勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
「おっさん……
悪いがパーティを抜けてくれ」
人気のない酒場に呼び出され開口一番告げられた言葉に、俺は頭の中が真っ白になる。
最初は何かの冗談かと思った。
だが卓を囲むメンバーの顔付きを見てマジな話だと実感する。
「大事な話があると聞いていたが……
アレク、いったいこれはどういうことなんだ?」
「言葉通りの意味だよ。
相変わらず鈍いな、おっさんは。
ボク達のパーティはギルドの評価も高く、もうすぐ皆S級に届こうとしている。
そんな中、万年D級のおっさんがいたら足手まといなんだよ。
だから――今日でおっさんとはさよならだ。
さっさとパーティを抜けてくれないか?」
パーティを抜けろ?
確かに俺は今年37歳になったロートル冒険者だ。
体力的にもレベルの伸びしろ的にも最近は足を引っ張っていたかもしれない。
だからこそ面倒な雑用や情報収集などを買って出てパーティに貢献してきた。
さらにこいつらとは駆け出しのころから面倒を見てきたという自負がある。
リーダーのアレクシアに至っては、先日ついに国から勇者の称号を受けるまでになった。
今までも決してメンバー間の仲は悪くなかった。
むしろ慕われているとすら思っていたのだが……
どうやらそれは俺の勘違いだったようだ。
目の前に座る勇者アレクの失望した顔に俺は事態の深刻さを悟る。
「フィーナもミザリアも同じ意見か?」
一縷の望みを掛けてパーティーメンバーである聖女と賢者の二人に声を掛ける。
淡い期待を抱く俺。
しかし――現実は残酷だ。
そんな俺に返されたのは取り付く島もない言葉だった。
「今までご苦労様でした。
あとはわたくし達と関わらない人生を送ってくださると幸いですわ」
「皆がいれば事足りる。
アンタはもう用済みなの。
さっさとその辛気臭い顔を視界からどけてほしいのだけれど?」
興味の欠片もない二人の眼差し。
昨日までは憧れと信頼に溢れていた瞳が――今は路傍の石を見るかのようだ。
どうやら俺は知らない内にここまで信頼を失っていたらしい。
いや――最初からそんなものはなかったのか?
俺の独りよがりだったのか?
酩酊したかのようにグラグラする身体。
苦心しながらも俺は椅子から立ちあがり別れを切り出す。
ここは俺の居場所じゃないのかもしれない。
それでも――こいつらと過ごした日々は楽しかった。
だからおせっかいでも一言だけ忠告をしていきたい。
こいつらと過ごす事は――どれだけ望んでも二度とないのだから。
「――分かった。
今日を以て俺はパーティを抜ける」
「やっと分かってくれたか……」
「ああ、俺の未熟さを思い知ったよ」
「なら――いいや。
ああ、パーティの資産である道具類は餞別として持っていきなよ。
道中行き倒れても寝覚めが悪いし」
「そうか……ありがとな」
「別に礼を言われる事じゃない。
ボク達の評判を落とさない為の当然の措置だから」
「そっか……それでも助かるさ。
じゃあな、アレク。
魔法剣を使う時ガードが下がる癖を忘れるなよ?
