく耐えうることなく体が悲鳴をあげ爆散していたに違いない。君の体は危険信号を出すことになるだろうと理解し、君自身が勝手に境界線を引いたのさ。」


 目の前の白衣幼女はフフンッと無い胸を張る。


「君は『契約天学(フェアトラーク)』を正式に結び、君自身の体も成長しどちらとも兼ね備えたとしても許容できる範囲に収まった。その事で君自身には更なる身体能力の上昇の獲得と魔力の発現が叶ったのさ。」

「なるほど・・・。」

『すまない・・・カイン。そういう事なんだ。『仮契約』も既に結ばれていた。ただ俺に迷いが生じてしまったんだ。これ以上お前を巻き込んで良いのか・・・?とな。』

「イヴのせいじゃないよ。これは僕自身が悪いんだよ。」


 実際今回は、痛いほど思い知ってしまった。

 今はルシファーに勝てるなんて思い上がりはない。

 だけど・・・あまりにも非力すぎる。

 自分は弱い。

 頭の中でその言葉だけが反芻する。


「ってちっがーーう!!そうじゃない。ワシが言いたいのは、初めての魔力行使で身体能力強化を酷使したのに、二日程度で目を覚ましているんだって話だ!」

『やれやれ・・・・・・。コル・・・。カインは寝起きなんだ。とりあえず落ち着いて自己紹介しろ』

 「・・・・・・。おぉ。私とした事が『契約天学』なんて久方ぶりに聞いてしまったから少し興奮してしまったな。」


 コルと呼ばれた幼女は、白衣をただしこちらに手を出す。


 「ワシはコルニクス。親しい者達からはコルと呼ばれている。マスティマとは昔馴染みでね。もちろんそこのイヴとも。素性は不明ということでよろしく。カイン。」

 「よ、よろしくお願いします。コルニクスさん。」


 コルニクスはニヤリと不気味には見えない可愛らしい笑みを浮かべる。


 「コルと呼びたまえ。君とはこれからも関わりそうな予感がする。それと敬語も使うな。」

 「分かりま・・・分かった。よろしく。コル。」

 「うむ。良い切り替えだ。おっと。そうだ忘れていた。そろそろ目覚める頃だろうとマスティマに伝えていたのだが、そのマスティマに伝言を頼まれていたのだ。」


 コルはベッド前から離れ自らの席に落ち着きコーヒーを一服。


 「ふぅ・・・。目覚めたら学院長室に来るようにと。」

 「マスティマ学院長が・・・。分かった。行こうイヴ。」

 『まぁ、俺としてはまだお前に休んで欲しいが・・・』

 「大丈夫。学院長が聞きたいのはルシファーの事でしょ?仮にも僕も当事者の一人なんだから早く行かないと。」


 カインは、ベッドから起き上がる。


 「カイン。強くなりたいのならまずは契約天学を結んだ事で得た力を使いこなせるようになることだ。

 まぁ、ワシよりもその事に詳しい人物が君の隣に居るし問題は無いだろうけどな。ただ、焦りは禁物だ。

 大怪我されてワシの仕事を増やされても困る。気をつけろ。」

 「うん。心配ありがとう。」

 「言っただろ。ワシの仕事を増やされても困る。と。」


 ふん。とそっぽを向いたコルに苦笑し医務室から出る二人。


 『あいつが、あんなに楽しそうに話す姿は久しぶりだったな』

 「久しぶりって・・・どのくらい?」

 『500年・・・?』

 「ごひゃっ!?」


 時間感覚が違いすぎる・・・・・・。

 一体何者なんだろう・・・。コル・・・・・・。


 『そういえばあいつは、歳を重ねても容姿が変わらないから威厳を出すためとあの口調必死に勉強してたな。』

 「一人称も不思議だったけどかえって可愛らしい気が・・・。」


 二人は暫くコルについて盛り上がりながらも学院室へと向かう。

そろそろ異世界ニホンも投稿再開します・・・!

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