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#16 最大最強の”イチモツ”だぞ!?

 長い長い橋が中央の円形をした広間へと繋がる部屋は、スパイクが足を踏み入れ橋の上を数歩進んだ先、彼が開いた扉を背にした瞬間にその扉が閉じられるのと共に遥か下方より壁伝いにプラズマが走ったかと思った直後に光の下に照らし出された。


 通路やその先の空間に見られたような有機的な造形はここも健在であったが、通路やその先の空間の様な悪趣味さは比較的抑えられているようであった。何か、恐らくは特別な場所なのかもしれない。


 スパイクは閉ざされた扉を抉じ開けようとミュールを抱えているが故に使えない両腕の代わりに背中から展開した両翼を腕の様に使い、その鋭利な羽の切っ先を扉の隙間に捩じ込もうとするが、閉じた扉はどうにも融合を果たしているようでそもそもとして合わせ目が消失してしまっていた。電子的な操作が行われているならばとAIであるバルチャーに侵入させようにも、アクセスすら存在しない。


 固く閉ざさされ、開こうとしない扉を忌々しげに蹴るスパイク。スーツによる強化をされた蹴りを受けても、しかし扉はへこみもしない。斯くなる上は、翼を前方へと回し、ミュールと自身を守らせたスパイクの背中から更に砲身が伸びて扉へと右肩越しにその砲口を向ける。それはレオンが開発した破壊兵器”フュージョンカノン”。


 異なる二つのエネルギーを共鳴させ、そして発生した第三のエネルギーを放出する。破壊エネルギーが放出可能出力に到達するまで時間が掛かるものの、一度発射されればたちまちにあらゆるものを消し炭にする。その過剰な威力故にスパイクは滅多な事では使用しないが、事此処に至ってはそんなことも言っては入られない。


「コイツで駄目ならもうお手上げだからな……」


《馬鹿言え! このバルチャーがDr.レオンから頂いた最大最強の”イチモツ”だぞ!? 馬鹿言ってないでさっさとぶち抜きなスパイク! チャージ完了!!》


「クソッ……!!」


 接地した両足から床へと”スパイク”が穿たれ、反動からスパイクが吹き飛んでしまうのをスーツが防ごうとするのだが、”スパイク”は扉と同じく頑強な床の材質にその切っ先を弾かれてしまう。ディスプレイにはそのことを知らせるエラーがスーツのモデルと共に表示され、スパイクの指示の下、バルチャーは無反動砲よろしくスラスター点火のタイミングをフュージョンカノンのトリガーへと同調させる。


 そしてバルチャーから発射可能のアナウンスがされた直後、”B.M.I.”、ブレイン・マシン・インターフェースを介してスパイクの意思がフュージョンカノンのトリガーを引き絞った。眩いばかりの赤色の閃光が砲口から放たれ、同時にスーツ背面のスラスターからも蒼白い噴射炎が噴き上がる。それでもフュージョンカノンから放出されたエネルギーの衝撃は凄まじく、スパイクは”スパイク”の突き出た両足から火花を散らしながらエネルギーの放出が終わるまで後退してしまう。


 スパイクの網膜に投影されたディスプレイには砲身がエネルギーの負荷にどれだけのダメージを受けているか、そして後どれだけ持続した放出を維持できるかを表示しスパイクにそれを知らせる。けたたましく繰り返される警告をしかし無視し、フュージョンカノンからエネルギーを放出し続け、やがては安全装置が働きトリガーにロックが掛かったことで強制的にエネルギー放出は停止。


 再びスパイクの口から悪態が零れる。冷却のためにエアインテークや放熱ベーンを展開し、それが済むまで格納できなくなった赤熱する砲身を露出したまま、同じように赤熱した扉を睨む。スパイク自身と抱えたミュールをエネルギーの影響から守るために前面に展開していた翼を広げ、そして扉に歩み寄った後その片方で赤熱箇所を切り裂く。だが、翼の切っ先はそこを浅く傷付けるのみであった。


「ダメじゃねえか……この、不能野郎」


《fuck!!》


 以降、あれほどうるさかったバルチャーはその口を閉ざしてしまい。スパイクは一人静寂の中で溜め息を落とした。彼の視界では冷却が済んだのか赤く表示されていたフュージョンカノンのモデルが緑へと切り替わり、実際に砲身も背部のユニットへと格納される。彼の持てる最大火力を以てしても脱出は不可能だった。ミュールさえ復活すればどうという事の無い問題であろうが、彼女がまだ目覚めない以上、問題である。


 閉じ込められただけでそれ以上の危害は今のところ加えられる気配は無く、しかし”何か”が居ることは間違いない上、それの意思により閉じ込められたというのならば何も無い筈も無し。そうでなくともスパイクは先に事件の解決に向かわせたチームのことが気がかりで仕方がなく、此処に何も無くとも、であればこそ外のことが気になりもどかしさと苛立ちが彼の中へと募って行く。


 また、彼の口から悪態が出た。

 そしてその呟き声が落ちた先、スパイクの腕の中でおぼろげな意識の中に居たミュールが呻く。そのことに気付いたスパイクはマスクを展開、素顔を曝すと彼女の様子を窺った。バルチャーとの問答や閉じ込められたことなどでスパイクが一時的にミュールを意識下から退けていた間にでも、彼女はまぶたを下ろしてしっかりと休んでいたらしく、今ようやくその閉ざされていたまぶたが開き、彼女の魔力汚染による紅い瞳がスパイクの視界へと映った。


