わたしが友人として、すぐに来られるように『鍵』をあげる
「こほん。あのさ――」
予言の類いを聞いていると、どうも本当に実現する気がしてならない。
そこで俺は、少し前から思いついた提案を話した。
「俺も妹も、ここに残ることはできないけど、少なくとも俺はまた来ていいと思っている。いや、ぜひ遊びに来たいなと。年に二回くらいかな?」
「……それで?」
何を言い出すのかわからないようで、ステラは不思議そうに俺を見た。
「いや、その時にぜひ血を提供したいと思って。噛みつかれるとまずいけど、例えば注射なんかで穏当に吸い上げるのはどうだろう? 献血量の倍くらいで。ステラのために、是非にもなにかしたいんだ」
しばらく黙り込んだ後、ステラは小さな声で答えた。
「……ありがとう」
それからまた俺の顔を見る。
「でも、それだと施しを受けることになっちゃう。対等な友達の立場じゃなくなるわよね? ケージ君とそういう関係になるのは、辛いわ」
「いや、無償って言ってないし」
俺はニヤッと悪童のように笑みを広げた。
「逆の立場でも、多分俺は同じことを言うように思う。だからこれは、正当な交渉だよ。俺も訪問した時には、なにか望みを言うからっ。自慢じゃないけど、欲しい物なら幾らでもあるしね」
ステラは俯いたまましばらく答えなかったが、再び顔を上げた時には、かなり優しい表情になっていた。
「その申し出、本気? 本気だと受け止めていい?」
「もちろん。本当に来るよ……電車代が大変だけど、まあなんとか」
「その心配はないわ。わたしが友人として、すぐに来られるように『鍵』をあげる」
「鍵?」
「そう、鍵。ここを出て行く時に、渡してあげる。でもね――」
ステラは少しためらった後、思い切ったように続けた。
「でも、妹さんと二人で、ずっとここにいてくれるっていう選択肢はないの?」
「ここはいいところだし、いつかはそうするかもしれない」
俺は本気で答えた。
「でもそれは、多分ずっと先の話かな。妹には、ここの魔法は強烈すぎる」
「あら、あれがあの子の本音なのに」
ステラはからかうように言ってくれた。
「確かに、この街にかけられた魔法のお陰だけど、普段のあの子だって、ケージ君に対してああいう風に接したいと思っているのよ。ただ、自分がどれだけケージ君に溺れているか自覚しているから、心の中でブレーキかけてるだけ」
「えぇー、本当かな、それ」
「本当だってば」
笑いながら言いつつ、ステラはま俺の肩に身を預けた。
「でも、そうね……いつの日か、あの子が自然と自分で態度を決められるようにする方が、自然な流れよね」
「……俺もそう思ってる。その時に嫌われてたら、そりゃそれでしょうがない」
「わたしの見立てでは、それはないわ。それよりケージ君は、他の女の子達の関係をどうするつもりなのかしら?」
上目遣いに見られ、俺は言葉に窮した。
そ、そんなこと言われてもな……赤い糸が何名も縁を繋ぐからこうなったわけで――。
などと言い訳がましく考えているうちに、ふいに辺りに霧が立ちこめてくる。
どうやら、時間切れらしい。
慌てて隣を見ると、もうステラの身も、霧に紛れそうだった。
『さようなら、ケージ君。……また、今度ね』
「うん、また今度っ」
僕は可能な限り大声で叫んだ。
ステラの声が寂しそうだったからだ。
「俺は約束は守るぞっ。必ずまた遊びに来る! というか、可能なら、年に何度かっ。絶対に絶対に!」
『ケージ君が約束を守ってくれるって、わたしにはちゃんとわかってる。だから、またね!』
「ああ、絶対だ!」
最後に叫んだ次の瞬間、俺はまたしても眠りに引き込まれていた。
不人気ジャンルですし、もう一度だけ告知を。
ちょうど、1話が終わったところですので、新作の「転生ヴァンパイアカフェ(以下略)」も、よろしければ。
1話だけなら、さほど時間かけずに読めるかと。
もちろんこのデレ妹も、まだまだ続く予定です。