第2話:東公園
手紙を読み終えた俺は、約束の時間まで少し時間が余っていたので、適当にコンビニで立ち読みをして時間を潰し、東公園に向かった。
亜田原と一緒に
「なんでお前も来るんだよ」
「だって、面白そうじゃないか」
まぁ、こいつは来るなと言っても来るだろうから、追い払っても無駄だろうな。
東公園に着くと、俺と亜田原はここから別行動をする事にした。
俺は、手紙の差出人の二人を見つけ出し、それから…。それを亜田原が物陰から高みの見物をする。というのが亜田原から聞かされたこれからの流れである。少しばかり理不尽な気もするが、俺はあまり気に留めず、例の二人を探す為、辺りを見渡すと、ベンチに腰掛けている、女連れの大男と目が合った。
うわっ、厳つっ。身長もやたらとでかいし、目も鷹のように鋭い。きっと、俺に果たし状を書いたやつもこんな風貌してるんだろうな。とかそんな事を考えながら、この場を立ち去ろうとすると、大男が俺に近付いてきて、俺の目の前に立ちはだかると静かに喋り出した。
「桐生、よく来たな。待ってたよ」
「…っていうことは、もしかしてあんたが?」
「そうだ、果たし状をお前に渡すように言った張本人だ」
何て言うか、想像通り過ぎて怖いほど、目の前にいる男は、俺が手紙から連想した男と瓜二つだった。二つ、想像していた男と、実際の男との相違点が有るのだが、それは『普段から柔道着を着ていないこと』と『語尾に“ごわす”をつけないこと』という、現実では有り得ないような事なのでしょうがないだろう。
「で、そちらは?」
俺は大男の横に立っている女性が誰なのか、気になるので訊ねてみた。
「お前の彼女か?」
「違います!手紙のもう一人の差出人です!少しばかり早く公園に来たら、今日私より先に手紙を渡していた男の人を見つけたので、少しお話をしていただけです」
俺の大男への問いを、頼みもしないのに横にいた女性が答え、親切にも、返答の中に今の状況の説明も含まれていた。
「成る程、状況は良く理解できた」
きっと、俺たちのこの様子を見て、どこかの馬鹿は笑い転げているに違いない。
「で、どっちから先に話を済ませる?」
俺はこんな事一瞬でも早く終わらせて、家に帰りたいのだ。
「あぁ、それなら大丈夫。お前が来るまで暇だったから、じゃんけんして決めといた。濱野からだよな?」
「うん!」
何で若干仲良くなってるんだよ。
「では、どうぞ」
俺は濱野と呼ばれた女性の方に向き直った。
「あ、えと、その…私、濱野由佳里って言います。あの…私と付き合ってください!」
「お願いします!」と濱野が頭を下げて、俺に右手を差し出してきた。
「無理」俺は即答した。
「ひどい…」
濱野はそう言って、その場に力無くへなへなとへたり込んだ。
「で、お前は俺に一体何の用だ?」
俺は大男の方を向き、大男を見上げながら質問した。
「あぁ、お前さ、楠木って名前に聞き覚えは無いか?」
楠木?…くすのき?…クスノキ?…KUSUNOKI?…記憶の中から必死に楠木という名前の人物を探そうとするが、一向に思い出せる気配がない。
「すまん、知らん」
「そうか…じゃあ、しょうがないな」
大男は着ていた服を腕捲りすると、鋭い目を更に鋭くして言った。
「桐生、構えろ」
「…喧嘩からは足を洗ったんだけどな」
そう言いながらも、俺は戦闘態勢に入る。
俺と大男は、暫くの間睨み合い、お互いに一息着いた後、俺と大男は拳を振り上げた。
「おらぁ!」
「…………」
そして、俺は喧しく喚きながら、大男は黙って俺を見ながら、拳を力の限り標的へと突き出した。
「ちょっと!やめなさいよ!」
その時、濱野が俺達の喧嘩をどうにかして止めようと、俺達二人の間に割って入ってきた。
「「!!!!」」
俺は突然の濱野の登場に驚き、拳を止めようとしたのだが、濱野の登場が唐突過ぎたので拳の勢いを殺しきれなかった。そして、俺の拳は濱野の顔面にクリーンヒットした。
「「あ」」
大男と声が重なり、大男の方を見てみると、どうやら俺と同じ事態に陥っているようだった。という訳で、濱野は俺と大男からのパンチに挟まれて、悲惨な事になってしまっていた。
もしも、濱野が芸人か何かなら、この出来事は、かなり『おいしい』のだろうが、生憎、濱野は芸人ではなかった。