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目を閉じねば見えない通路


 小高い森の上から下りて、とうとう見覚えのある場所に出た。


 記憶通り、ここに立って木々の間から下を見れば、新幹線が通る線路も見下ろせる。

 問題の洞窟もちゃんとあった。

 これホント、たまたまここを通りでもしないと、気付かないな……でもって、こんな斜面だけの森なんか、誰も通らないだろうし。


 落ち葉で覆われた、不自然に盛り上がった固まりの下に、辛うじて俺の身長よりも少し高い洞窟がある。


 最初は下りになっていて、地下へとなだらかに続いていた。

 懐中電灯を中へ向けたが、あいにく途中で勾配がきつくなっていて、先が見通せない。




「あー……この前来た時には、確かあそこを下ってすぐのところで、行き止まりだったんだよなあ」

「――ケージ君!」


 ふいに耳元で絵里香ちゃんが囁いた。

 袖を引かれるままに振り向くと、彼女がある場所を指差す。


 辛うじて声を上げるのを我慢したが、落ち葉にちびっと赤いのが滴ってる場所がっ。げげっという感じだ。

 もちろん、俺も絵里香ちゃんもすぐに知らん顔でまた洞窟へ向き直ったが、敏感な可憐が自分もそっちを見ようとしたので、俺はあえて先頭切って中へ入った。




「あ、待っておにいちゃん!」

「兄さんっ」


 手を離していた空美ちゃんが慌てたように後に続き、さらに切羽詰まった可憐の声がした。作戦成功である。

 まあ、入る間際に血の跡なんか見たくないしな……縁起でもない。


 本来なら、あそこで引き返すべきだったかもしれないが、絵里香ちゃんはどうせ、後から一人でも来るだろう。


 でも俺は、彼女に一人ぼっちで戻って欲しくないのだ。

 絵里香ちゃんだって、もうこっちの世界に来て長い。こうして、俺とも知り合っている。

 もしもまた元の世界へ戻る運命だとしても、せめて俺達で賑やかに見送ってあげたい。それが無理なら、俺一人でもいいからさ。


 ……そんなこと言ってて、巻き込まれてここにいる全員が絵里香ちゃんの世界へ飛ばされる羽目になったら、俺のせいだけどな。

 だが俺は、時折感じる不思議な勘で、決してそういう結果にはならない気がしている。



「狭いから、今は一列で進むしかないけど、どうせ先で広くなるところがあるから!」


 反響のキツい洞窟の中で、俺は声高に叫ぶ。


 警察の人達が調査したのか、先を行く足跡が幾つも残っている。

 ただし、前に絵里香ちゃんと来た時は、下りきったところが地下の広場みたいになっていて、そこから先へ進もうとしても、周囲は全て岩壁みたいな感じで、道などなかったという……警察だって、同じことの繰り返しだったはずだ。


 でも、絵里香ちゃんは元々、その先から出て来たはずなのに。





「……やっぱりか」


 しばらく続いた下りが途切れると、これも記憶の通りの開けた場所になり、周囲は完全に岩盤層みたいになっていた。

 コレも妙な話で、入り口付近ではせいぜい、岩混じりの土だったんだけどな、まだ。


 追いついてきた三人のうち、懐中電灯を持つ絵里香ちゃんと空美ちゃんがそれぞれ周囲を照らす。入り口と違って天井は割と高い。俺の身長の二倍くらいか。


「う~ん……ここから上は土混じりなのに、この辺りから先は岩盤なのよね……おかしなことに」


 絵里香ちゃんがぼそっと述べた。


「ダンジョンとまではいかないけど、この先に、歩きやすくて広い道があったはずなのよ、あたしの元の世界に戻る道が」

「えっ」


 一人だけ懐中電灯のない可憐が、俺のそばで声を上げる。


「絵里香さんの世界って?」


 絵里香ちゃんは素早く舌を出し、可憐に笑いかけた。


「ごめんね、気にしないで。どのみち行き止まりだし」

「待った!」


 俺は空美ちゃんの様子がおかしいのに気付き、片手を上げた。

 この子、いつのまにか岩壁の前に立ち、目を閉じていたのだ。あたかも、予言を行う神秘的な巫女さんのごとく。


「……どうした、空美ちゃん?」


 そっと手を握ってあげると、ぴくっと震えて目が開いた。


「おにいちゃん」


 いつもの空美ちゃんに戻り、ひそひそと俺に囁く。


「先に……道がある……気がするのよ。目を閉じると、特にそんな感じがするの」

「おおっと」


 俺は改めて懐中電灯を周囲に向けたが、あいにく染みだした地下水で濡れた岩壁しか見えない。

 そこで、空美ちゃんの真似をして、目を閉じてみた。


 ……しばらくは特になにも見えなかったが……やがて、暗闇の中に赤い糸が見えた。周囲の三人と繋がっている、例の糸がっ。




「え、ええっ」

「兄さんっ」


 可憐が心配して呼ぶ声がしたが、絵里香ちゃんと空美ちゃんが二人同時に『しぃいいいいっ』と声に出していた。


 やがて、俺にも見えた……糸以外のものが。

 黒々と開いた穴のように見えたが、確かに――道があるぞ、先にっ。


「目を閉じて、誰か俺の手に掴まってくれ! その後から来る人も、先の人の手を握るんだ。このまま試す!」


 とっさに決断し、俺は声に出した。それから、右手を背後に差し伸べる。


 真っ先に空美ちゃんが握ったらしい。手の小ささでわかる。多分、あとの二人もそれぞれ同じように相手の手を握ったはず。

 俺は静まり返った闇の中で、ゆっくりと進み始めた。


 なぜか、目を閉じたままでも見えている、黒い入り口の先へと。


最近は、計画より妙な事件が絡む方が多いので、タイトル変えてみました。

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