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アベルの惨劇

イヴを『女性→男(武器)』へと変更致します。

 

  荒野とかしたこの王都。

  周りには建物だったはずの残骸や人々の亡骸が存在していた。


 死という絶対的恐怖を与えられた人間はどうなるのだろう。

 答えは簡単。


「あ・・・・・・・・・。」

「うーん。1000年たった今契約天学(フェアトラーク)すら使えない君たち人間は脆弱だね。」

「・・・・・・つまらん。」


 カインという少年は、目の前に立つ何者か二人に恐怖する。


「カインッ!!!!!逃げなさいッ!!!!」


 そう声を荒らげるのは、カインの母。


「あ・・・・・・あ・・・・・・。」


 恐怖し腰を抜かしているカインは声すら出せず、目の前で殺されていった人々を眺めていた。

 アイアス王国王都であるイラスは既にその面影を無くし、王城含めた全ての建物がただの残骸と化している。


「カインッ!!カインッ!!」


 母の叫びも今のカインには届かない。

 無理もないだろう。

 無数の死体が転がるこの王都で、嬉々として殺戮を行う何者かが二人。


「しっかし。1000年経てば変わるもんだね。久しぶりの地上もあまり懐かしさを感じないし。」

「・・・・・・。」

「あ、でもそろそろ天界の()()()達は僕らの裏切りに気付いてこっちに向かってるかもしれないね。」


 呑気に会話を続ける二人。

 まるでこちらには興味が無い。そう言わんばかりだ。


「イヴリールあたりを()()()のもいいなぁ。」


 その瞬間空から光の刃が降り注ぐ。

 僕や母。人々の亡骸を精巧な技術で避けてアベルとルシファーだけを狙った攻撃だった。


「俺の噂か?アベル。」

「お!噂をすればだね。そうそう。あとは君の力さえあれば天使共に対抗することが出来るかなぁってね!」

「お前とは、これからも仲良くやって行けると信じてたんだがな。・・・・・・・・・どうして裏切った?」

「ん?決まってるでしょ?神になる為だよ。」

「神に・・・?」

「僕達は今や神に最も近しい存在。ならばもう神なんてものに従わず、僕自身が神になればいいんだよ。」

「・・・・・・神か。」

「もう飽きたんだよねぇ。それに1000年天界で引きこもってて気付いたんだよ。人間の愚かさにね。何故僕がそんな下等生物の為に地上を離れなければならない?」


 こちらに視線を向けるアベル。

 カインは一瞬ビクッとしたが、少し離れた場所にいた母がこちらに近づき抱きしめる。

 建物の倒壊ですでに、右足の骨があらぬ方向に曲がっていたはずの母が這いつくばりながらこちら来てくれたのだ。


「だからさ。決めたんだよ。地上にいる『魔人』達と手を組んで人間という醜い下等生物を駆逐しようってね。」


 アベルがこちらを指さす。


「うッ・・・」


 途端に母が胸を抑え苦しみだす。


「やめろッ!アベルッ!!!!」

「やーだ。やめないよ。・・・ほらっ。」


 その瞬間パンッ!!と何かの破裂音がする。


「これ以上人間を巻き込むなッ!!!!」


 何が起きたのか分からなかったカインは、ふと後ろから聞こえた言葉と、首筋を流れる何やら暖かい液体にそちらを見やる。


「・・・・・・あい・・・し・・・・・・る。」


 先程まで泣きながら抱きしめてくれていた母が吐血し、倒れ込んでいた。

 後から思うにあの破裂音は、心臓だったのだろう。


「かあ・・・・・・さん?」


 父は死んだ。

 カインと母を逃がすために建物の下敷きとなり。


 何故こんなことになったのだろう。

 僕は・・・僕達はただ、王都に遊びに来ただけなのに。

 お父さんの仕事が休みで。お母さんと3人で。

 遊びに来ただけなのに。


「う・・・ぅぅぅぅ。」


 言葉にならない声を上げ泣くカイン。


「アベルゥゥウウッ!!」

「うわぁ。これじゃあどっちが堕天使か分からないね!」

「・・・・・・アベル。そろそろ。」

「あ、そうだね?ひとつ言っておくね?イヴリール。君がここに飛んできたのは良い判断とは言えないよ。何せ僕たちの狙いは、天界にある『混沌の鍵(ケイオス)』なんだからね。」

