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リズムリズムリズム

作者: 神水たゆら

電車の中を見渡せば、ヘッドホンをしている人が9割なこの時代。

しかし、音楽を聴いているわけではない。

ラジオを聴いているわけでもない。

これは政府が出した、新しい義務なのだ。

自殺者が死亡原因の7割を超えた。

このままでは治安の問題が出てきてしまう。

そんな中、実験で自殺者を増やさない法律ができてしまった。

ヘッドホンの中には1分に60回という

カチカチとなるリズム音が刻まれている。

それを、1人の時にはかならず。

1日最低5時間は聞かなければならない。

カチカチとなる音は心音とつながり

生きていることを実感させるのが目的らしい。


まだ、耳に残るあのリズム。

この長い間耳に入れてきたので、離れることはけしてない。

そうやって今日も病室で目をさます。

カーテンを勝手に開けられ、おはよう。と小さな声。

いつものことだ。

訪問者は、面接時間ギリギリに来る祖母。

3,4日に一回くるかこない学校時代の友人。

週に一回着替えを持ってくる母。

それくらいである。

目を上に受ければ点滴が終わることがわかった。


「すみません。」

「あら?」

「点滴、変えてください。」

「あら。」


こんな会話もたまにする。

1日の大半をベッドですごし、

耳には配布されたヘッドホンとCD。

それを飽きることなく聞かなければいけない。

余命はわからずとも、生きていることを自覚しなければいけない。

これほどつらいものはない。




気がつけば、外は暁色で。

やはりギリギリに祖母がやってきた。


「悠哉くん。お花置いてくからね。」

「うん。ありがとう。」


そういって、祖母は造花の白い花を枕元において帰る。

母曰くもうボケているらしい。

この花も引き出しにいっぱいだ。

そしてまた、悠哉はヘッドホンを耳にあてる。

今日の会話は終了だからだ。





カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ




また朝が来た。

カーテンが開けられる。

今日の点滴はまだ平気らしい。

昼ごろ、4日前にきた友人がきた。


「よー。」

「おー。」

「具合は?」

「悪い。」

「治る見込みは?」

「ない。」

「あきらめるなよ。」

「うー。」


こんな会話から始まり、時間の限界まで話す。


「そーいりゃ。」

「ん?」

「死んだぜ。」

「誰が?」

「日本史の教授」

「なんで?」

「自殺」

「ヘッドホンは?」

「してた。」

「なんで?」

「俺が知るかよ。つかニュース見ろよ。」

「テレビ頼むと高いんだよ。」

「もしかして、ずっとヘッドホン?」

「おうよ」

「頭おかしくならないか?」

「もう、遅い」

「ハハハ」

「なんかー。わかる気がする」

「俺も」



また今日も祖母が来て、造花を置いていった。

その祖母と一緒に友人は帰った。



夜が来た。



カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ



今日の朝は、体が持ち上がらなかった。

目はかろうじて開いて、目の前は白いだけだった。

終わりな気がした。

頭の中には、音がしている。

あの、嫌な音。聞き飽きた音。

そして、恐ろしい音。


生きていることを実感する前に、

死ぬまでに後何回この音を聞けるのかと思ってしまう。

死に向かって走っているようだ。


小さく、息を吐く。

魂が抜けていく。

誰もいない、ひたすら頭の中で響く音。

恐ろしい。怖い。逃げられない。


思っているうちに、

悠哉の心臓は止まった。

脈も、息も、思考も。

けれど。



あの音だけは。消えなかった。



カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ





生きているのか

死んでいるのか




わからなくなってしまった。






後日。

この法律は改正された。

この義務で死人が多く出てしまった。


口々に人はいう。



死んでも、死なない気がするんです。


とね。









end  20080601

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