聞いて驚け、撃墜されたらしいぞ?
「わたし、出ましょうか?」
「いや、なんか気になるし、俺が出るよ」
可憐が申し出てくれたが、俺は自らベッドから出て、寝間着のままで廊下に出た。
玄関ドアのスコープから覗くと――
「――っ!」
向こうからも覗いてたー!
こんなふざけた真似をする奴は、知り合いに一人しかいないっ。
「高原っ、驚くだろうが!」
ぶつけるつもりで、思いっきりドアを開けてやったが、反射神経がいいこいつは、さっと避けやがった。くそっ。
「なんだぁ? まだ寝てたのか、ケージ」
「いいだろ、夏休みなんだし……とはいえ、もう少ししたら、空美ちゃんを迎えにいかないとな」
口走った瞬間、「しまった!」と思ったけど、もう遅い。
男のくせに長い髪をしたこいつは、ニヒルにニヤッと笑った。
「ほほう、もう同棲か? 小学生の女と一つベッドか? もういくところまでいったか?」
「なんの話だよ! あと、いろいろ先読みしすぎだ、馬鹿!」
早口で事情を説明してやったが、こいつがまた、人が説明してんのに勝手にずんずん上がって、リビングのソファーにどっかと腰を据えやがる。
「まさか、遊びに来たとかいうなよ?」
「馬鹿いえ、俺は真面目な用件で来たんだ。……ケージ、夏休みの自由研究の宿題、済んだか?」
「自由研究ぅ~?」
俺は寝間着のまま隣へ座り、胡散臭い思いで高原を見た。
「おまえ、夏休みの宿題なんか気にするタイプか?」
「もちろん、気にしない。だが、世界へ向けて公表する前に、まず自由研究で発表して、小心な教師の反応を見るのもよかろう」
「……は?」
こいつは、常にマイペースで、周囲と自分を合わせる努力すらしないんで、時々、「なにを言ってるかさっぱりわからん!」という状態になる。
まさに、今がそうだった。
俺のきょとんとした顔を見た高原は、説明がめんどくさいのか、軽く手を振った。
「まあ、まず着替えて空美を迎えにいけよ。戻って来たら、全部説明してやる。二度手間が省けるからな」
……なんて、自分勝手な奴だ。
だがまあ、確かに何度も同じ説明を聞くのもめんどくさい。
そこで俺は、可憐を伴って空美ちゃんを迎えに出て、今度は三人で戻って来た。可憐が留守番を嫌がったのは、おそらく高原の相手が辛いからだろうな……まあ、気持ちはわかる。
戻って、ふてぶてしくソファーで昼寝を決め込んでいた高原を起こし、ようやく全員がリビングに揃った。
可憐が用意したコーヒーと紅茶が、それぞれ行き渡ったところで、やっと高原は口火を切った。
「まず、これを見てくれ」
おもむろに、持っていたショルダーバッグからノートパソコンを取り出し、起動する。そのままグーグルマップを表示させ、ある地点を出した……わざわざ航空写真表示にしてくれたが、正直、全部緑でなんも見えん。
「……どこだ、ここ?」
「青木ヶ原樹海」
即答してくれたのはいいが、途端に可憐が声を上げたな。
「いやっ」
「ジュカイって、広いのねー」
あまり樹海の特性を知らないのか、空美ちゃんは興味津々で画面を覗き込んでいたが。
「別にホラー関係じゃないんで、そこは気にするな、可憐」
妹のホラー関係苦手ぶりを知る高原は、素早く告げた。
「それより、今のこの画面、よく見てくれよ? 覚えたか?」
「覚えましたぁ!」
空美ちゃんが真面目に答え、手を上げた。
……というか、いつの間にか俺の膝の上に座ってんですけど、この子!
左隣の可憐が、むすっとしてるしな。
だが、万事マイペースの高原は特に気にせず、今度は一旦ブラウザを閉じて、トップに出してあった動画をクリックした。
「よく見ていろ。今から、人をやって記録してもらった、ドローンの映像を出す。全く同じ場所だ」
ひ、人をやったって……まあ、財閥御曹司のこいつの場合、特に驚くことじゃないんだが。
この前のリゾート事件も、たいがい金と人がかかってたもんな。
「ケージ! 惚けてないで、画面見ろ」
「はいはい、悪うございました――」
言いかけた俺は、途中でぐっと詰まった。
ドローンが撮影した映像というのは本当らしく、いかにもスムースに低空飛行していたが、驚いたことに、映しているのは、洋風の家々が並ぶ、どこかの街だった。
ステラさんの街と少し似ているが……しかし、こっちの方が規模がデカい!
「……これ、本当にさっきのマップの場所ですか?」
可憐の質問に、高原は厳かに頷いた。
「そう、現実に樹海の中に存在する街で、もちろんちゃんとそこにある。現にドローンで撮影もできた……ただし、どこで調べても、こんな街があるような記録は存在しないがな」
「あ、消えたわっ」
今度は空美ちゃんが叫んだ。
言葉通り、ドローンが映していた映像が、ふっと途切れた……その前に、なにか音がしたようだが。
「なんで消えたんだ?」
俺が訊くと、高原はひどく嬉しそうに答えたね!
「聞いて驚け、撃墜されたらしいぞ?」