それって、うちう人の話も入ってますかぁーーっ
いやぁ……場が静まり返ったね。
まあ、高原がすぐに、「という説も出た」などと言いやがったので、たちまち弛緩した空気になったが。
「説もあるってなんだよ! だいたい、誰が出した説だ?」
「人をやって撮影したって言ったろ? その撮影で派遣したグループの一人だよ。うちの関連会社のうち、警備関係の会社に依頼したんだ」
「わぁー」
空美ちゃんが感心したが、俺は特に驚かない。
それどころか、その警備会社の責任者が、こいつだとしても驚かないな。あり得る話だ。
「そう言えば!」
なにか思いだしたのか、珍しく可憐が手を叩いた。
「わたし、ネットの記事で樹海にある村というのを見た気がしますが、もしかして」
「ああ、あれは別」
全部聞かず、高原が手を振った。
「自殺者の子孫が暮らす村とかいう、デマがあるトコだろ? 綺麗な長方形な形した?」
「た、多分……」
「それはな、村の成り立ちにはなにかしらの事情があったようだが、存在自体は不思議でもなんでもないのさ。ちゃんと旅館だってあるし、楽々天の旅行サイトで予約だってできちまう。つまりは、場所が妙なだけで、特に怪しい村じゃない。マップでも確認できるしな」
途端に空美ちゃんがモソモソ動いて、俺を見上げた。
「空美、その村も見たいの」
「いいよ、後でマップ開いて見せてあげる。ネットじゃ有名だからね」
可憐だけじゃなくて、俺も知ってたくらいだしな。
「ありがとう!」
空美ちゃんが笑顔になったところで、俺は改めて高原を見た。
「おまえの話は……まあ、半分くらいはわかったが、要するに俺達に探検に同行せよと?」
「そういうことだが、他人事じゃない。おまえにも大いに関係あることなんだ」
「ええっ」
「どんなこと、どんなことっ」
「知らんぞ、俺はっ」
可憐と空美ちゃんに続いて、俺が声を張り上げる。
そんな怪しい街の存在すら、初めて聞いたわい。
「いいか、俺が強調したいのは、実はこの街じゃない。いや、この地図にない街も興味はあるが、本当のポイントはそこじゃないんだ。実はな――」
そこで声を低め、俺達は釣られて前のめりになった。
「じ、実は?」
俺が訊き返すと、高原はニヤッと笑った。
釣れた! とか思ってんじゃないだろうな。
「そう、実は――この怪しい街の近辺で、昨今、なぜかUFO目撃情報が多発している」
「――っ!」
空美ちゃんが、ふいに大きく息を吸い込み、期待感てんこ盛りで叫んだ。
「それって、うちう人の話も入ってますかぁーーっ」
「うちう人っ!?」
なんだそれ……少し考えて……ああ、宇宙人ね。
俺の頭が翻訳を拒否したな、今。
「それが、俺になんの関係があるのさー」
「ええっ!?」
「おいおい、大丈夫か!」
可憐と高原が、なぜか驚いたように俺を見た。
「な、なんだよ」
「おまえ、忘れたのか? まだ去年の話だぞ?」
「そうですよ! 一時は随分と騒いでたじゃないですかっ」
ま、またしても二人揃って。
「いや、知らんて」
空美ちゃんがまた俺を仰ぎ見たので、慌てて手を振った。
「去年、なにがあったって?」
「……おまえはな、UFOを見たと大騒ぎしたんだよ、当時」
無駄に厳かに告げる高原の声に、なぜか俺は頭がくらくらした。
な、なんだろうな? さっきからどうも、宇宙人とかUFOってキーワードに脳が抵抗するというか、聞きたくないというか。
「去年の俺は半ば聞き流していたが」
なにげに、ひどいことを言いやがる高原である。
「今、閃いたぞ。これはアレだ、アブダクションケースかもしれん」
……またこいつは、極端なことを言い出したぞ。
アブダクション? なんだそれっ。
「た、高原さん、それって本当ですか?」
わあ、左隣の可憐が信じかけてるっ。
「もちろん、事実はまだ不明だが……しかし、アブダクションケースに遭遇した場合、後からなにか妙な力を得る場合があるらしいが、どうだ、心当たりないか?」
さりげない声で、俺の呼吸が止まるような質問しやがった。
こ、こいつ、実は全部知っててからかってんじゃないのかっ。