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げんち(言質)はとりましたぁ!


 しかし、絵里香ちゃんは何事もなかったかのように、「あと五分だけ、待ってね。いつもの日課だから、こなさないと落ち着かなくて」などと述べた。


「日課の修練、今もやっているんだ?」


 俺が感心すると、「もちろん!」と頷く。

 そばに立てかけてあった木剣を取ると、その場ですぐ「修練」に入った。

 まあ、見物してると演武に見えるのだが、絵里香ちゃんの瞳は眼前に敵がちゃんといるかのように、真剣である。





「座って見物しようか?」


 目を丸くしている空美ちゃんの手を引き、俺は床の一部に薄いマットが敷かれた端っこに、体育座りで座る。完全に見物人モードだが、実はこの修練を見物するのは、かなり贅沢なことだと思う。

 彼女のスピードたるや、まさに雷光のごとしで、所々で残像になって身体がブレて見える時があるほどだしな。


 実に、見応えありまくりだ。


 剣技の型は、剣道で見るような正統なものではないが、見物している限り、「こりゃ俺が拳銃持ってたって勝てないわー」と思えてならない。

 実際、素手でも鬼強い絵里香ちゃんなのに、木剣なんか持った日には、もう無敵ではなかろうか。

 あと、上下のトレーニングウェアが身体にフィットしているので、いろんな意味で眼福でもある。

 

 胸揺れもあるよ! てなもんだ。


 ただ、途中で空美ちゃんが自分のワンピースの胸元を広げて、なぜか心配そうに観察しているのに気付き、思わず焦った。 

 いや、俺が座っている位置的に、ちょうど斜め上から見えちまったので。


 なにも、今の時点で大きさなんて比べなくても……ちゃんと微乳の膨らみはあるしな。ていうか、この子はもうそろそろ、子供用キャミソールじゃなくて、ブラでもいいかもしれぬ。


 そんな些事はともかく、五分なんて瞬く間で、終わって絵里香ちゃんが大きく息を吐いた瞬間、俺達は二人揃って拍手した。


 ついでに気が抜けている今こそチャンスと思い、空美ちゃん同様、頬を気合い入れて見ると――数字は94だった。

 絵里香ちゃんも、前より少し上がっているような。


 俺、むしろ探してもらったくらいで、あまり好感度上がるようなこと、してない気がするが。

 しかし、絵里香ちゃんがこっち向いたので、俺は悟られないように笑顔を広げる。





「いやぁ、頼もしい!」


 遠慮なく絶賛した。


「もし二人でいる時に街角で不良に絡まられたら、『先生、出番ですっ』の一言で、絵里香ちゃんに譲るよ」

「嘘ばっかり。ケージ君はそんなこと言わないわよ」


 なぜか自信たっぷりに言うと、絵里香ちゃんはキッチンの方向を指差した。

 なんで「方向」かというと、ここはどうもワンフロア占有らしいので。柱はそれなりにあれど、一部を除いて壁などはない。周囲はほぼ全部窓だしな。


 当然、キッチンスペースもただっ広い空間の一画にあり、周囲と同化している。そのそばに、四~五人は座れそうな、円形テーブルがあった。


 豪華すぎて呆れるぞ。



「ケーキ買っておいたから、食べましょう」

「ケーキ! ケーキ久しぶりなのっ」



 ……俺と違い、空美ちゃんは既に慣れてしまったようだが。

 子供の順応力すげー。

 絵里香ちゃんは紅茶とケーキのセットを俺達の前へ置いた後、シャワーを浴びに行った。さすがにそこはオープンスペースじゃなく、ちゃんと囲われた浴室スペースになっている。


 シャワーの音が聞こえるけどな。

 俺はあまり意識しないよう、一口紅茶を飲み、囁いた。


「いやぁ、あまりにも豪華で驚きを通り越すよな」

「あのね……空美はおにいちゃんとなら、四畳半の狭い部屋でも、きっと幸せなのよ?」


 既にケーキを食べ始めていた空美ちゃんが、俺を見上げてひそひそと言った。

 いつになく真剣なセリフで、またちょい焦る。


「え、え?」

「さっきの絵里香さんが、おにいちゃんに『ケージ君も一緒に住んでいいのよ?』って囁いていたから……ちょっとそう思ったの」


 あれが聞こえたのかっ。

 さすがニュータイプ! て、感心している場合じゃないな。


 空美ちゃんがそんな対抗心燃やすのは珍しい。

 あと、さっきも胸を見て黄昏たそがれてたし。


「空美ちゃんと暮らすなら、せめて八畳くらいは確保するさ」


 考えながららちもないことを呟くと、空美ちゃんがフォークを放り出して目を輝かせた。


「うん、それでいいのっ。八畳もあったらたくさん遊べるし、仲良くできるもんっ」

「あ、いや」


「ばんざーい、なのよっ」


 両手上げるアクション付きで、万歳やめてー。

 本気で大喜びする空美ちゃんを見て、俺は無駄に慌てた。


 これ、まさか「げんち(言質)はとりましたぁ!」的なアレじゃないだろうな。


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