あのね、これって運命かもしれないね!
これほど自然と会話が弾むこととって、クラスでダベることが多い友人連中相手でも、珍しいよな。
空美ちゃんも「おにいちゃんと気が合うわね、気が合うわねっ」とわざわざ連呼してくれたりして。絵里香ちゃんのマンションに着く頃には、すっかり仲良しさんである。
まあ、最初から仲良かったけど。
他にもいろんな話をしたけど、「絵里香さんには、空美の魔法のこと、話しても大丈夫かなぁ?」などと相談もされた。
「大丈夫だよ、あの人なら」
もちろん俺はそう答えたさ。
「ふえー」
「おっきなマンションなのっ」
到着して自転車を降りた俺達は、駐輪場に自転車停めた後、揃ってマンションを見上げ、声を上げる。
いわゆる、タワーマンションってヤツ?
「えー、部屋番号が5501ってことは、もしかして55階ってことか。絵里香ちゃん、いつの間にかブルジョアになってんのなー」
あと、チャリでちょこっと走ってこられる距離だし、もちろんうちからも近い。
「そういや、空美ちゃんの家も、うちから近いんだよな?」
「うんっ」
めちゃくちゃ嬉しそうに破顔する空美ちゃんである。
「おさんぽだと少し遠いけど、でも歩いてもちゃんと着く距離なの」
にこにこしながら、当たり前のように俺の手を握ってくる。
そのあと、珍しくちょっと恥ずかしそうに言った。
「あのね、こういうのって運命かもしれないね!」
「お、おお」
いや、なんの運命? え、もしかして恋愛方面の運命?
そんな馬鹿なとは言えない。
俺は普段忘れがちだが、赤い糸はこの子にも繋がっている。
マジですかという感じだが。
俺はこの機会にまた、気合いを入れて空美ちゃんを凝視し、赤い糸が確かに繋がっていることを確認する。
ていうか……右頬にくっきりはっきり見える赤い数字が、99!
声が洩れそうになったが、なんとか堪えたっ。
いや……これもう、妹の可憐とほぼ並ぶやん! 本当に信じていいのか、この数字。相手は十歳の女の子なんだけどっ。
その年の子って、そこまで強く激しく、異性に愛情持ったりするかぁ?
「ど、どうしたの?」
俺がぶったまげた顔で凝視したせいか、空美ちゃんは恥ずかしそうに俺を見上げた。ちょっと瞳が潤んでいたりして、どきどきものだ。
あと、この子の場合、大きな真っ黒な瞳が凄く神秘的で、無邪気そうに見えるのに、深い湖みたいな瞳の底に、なにか動かしがたい神聖なものが窺える気が。
巫女さんとか、賢者みたいにさ。まあ、空美ちゃんの能力のせいで、余計にそう見えるのかもしれないけど。
「なんでもないよ」
俺は気を取り直して、首を振った
繋いだ手をちょっと持ち上げ、「じゃあ、行こうか」と声をかける。
「うんっ」
安心したように空美ちゃんが微笑し、俺達は仲良くエントランスへ向かった。
なぜか、絵里香ちゃんが指定したのが、エレベーターホールとは別の場所にある小型のエレベーターで、昇降ボタンの代わりに、暗証番号を入れるためのキーがある。
電話で教えてもらった通りに数字を入れ……ていうか、その数字って俺の生年月日なんだけどっ。
ま、まあともかく数字を入れると、ケージが開いた。
中へ入ると、子供らしいわくわく顔で、空美ちゃんが俺を見た。
「これ、専用エレベーターなの? 前に、お金持ちさんが出てくる映画で、似たのをみたのよっ」
「せ、専用!? あでも、そういやこれだけ別だよなあ。そうかもしれないね!」
里親さん、大金持ちなのか? 絵里香ちゃん曰く、「珍しく、関係はとても良好」らしいが。
……50階までは瞬く間で、控えめなチャイムの音と共に到着した。
しかし、ドアは開かない。
代わりに外から、なぜか絵里香ちゃんの声がした。
「ケージ君と空美ちゃん?」
「はっ、俺でありますっ」
いかん、緊張して裏返った声が出た。
「はっ、空美でありますのっ」
空美ちゃんが、面白がってすかさず真似するしなっ。
ともあれ、俺達の返事と共にようやくエレベーターが開き……なんとその向こうにはプライベート空間が広がっていた。
「いらっしゃい!」
弾んだ声と共に、薄着の絵里香ちゃんがっ。
なるほど、客は彼女が中から開けないと、暗証番号知っててもケージ開かない仕組みかっ。
いや、それにしても、彼女の背後の広さにびびるわー。
今乗って来たのもマジで専用エレベーターみたいだし、どんだけ金持ちなんかー。
「うわぁ」
驚きのあまり、空美ちゃんみたいに感嘆の声も出ないぞ。
俺が棒立ちしていると、絵里香ちゃんが苦笑して手を引っ張って出してくれた。その際、素早く耳元で囁く。
「気に入ってくれたなら、ケージ君も一緒に住んでいいのよ?」
「えっ」
今の囁き……どういう意味だよ。
いや、そのまんまの意味なんだろうけど。