「!?」

「因みにこれから僕は転移した後に君も仲間に仕立て上げるつもりだから。君も堕天使の仲間入りしちゃうかな?」

「転移魔法なんて使えなかったはず・・・待ッ!!」


 瞬間アベルとルシファーはその場から姿を消す。

 残ったのは全壊している王都と、大勢の亡骸。

 そして母を抱き泣く子どもの姿だけだった。


 イヴリールは、翼を動かしカインの前に降り立つ。

 私がもっと早くに来ていれば人々は死ななかったのだろうか。

 そんな自責の念が募る。

 目の前の泣きじゃくる子供を見て胸を痛める。

 今は泣かせてあげたい。

 だが、両親の居ないこの子は強く生きていかなければならない。

 イヴリールは泣きじゃくるカインの頭に手を置き撫でる。


「強くなれ。必ずまたあいつらは攻めてくる。自分の守りたい全てを守れるくらいに強くなれ。」


 イヴリールはきつい言葉をかける。






 ◇◇◇◇◇







 しばらく泣きじゃくったカインの頭を優しく撫でアイアス王国の別働隊が来たのを察知し、入れ違いで消えたイヴリール。

 小一時間ほど、カインのそばに居たイヴリールは即座に天界へと戻る。


「アベル達は?」

「・・・・・・。」


 現天使長であるミカエルに問うが言葉が返ってこない。


「お前・・・今まで何をしていた。」

「地上で子供を・・・。」

「とぼけるなッ!!!!」


 熾天使たちの集う一室で声を荒らげるミカエル。

 その様子にイヴリールは察する。


「まさか・・・。アベル達が何か?」

「お前もあの裏切り者と通じていると言っていたが?」

「そんな虚言信じるのか?」

「信じるも何もこうして『混沌の鍵(ケイオス)』を奪われた数分後に帰ってきたのが何よりの証拠ではないか?」

「・・・・・・ッ!?」


 恐らくアベル達は、イヴリールのこちらに向かってくる時間なども全て計算し天界へ乗り込んだのだろう。

 イヴリールは、他の熾天使達を見やるが皆裏切り者と見なしているのか憎悪を孕んだ瞳をこちらに向ける。

 ガブリエル以外は。


「ちょっと待ってよ!それだけで罪人と見なすのはまだ早いでしょ!」

「ほう?じゃあなぜこいつからアベルとルシフェルの匂いを感じる?先程まで一緒に居たからでは無いのか?」

「あぁ。確かに居た。がそれは対立してたからだ。先程まで交戦していた。」

「交戦していた・・・?」


 そこでミカエルは声高らかに笑う。


「これで決定だね。天界から地上までどのくらいかかると思っているんだ?君が交戦していると言っていた場所はどこだ?」

「アイアス王国の王都だ。」

「転移魔法でも使えない限り無理だろう!?」

「だから転移魔法を・・・」

「これで決まりだね。アベルとルシフェルは転移魔法を使えない。君もそれを知っているはずだよね?」

「・・・・・・そうか。どうしてもお前たちは。」


 そうこの時は知らなかったのだ。

 召喚の深淵を。だからこそ余裕のないミカエルもそれを見誤り、熾天使達はイヴリールを罪人とみなした。


「決定だね。これよりイヴリールを『罪咎天使』と見なし、現世へ追放する。」

「それはいくら何でもおかしいんじゃないっ!?」

「ガブリエル・・・。これ以上異論を唱えるのならば君も罪咎天使と見なすが・・・?」

「ッ!!!!」

「我々には猶予がない。悪魔に降った堕天使ども。

 そして現世の魔人共。大きな戦となることは避けられないだろう。だからこそ異物は今のうちに取り除かなければならない。」


「じゃあ僕に任せてもらおうかなー?」


 どこからか現れた美少年に、ミカエルはため息をつく。


「ここは天界。天使以外が踏み込んでいい場所ではないぞ。マスティマよ。」

「まぁまぁ。硬いことは気にしないでー。僕の監視下におけばイヴリールも何も出来ないだろうし問題ないでしょ?」

「・・・・・・。それも・・・そうか。中立の存在であるお前ならばな・・・。」

「じゃあ決定ー。イヴリールは僕の学院の地下に封じる事にしよう。」

「しかし万が一・・・」

「それは無理だって分かってるでしょー?僕がどちらかに傾けば僕自身が消えてしまうんだから。」


 しばらく熾天使達と話を混じえていたマスティマだったが、結果皆の了承をもらい、イヴリールを連れその場から消える。


「『契約天学・・・』そろそろ契約者見つけた方が良いかもなぁ。」


 小さな声でボソッと呟いたガブリエルの言葉は誰にも聞こえず。

 ガブリエルはその場で天井を仰ぎ見た。










「すまないマスティマ。まさかお前にまで迷惑をかけるとは。」

「いいよいいよー。僕もこれだけしか出来ないけど罪咎天使となった君が天界(あそこ)に居ればどんな扱いを受けるか分からないからね。親友として微力ながら助けに来ただけだよ。」


 既に傾いているのかもしれない。

 しかしこれは天使という種族への肩入れではなく、

 イヴリール個人への肩入れ。

 マスティマ自身それを自覚していたから消えることはない。







 既に縁は結ばれた。

 これは後に再会する無能と罪咎天使の物語である。

契約天学(フェアトラーク)』という術を用いて縁を確固たる絆とする二人の物語である。


『契約天学』へ変えました。

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