第10.5話.嫉妬と羨望
弱いものが気に食わない。
強いやつが妬ましい。
「何であいつが・・・!」
なんであいつが前線に赴いて居るんだ。
真っ先に湧き出たのは怒り。
Fクラスの落ちこぼれ。
何をされても笑っていて、弱いくせに時々刃向かってくる俺の一番嫌いな人種だ。
突如として現れた恐ろしいプレッシャーを放つ三人組。
そして、その中の一人が放ったとされる魔物の群れたち。
FクラスからCクラスまでは、実力不足と見なされ頑丈な結界の張られた寮で大人しくしていろ。
教師たちからそう命令されたのだ。
「実力不足・・・舐めるな。」
ベリルは教師たちの忠告を無視して、魔物のいる外へと向かった。
「俺が最強だ。いずれ悪魔たちをぶっ殺す英雄だ。」
ニヤリと笑みを浮かべ魔物を探しに出る。
辺りでは、BクラスからSクラスの生徒たちが見て取れ、魔法を詠唱するもの、または騎士として剣を振るうものもいた。
そこで、教師たちの会話が耳に入る。
「おい。何であの『無能』って呼ばれてる生徒が『伝説』達を相手にしてるんだよ・・・?おかしいだろ?」
「それが俺にも分からないんですよ。話を聞いた限りだとどうやらユーリ先生とマスティマ学院長が許可してるらしくて。」
「納得いかねえな。俺たち教師の方があいつらに対抗出来るだろうに。」
「ぼくも納得いってないですよ。ただそれをユーリ先生に言ってみたら・・・」
一人の教師は体を震わせる。
「『それは暗にカイン君が無能だって言いたいのかな?僕の目の前で・・・。』って穏やかだったけどあれは・・・やばかったですよ・・・。」
「何かユーリ先生はあいつのこと気に入ってるよなぁ・・・。
雑魚のくせに十強に気に入られてるからって手柄立てられるの良いよなぁ。俺だったらルシファーなんて一発でやってやるのにさ!」
「教師が生徒の悪口を言うのはダメですよ!!」
「だってよ?伝説が居るんだぜ?それを討伐したらどうよ。もう一生遊んで暮らせるぜ?世界が変わる。特級の称号も与えられるだろうし女も選び放題だぜ?まさに酒池肉林ってな!」
一人の教師は笑う。
「ゴミが・・・。」
小さく呟き、ベリルは歩みを進める。
でも確かに・・・と思える部分はある。
それはもちろんカインがルシファーと対峙している事だ。
かつて世界を震撼させたルシフェル達の裏切り。
ルシファーとアベルという二人の天使は堕天し、消えた。
「そんなやつらと・・・何で・・・俺の方がッ!!」
ベリルは嫉妬呼ぶにふさわしい感情を纏い、壁を殴る。
「無能め。」
暫くすると、魔物と対峙している生徒や教師たちの姿があまり見えなくなり『序列一位』が一人で魔物の相手をしているという特化校舎の裏手へとたどり着く。
「なんだ・・・・・・あれは。」
いち早く不穏な空気を察したベリルは校舎の影に体を忍ばせ、集中して聞き耳を立てる。
『こちらへ来ないか?』
それは確実に勧誘と取れる状況下での言葉だった。
レイに手を差し伸べているのは、アベルという名前の人物。
「あれが・・・・・・裏切り者の一人であるアベル。」
見た目は美少年であり一見強そうには見えない。
だが、アベルを見るだけで冷や汗が止まらず、足の震えも止まらない。
「あれは・・・・・・やばい。」
狂犬と呼ばれるベリルですら、竦んでしまうほどの恐怖に駆られる。
「くっそ。よく聞こえねぇ・・・・・・ッ!」
レイとアベルの声が聞こえず、一歩、また一歩と気付かれないように近づいていく。
近づく事に心臓の音がドクンドクンと激しくなり、呼吸すらも荒くなる。
そして・・・・・・。
「ッ!!」
常人ならば気が付かないであろう距離でアベルはこちらを見る。
『じゃあ、とりあえず今日のところはここで退散しようかな!』
結局どういう結果になったのか・・・それは分からずじまいだが今はそんな事を気にしている暇はない。
ベリルは走る。『危険だ。』
自らの体がそう信号を出している。
目立つ体格と髪の色をしている不良のため教師に気付かれ名前を呼ばれる。
「はぁッ!はぁッ!」
そんな事はどうでも良い。
今は逃げないと確実に死ぬ。
「はぁッ!はぁッ!」
泣いてしまいそうだ。
笑ってしまいそうだ。
狂ってしまいそうだ。
恐怖のあまり。
強いとほざいていたのにと情けなくなるあまり。
死を実感している今何も考えられない。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。ここまで・・・・・・来れば・・・・・・。」
「ここまで来れば・・・何かな。」
「う、うわぁッ!」
情けない声が出る。
自らの口からこんなにも情けない声を出したのはいつぶりだろうか。
「君・・・さっき覗いてたよね?」
「い、いや・・・いや・・・・・・いや・・・。あっ、あ、あ。」
声が出ない。
「いいんだよ?別に怒ったりはしないさ。」
だって感情を剥き出しにするほど君に興味はない。そう言わんばかりの表情。
ゴミを見るような視線。
嘲笑するような笑み。
「お、お・・・・・・お・・・・・・れ・・・・・・」
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
「俺の方が強い・・・?レイより俺の方が強いッ!って?」
ベリルは、代弁してくれたアベルに向き直りコクコクと頷く。
その瞬間少年とも少女とも取れる声で嗤う。
「ぷ!!!笑わせないでくれるかな!!!!」
このプレッシャーに若干慣れてきたベリルは、怒りを覚える。
「笑わ・・・せてないッ!俺は・・・本気だッ!」
「いや、笑わせてるでしょ。大体あんなにビビって逃げてた君が強い?どこに説得力があるの?」
「・・・・・・ッ。」
「彼は向かってきたよ。恐怖すらせず、否、していたのかもしれないが自らに自信を持って。それだけでも僕たちの仲間に相応しいッ!
