表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/159

汝に罪なし(ケージ談)


 ここへ来て、一気に謎が解決した気がする。

 少なくとも、この街に住む条件とやらは、もはや確定だ。


「まさか、住民達を吸血してまわっている?」

「そんなことしたら、みんなヴァンパイアになっちゃうじゃない?」


 ステラは、人差し指でぷにっと俺の左頬を突いた。


「ただ了解を得て、自然と血をもらうだけ。私の魔法の産物と言っていいこの街は、いわば私の結界内なのよ。だから、特にそういう真似をしなくても、ここにいてくれるだけで、自然と適量の血液が私に提供される仕組みなの。注射とか噛みついてちゅーちゅー吸うとか、そういう必要ないわ。この街は私の半身も同然だもの」

「はぁあああ」


 嘘つけーと言いたいところだが、本当に危険な方法で吸血するなら、朝方に会った南部さんや、店番してた優ちゃんなんかが、そうと教えてくれたはずだ。

 さすがにインパクトありすぎるからな。

 しかし、まさかの自動献血とは。


「さらに言えば、みんなから少しずつもらってるし、誰も自分が結界の魔力でそっと血を抜かれているなんて気付かないわ。代償として、ここにいてくれる限り、私はみんなの望みを叶えるの」

「むう」


 唸るしかないというか、俺の予想は全部外れていたな。

 なにをどう答えたものか迷うところだが……そこで、ガヤガヤと人の声がして、森の方から集団が練り歩いてきた。


 だいたい三十名くらいか? 壮年の男が多いけど、女性もいる。 

 どいつもこいつも、燃え盛る松明たいまつを手に、殺気だってギラギラした目をしていた。



『吸血鬼の女を燃やしてやったぞーーーっ』

『あとは子供だけだっ。子供の方は、捕まえた後で吊るせっ」

『死体にして首を刎ねれば、さすがに蘇るまいっ』



 呆れて見守るうちに、連中はどこかへ歩き去ってしまった。

 おそらく、新たな獲物を求めて去ったのだろう。


「……あの悪鬼みたいな連中も、実在した?」


 ぶるっと横で震えたのに気付き、俺はそっと尋ねた。


「もちろん。すべてが本当にあったことよ。でも、彼らの末路は訊かないでほしいわ」


 心の中でひそかに頷き、俺はそっと息を吐く。


「じゃあ、一つだけ聞かせてほしい。君ら親子に非があったわけじゃない?」

「私もママも、人間の協力者を得て、その人達からしか、血の提供は受けていなかったわ。他には悪事なんて働いてない。この街みたいに完成した結界じゃなかったけど、それなりに上手くやっていたと思う。でも、その提供者の一人が――」


「裏切って、君達のことを密告した?」


 俺が水を向けると、潤んだ目でステラは頷いた。

 屋根の上で膝を抱えて座る彼女は、今や最初よりずっと心細そうに見える。


「……あの人にはあの人の事情があったけどね。私達親子の知らぬ間に、魔女狩りに引っかかっててたのよ。そして、お定まりの拷問の途中、ふと私達のことを話したの。助かりたかったんでしょうけど、結局、その人も殺されたわ」

「なるほど」


 俺はなるべく穏やかに声に出した。


「お母さんがどうやって捕まったのかはわからないけど、どうせ汚い方法だろう。少なくとも俺は、その後に何が起ころうと、それは連中の自業自得で、ステラに責任ないと思うね」


 思わず呼び捨てで呼んでしまったが、彼女は気を悪くしなかった。

 顔を上げてぱっと俺の顔を見たかと思うと、そのまま長らく見つめていた……どうでもいいけど、瞳が碧眼から真紅に染まっている!


 ちびっと怖かったけど、俺は意地でも顔に出すまいとした。

 多分そういう反応は、この子を傷つけるだろうから。


「……ケージ君は本当にそう思う?」

「思う! 当時住んでいた街とココを似せたのは、明らかに贖罪のためだろ? そんな必要ないと思うね、俺は。誰であろうと、正当な理由もなしに、黙って殺されていいはずない。もちろん、違う意見の人もいるんだろうけど」


 俺が冷静に言い切ると、ステラは深々とため息をついた。


「ママが殺されたことは、ずっと私の人間不信の原因となっているの。あの人達は、私の名前を出して脅し、卑怯な手段でママを無力化して捕まえたわ。……全ての人間がああじゃないことは、わかっているのだけど」

「肉親の死が絡んでいるなら、そう簡単に納得できるわけないさ」


 俺が慰めると、彼女はくすっと笑って俺にぴたっとくっついてきた。


「な、なに?」

「いえ……私に近いケージ君にそう言われると、本当に慰めになるなって」

「俺、近いかな?」


 苦笑して尋ねると、彼女は悪戯っぽい目で俺を見た。


「不思議な力を持っているでしょ? 魔法のような?」


 え……もしかして、バレてますかっ。

 俺は別の意味で緊張した。


「おそらくケージ君は、今後もいろんな事件に巻き込まれると思うわよ……妹さん絡みのことでも、そうでないことでも」


 おまけに、嬉しくない予言までっ。


転生ヴァンパイアカフェ「アヴァロンへようこそ」というタイトルで、現代恋愛物を初めてます。

内容は、この物語の主人公が、ヴァンパイアになったような感じで、恋愛+ファンタジーみたいなものでしょうか。

転生者が一杯出てくるのも、違いと言えば違いです。


よろしくどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