 平気かとスパイクが訊ねるとミュールは頭が痛い、気持ち悪いと告げはするが、多少顔色が優れない程度で、取り敢えずは大丈夫である事を彼に伝える。


「此処から抜け出せるか?」


「あー……それ、むりそう。完全に外界と遮断されてるっぽいから……転移先、見つからないし」


 一度瞬きするとミュールの両目に魔力の白い光が宿り、そしてそれはもう一度瞬きすることで次に開いた時にはもう消えていて、どうやらその間に転移するための座標を探ろうと魔力を巡らせた様であるが、駄目である事が彼女の口から告げられる。スパイクは彼女を責めることこそしなかったが、参ったなと途方に暮れる。


 そんな彼の腕からもぞもぞと蠢いたミュールが抜け出て、まだいまいち覚束ない足取りでありながらも一応立ち上がることに成功。しかしよたよた橋の手摺りのない縁まで行ってしまいそうであったため、底知れぬ橋の下に落下してしまう前にスパイクが彼女の腕を掴むと、ミュールは彼にお礼を告げつつ、橋の先にある広間へと視線を向けた。


「自力じゃ出られないなら、出してくれるようにお願いしてみましょ。私たちを呼んだ張本人さんにね」


「あン……?」


 その言葉にスパイクもまた広間の方を向く。同時に彼が掴んだ腕を通じてミュールからまた先と同じようにスパイクに魔力が供給されると、スパイクにも彼女の言葉の意味が理解できた。


「ハッ……なるほどな。名案だ」


 そこに居るのはあの靄の人だった。それは広間の中央に陣取り、二人を見ているようでもあった。自らのドタバタを影からずっと見られていたと思うと、どうにもスパイクはそれを面白くは感じず、アレをどうにかするだけの権利が自分にはあるはずだと考えれば開いていたマスクを閉じ、両腕と背中からそれぞれ機関銃と機関砲を展開。特に背中からアームで接続され左肩まで伸びた機関砲は射角が上下左右自由に調節が可能かつ、基本的にそれはスパイクの視線誘導に従うため銃口は当然靄の人影へと向いていた。


 そしてミュールに後から付いてくるように告げたスパイクは、両腕を前方に突き出しそこに備わった機関銃二丁を構え、歩み出すと共に左肩の機関砲と合わせその三つもの武器から同時に弾丸を吐き出し始める。凄まじいまでの音と光が炸裂を繰り返し、スパイクの影に居るミュールは彼のゆったりした歩みに合わせて前進しながらも両耳を覆っている防寒用の耳当てをぎゅっと押さえ鼓膜を揺るがしつんざかんとするその音を必死に遮っていた。


 二丁の機関銃と一門の機関砲から雨の様に無数に射出される弾丸はまっすぐに靄の人影へと押し寄せ、貫き、その姿形を崩して行くが、靄であり実体の無いらしいそれにはまるで効果は無く。その背後の強固な壁面へとすり抜けた弾丸が命中し弾んで行く音ばかりが射撃の音に混じって響く。


 それでもお構いなしにスパイクは大小の薬莢が無数に転がる橋の上を進み続け、やがて広間へと到達する頃になり過熱して赤く焼け付く銃口から弾丸が発射されなくなると、何度目になるかも分からない溜め息と共に機関砲は背中へと格納され、同じく下げた両腕にも機関銃がしまわれる。靄の人影はひたすらの射撃によりその姿を霧散させていたが、それもすぐにまた集まり元の人影へと修復された。


「気は済んだ?」


「まさか。でもまあ、マシにはなった。銃を撃つとすっきりする。ただし、お前はマネするなよ」


「銃はキライ。うるさいし、うっとうしいし」


 それで良い。

 銃声が止み、立ち止まったスパイクの背後から鼻につく硝煙を払いつつ出てきたミュールにスパイクは告げると、腕を組み靄の人影に背を向けてしまう。ミュールはそんな彼を他所に靄の人影のすぐ近くまで歩み寄る。するとその靄の人影は幾つも円を描く様に彫られた広間の床へと溶け込んで消えてしまう。ちらと横顔を向け様子を窺うスパイクと、ミュールも靄の消えた場所を見下ろしながらうーんと唸り顎先を親指で撫で付けながらしばらく考察する。


 そしてあれこれと考えた結果、魔法が何とかするであろうと考えることを放棄したミュールがその場へと屈み、グローブ越しの両手を床へと押し付ける。そこから魔力を放出し、それが何らかの反応を見せないかと思って経過を見るミュールであったが、直後床に触れる手から逆流してくる”何か”に気付きその手を退けようとしたものの遅く。ぐんと引きつった様に不自然に勢い良くその背中をしならせた彼女は天を仰いだ。


 異変を察知し、ミュールへと歩み寄るスパイクの目には、見開かれた両目に本来紅いはずが白濁した瞳を揺らすミュールの姿が映る。明らかに異常である。ミュールの肩を掴み、軽く揺すりながら声を掛けるスパイクであったが、彼女からの反応は無い。両目は開き続けたままで乾くのを防ぐべく分泌された涙が溢れて零れ、半開きで震える唇からはこちらも唾液が流れ出ていた。心拍などバイタルにも異常な数値が見られ、スパイクは狼狽するばかり。何度も彼女に声を掛け続けるが、当のミュールの耳にはぼんやりと遠くにしかその声は届かない。だが代わりに、スパイクのものでは無い、別の声が頭へと入り込み始める。誰だとそれに声無く問うと、それは答えた。


 ――”グレート・オールド・ワン”。

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