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啓治君にはわたしの人生の責任とってもらうからっ

「ちょっと!」


 銀髪少女が初めて狼狽の叫びを上げ、密かに「ざまぁ!」と思ったが、今そう言われるべきなのは、俺自身だった。


「いたたたっ。マジでいてえっ」


 着地した瞬間、グキッとなった左足に鋭い痛みが走り、死ぬかと思った! 

やはり、高すぎたのだ。


 それでも、激しくなる新幹線接近の音に慌てふためき、俺はびっこを引いて少女に接近する。 見守る少女の切れ長の瞳には、渋々感心しているような感情がちらついていたように思う。





「ほら、追いついたぞっ。とっとと下がるんだっ」


 男の力を思い知れっとばかりに腕を引っ張ったが、この子がまたとんでもない剛力だった。俺がいかに全力を出しても、根が生えたように動かないのだっ。

 おまえは、少女版ターミネーターかくそっ。


「どうして……そんなに懸命に助けようとするの?」


 この頃の俺は、悪い意味で節操がなかった。

 つまり、恥ずかしいセリフでも平気で叫べる。実際、こう叫んでやった。


「男が、女のピンチを黙って見過ごせるかっ」


 もう新幹線は本当に間近に迫り、先頭車両が微かに見えていた。速度からして、ここまではあっという間だろう。運転手が気付いたのか、やかましい警笛みたいな音と、金属同士が擦れる凄まじいブレーキの音がしたが、もう手遅れだ。


 その時、ふいに動かずにいた少女の腕が俺を抱き締め、「仕方ないわねっ」と囁いた。




「えっ」


 いきなり胸に抱き締められ、動揺した俺を無視し、彼女が膝をたわめて一気に飛んだ!

 実際はジャンプだったが、俺は本当に空へ飛んだのかと誤解したほどだ。


「うわあああっ」


 俺を抱えた不自由な体勢のまま空中で一回転し、さっきの柵の支柱を一度蹴飛ばして方向を変える。

 気付けば、俺と彼女は、さっきまで俺がいた森の切れ目付近に着地していた。



「逃げるわよっ」


 彼女は俺を下ろすと、手を握って有無を言わせずに走り出す。

 細身のくせに、そのパワーも凄まじく、とても逆らえなかった。だがまあ、逃げた方がいいのは確かだろう。


 少なくとも、新幹線の運転手に見られただろうし。


「今のわたしは、姫野絵里香というのっ」


 俺を引きずるようにして森の斜面を駆け上がりつつ、彼女は振り向きもせずに名乗った。


「い、樹、啓治……だよっ……はあはあっ……す、スピード落とそうよっ」

「駄目!」 


 即座に却下した後、彼女がまた言う。


「助けたら後悔するって言ったのに! こうなったからには、啓治君にはわたしの人生の責任とってもらうからっ」


 全てが終わった後、俺は何度も考えたね……それ、どういう意味だったんだろう? と。


 こっそり白状すれば、今も俺は、この時の絵里香ちゃんのセリフの意味を考える時がある。

 しかしその時の俺は、無理矢理引きずられて走る苦痛で非常に不機嫌であり、荒い呼吸の合間にこう答えたのみである。


「や、やかましいわ!」


 これが、俺と姫野絵里香ちゃんとの、最初の出会いだったのだ。



 まあ、ボーイ・ミーツ・ガールの甘酸っぱい例にはほど遠く、かなり特殊な例だと言えよう。



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