序
とある城の一室。
男は天井を見ていた。
・・・もうすぐ俺は死ぬ。
・・悲観する事はない・・・。
ただの寿命である・・。
魔導の追求と勇者のお守り。
それと女。
実に有意義な一生だった。
ただ、心残りがないわけではない。
俺は正真正銘の天才黒魔導師であった。
黒魔導の追求だけが俺の望みであったが、まぁ色々ありヘッポコ勇者くんのお守りをしながら、魔王討伐をした訳である。
その旅路、共に行動していたハーフエルフの娘が夜な夜な俺に言った言葉が、何故か今になって頭をよぎる。
「貴方ほどの魔力を黒(攻撃)ではなく、白(回復)に注げばどれだけの命が救えるのでしょう?・・・。」
まぁ、確かに俺がその気になり白魔導のみを極めたなら戦い死んだヤツら全てが救われていただろう。それくらい俺の魔力量は強大だった。
しかし、俺が黒魔導を使えなければ魔王を倒せなかったのも事実である。なにせ魔王にトドメを刺したのは我が魔導であるが故。
人生は2度ない。
まぁ、敵ではあったが多くの命を奪った事は間違いない事実である。
生まれ変われるのであれば、次は白魔導の探求者となってみよう。
生まれ変われるものであれば・・・であるが。
そんなこんなで死ぬ間際、最後に一つ試す事とする。
先程、俺はとあるマジックアイテムを飲み込んだ。
魔王討伐の際、勇者くんが拾った『ウロボロスの涙』
飴玉に二匹の蛇が互いに尻尾を噛み付き合い絡まったデザインの胡散臭い代物である。
こんな物でも、転生を促す激レアなアイテムらしい。
博識な勇者くんがいうのであれば、そうなのであろう。(黒魔導以外は、はっきり言うと無知に近かったのだよ)
・・・さあ。そろそろ時間である。
この魂、無に帰すのか、新たな探求へと誘われるのか?
二匹の蛇が答えを導く筈である。
では。
今は一度・・・さよならを・・・・・告げようか。
男は目を閉じ、暫くして息も止まった。
刹那。
男の体は一瞬にして炎に包まれ、そして跡形もなく消え去った。
ベッドには燃えかす一つ残らず、僅かな沈みだけが人が寝ていた事を想起させた。
「死地への送り火」
魔導を極めた男は、自身の魔導により葬送したのである。
《序》 完