じゃあな、フィーナ。
法力の連続発動時に目を閉じないように注意しろ。
じゃあな、ミザリア。
詠唱の際の魔力障壁ばかりに頼り切りになるんじゃなく体幹も鍛えろよ」
「ったくおっさん……
いや、ガリウス――
あんたは最後まで嫌味なおっさんだったな」
アレク――シアのどこか呆れた声を背に俺は酒場から出る。
胸中を隙間風が抜けたような寂しさがよぎっていく。
だがその反面、呪縛から抜き出たような解放感を感じてもいた。
これからの人生は自分の為に生きる。
決して後悔しない為に。
俺、ガリウス・ノーザンはそう誓うのだった。
「――行った?」
「ええ、間違いなく」
「探知魔法も使った。
郊外へ向かっているのを把握したわ」
「ふう~危なかった。
どうにか説得に応じてくれたね」
「まったくですわ。
ガリウス様の事ですから、中途半端な態度ではお前達が心配だからとこっそり尾行されてきそうですし」
「あはは、ありそう。
ガリウスは過保護だからねー。
最後の助言は心に浸みたな~」
「あれは反則ですわ。
思わず演技の為の仮面が外れそうになりましたもの」
「まあね。
自分が窮地でも優しさや労わりを忘れない。
だからこそおっさんは最高なんだけどさ。
……それじゃ再度確認するよ。
ボク達はおっさんのお陰でここまで成り上がった。
それに対する感謝は忘れてないよね?」
「勿論。
わたくしは身寄りのない孤児院の一人だったのに、聖女と呼ばれるまで育ててくれたんですよ?」
「同感。
あたしだって色々教わって賢者の資格を取得出来た」
「ボクなんか田舎の農家出身だったのが、おっさんに鍛えられ今や勇者だよ。
おっさんがいなければ間違いなく野垂れ死にしてたのにさ。
あの人は親以上の存在で間違いない。ただ……」
「――ええ。
わたくし達の事にかまけて自分が疎かになってしまう。
本来であればガリウス様こそ英雄になれるお人なのに」
「あたし達もあの人に甘え過ぎていた」
「ああ――だから今日からボク達は変わる。
これからはボク達がおっさんを陰から支える!
異存はないよね?」
「当然ですわ」
「今更聞かないでよ」
「――ったく。
どんだけおっさんが好きなんだよ、ふたりとも」
「あら? それは貴女でしょ、シア。
さっき咄嗟に本音を口走りそうになったでしょ?」
「ホントよ。
なんだかんだ言って貴女が一番ガリウスを慕ってるし」
「それはそのぅ……前衛職としていつも一緒にいたから」
「ふふ、乙女ですね」
「可愛い」
「まあわたくし達も負けてないんですけどね」
「――ん」
「特にさっきのガリウス様のお顔ときたら!
信じていたものがガラガラと崩れていきながらも気丈に自らを支える!
あの弱々しくも儚げな姿はたまりませんわ!
あれだけでしばらくネタに困りません!」
「聖女なんて言われてるけど何気にこいつが一番ヤバいんだよな……」
「うん。持ってる本のほとんどが腐ってるし……」
「聖女じゃなくて性女だってこないだ言ってた」
「うあ~」
「そこ!
人の趣味にグチグチ言わないでくれます!?」
「まあ妄想でおかしくなるのはシアも一緒か」
「うええ?」
「こないだおっさんのシャツの匂いを嗅いでましたわね。
さすがにわたくしでも引きますわ」
「そ、そういうミザリアだってガリウスの鞘で何してたのさ!
聞こえないと思ってるんだろうけど意外と壁って薄いんだからね!」
「なっ!?」
「っというか……やめませんか?
このままだと不毛な争いになりそうで……」
「確かに……」
「うん、ごめん……」
「でも本当に皆さんガリウス様がお好きなんですね」
「ホント罪作りな男だわ。
見えないフラグばっか立てまくるし」
「そこがいいんじゃないか。
じゃあ改めて誓おう……
ボク達はこれから大好きなガリウスが成功するまで陰から支えるよ!」
「は~い」
「うん」
「同意も得られたとこで、さっそくおっさんの後を追跡だ。
おっさんは唯一無二のユニークスキル「英雄の運命」持ちだからトラブルやフラグが勝手に襲ってくる。
ボク達の役目はその露払いだ。
厳選した良イベントのみをおっさんにお届けする。
報われない役目だけど――
おっさんには絶対幸せになってほしいから。いいね?」
「「了解!!」」
こうしておっさん大好きなボク達の――フラグ叩きが始まるのだった。