表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/159

これなら見学できるぞっ

 散々悩んだが、さすがに「よしっ、密林で注文するか、秋葉原のその手の店へ行って、隠しカメラ幾つか買うかっ」というのは、さすがに決断しかねた。


 日記を読むのがアリなら、隠しカメラもアリじゃないか? という理屈は、さすがに通じない気がする。だいたい本来は、日記読むのもナシに決まってるしな。


 これが隠しカメラとなると、もはや論外だろう。


 しかし……なんというかこう……諦め切れないものがあった。

 このもやもやの正体を俺なりに集約すれば、「あ、あいつがそんなことしている場面、超見たいっ。見せろぉぉお!」ということだろう。むしろ、98%くらいの理由がそれだ。


 我ながら、煩悩全開である。


 実のところ俺は、妹のやっている「いけない楽しみ」とやらが、俺が想像するそのまんまだとしても、驚きはすれど、軽蔑などしない。

 許されるなら、「ははは、気にするな可憐。みんなやってるぞお!」と肩を叩いて安心させてやりたいほどだ。




「しかし……待てよ」


 俺はふと思った。

 まあ、カメラの件は置いても、例えば普段は寝ている時間に起き出し、こそっと妹の部屋のドアを薄目に開いて覗くのとはどうか。同じ覗きでも、だいぶ犯罪色が薄れるような。


 それに、こうは考えられないだろうか?

 仮に俺が、あいつの部屋のドアを薄目に開いて覗く→妹のそんな場面を見てしまったが、向こうは俺に気付かなかった――こう考えてみよう。


 するとどうだ! 


 妹は別にショックを受けたりしないし、俺は見たい場面が見られて嬉しい。

 兄妹揃って幸せで、これぞお互いにwinwinの関係というヤツではないのか!?


 思わず、「よし、今宵は徹夜だなっ」と決断しかけ、俺は我に返った。




「いやいやいやっ。それはなんか違う気がするっ。典型的な盗撮犯罪者の考え方だろ!」


 だいたい、妹になんのメリットもないしな。見られて興奮するタチでもなさそうだし。

 結局、どんな抜け道を探そうと、全うな手段で見ることは叶わないみたいだ。


 そんな手段存在しないんだから、当たり前だが。




「うわぁ……このがっかり感、半端ないな」


 いや、AVとかでここで諦める展開になったら、怒りのあまり、ディスクを叩き割っても不思議ではあるまい。

 ぐぬぬっと思いつつ、俺は渋々日記を閉じ、プラスチックケースに収めて元通りの場所に戻そうとした。


 だが――ここで、計算外のことが起こった。


 なまじハシゴの上で足をかけたまま長考した上に、完全に上の空で動いたものだから、さらに上がろうとして、ものの見事に段から足を踏み外したのだ。


「ま、まずいっ」


 声に出した瞬間、なぜか大の字の姿勢で落下し、ベシャッと背中から落ちた。


「ぐはっ」


 受け身も取れずに、痛みに呻く。

 さらにだ、戻す途中だった日記のケースが穴の縁でバランスを崩し、タイミングよく落下したらしい。らしいというのは、そのことに気付いたのが、俺の額にモロに日記が直撃した後だったからだ。


「いってぇえええっ」 


 背中から落ちた時より、額に日記が当たった方が痛かった。

 この日記、ノートみたいなタイプじゃなくて、見た目はハードカバーみたいな立派なヤツなので。しかも、専用ケース付きだしな。


 有り得ないことだが、潔癖な性格である妹の、怒りの鉄拳が炸裂したかと思ったほどだ。





「ぐぐぐ……自分だってナニをたしなむくせに、この仕打ちはないぞっ」


 妹の「いけない楽しみ」がすっかりそれだと決めつけている俺は、本気で憤っていた。おまえだってもう汚れているくせに、覗き見を我慢した俺を責めるのかっ、みたいな。


 俺はしばらく大の字のまま、理不尽な怒りを胸に、風呂場の床で痛みが収まるのを待つ。


 ようやく不満たらたらで上半身を起こそうとした……しかし、思ったより直撃が堪えたらしく、すぐに動かない。金縛りにあったように、身体が自由にならなくなっていた。




「う、うそ……だろっ」


 わあ、発声まで妙に抵抗感があるっ。

 さすがにビビり、おれは「えいやっ」とばかりに意地でも身を起こそうとした。

 すると――。


「……あれ?」


 なにか、ふわふわした妙な感覚に支配され、俺は周囲を見た。

 別になんの問題も――いや待てっ。

 上半身を起こした状態で、試しに背後を振り返った俺は、ぽかんとした顔の俺が、日記片手にまだ床に倒れているのを見て、戦慄した。




「ななっ」


 焦りまくって自分の身体をよくよく確かめれば、今動いているのは、腰から分離したもう一人の俺だった!



「ま、まさかの幽体離脱っ」



 マジで、思わず声が出たね。なぜか、声が反響しなかったけど。

 しかも、いの一番に思いついたのが「これなら見学できるぞっ」だったしな。


 ……そんな場合じゃないだろうに。


(ちなみに、次の瞬間に二つの身体は元通りシュバッと重なり、俺は元に戻った。抜けたままじゃなくて、良かった!)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