いずれは天使たちを相手にするんだ。それぐらいの自信と力を持ってくれる方が僕も安心してこの世界を滅ぼせるってもんだよ。」
「俺は・・・強いッ!」
「そう思いたい?」
ケラケラ笑うアベル。
ベリルの耳元に口を近づける。
「情けない声を上げて今にも泣きそうな顔をして恐怖から走って逃げて、それでも強いって思いたいんだぁ?」
耳元で囁かれる悪魔の声。
「これだから人間って醜くて汚らしくて頭が悪い。一人じゃなーんにも出来ないくせして、集団になれば何度も戦争とか起こして殺し合うんだからねぇー。僕の理想の方がよっぽど良い世界になるなぁ。」
アベルは、耳元から離れると再度ゴミを見るような視線でベリルを見て言う。
「残念だけど君には価値はないよ。あ、でもこれだけは渡しておこうかな?学院を騒がせる火種をしっかり作っておこうかなぁ。」
そう口にすると、アベルはベリルの心臓を自らの腕で一刺しする。
「ガァッ。」
言葉にならない声を上げ、ベリルは美少年を睨む。
悔しい。
力があれば。
どれほど羨望しても手に入らない。
「君が僕の仲間になりたがったんだからそう睨まないでよぉ?」
アベルの魔力が大量に流されベリルはとうとう気絶する。
「んー。一応時限式にしておいたけど・・・。発動するのは・・・そうだなぁ。毎年恒例のあの時期かな?」
アベルはそう言うと楽しそうに鼻歌を歌いながらその場から消え去る。
時は少し遡り避難の際とある、会話が聞こえた。
『聞いたか?無能が前線に居るって。』
『いや噂だろ?実際俺ら見てねえしさ。』
『いやそれが、教師達が会話してるの盗み聞きした奴がいてさ。どうやら本当らしい。』
『まじかよ。じゃあここでバイバイか?あーあそれはそれで悲しいな。』
『だな・・・・・・。俺はのサンドバックいなくなっちゃうし。』
あまりにも酷い会話で、小さな拳をキュッと握った一人の生徒。
「本当なのかな・・・・・・カイン君。」
少し前に、とある貴族の生徒から危ないところ助けてくれたカイン。
リゼは、あの時の優しい笑みを思い浮かべ居てもたっても居られなくなる。
「ご、ごめん!私ちょっと御手洗に行ってくるね!」
「リゼ!?私も行く!ひとりじゃ危ないでしょ!」
「いや大丈夫だよ!待っててね!」
自分の事情で友達を危険に晒すわけにはいかない。
リゼは友達の心配を無視し、教師たちには見つからないようにカイン達の元へと足を運ぶ。
「ひゃ・・・・・・。」
外は魔物が跋扈する野生の森と化しているようで、リゼの足が竦む。
「行かなきゃ・・・。」
覚悟を決めリゼは魔物にも見つからないよう慎重に、歩む。
幸い、授業で習った認識妨害の下位魔法を覚えていたため危なげなく進むことが出来た。
少し離れた場所ではSランクの生徒である『纏雷姫』が得意の雷魔法で魔物を滅していた。
あまりにも自分とは格が違う才能を見せつけられ羨ましいという気持ちもある。
がしかし、望んでも手に入らないのだから自分の出来ることをやっておく。
リゼはそうして地道に努力を積み重ねてきた。
『・・・・・・つまらん。』
ふと空から聞こえてきたその言葉にもの陰に隠れながらも上を見る。
上空にはSランクの担任であるゲイル先生と、ハルヒメ。
そして、剣を持ったカインの姿があった。
「カイン・・・君?」
対峙しているのは、本物だろうか?
あれが本物ならば『ルシファー』と呼ばれる堕天使。
伝承でしか聞いた事のなかった伝説。
そして十年までに世界を危機においやった張本人の一人。
なんでそんな怪物とカイン君が・・・。
「カイン君・・・・・・。」
『死なないで。お願い。』そう願う他に出来ることは無かった。
あの二人みたいにカイン君の隣に立って戦う力があれば、
先程の『纏雷姫』のような力があれば。
悔しい。
力があれば。
どれだけ妬んでも私に隣に立つだけの力は手に入らない。
地道に積み重ねればいつか強くなれると信じていた。
そう。いつか。
だけど今は違う。
どんな力でも良いから私も『今』カイン君の隣に立ちたい。




