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なるほど、彼女(オーナー)には俺達が必要なんだなと

 俺はホテルへ戻った後も、レストランで朝食を摂りつつ、あの車の意味を考えていたのだが。


 どうも悩んでいるのは俺だけらしく、明石さんも可憐も、テーブルで和やかに風呂やらメシの話などしていて、緊張感が削がれまくる。




「みんな、すっかりここが気に入ってるんだなあ」


 ため息まじりに呟くと、明石さんが苦笑した。


「そりゃ不満もたくさんあるけど、私の顔を見る度に『公立じゃなくて、ご近所に恥ずかしくない学校を選びなさいっ』なんて、二年も前から進学についてガミガミ言う親がいるよりは、マシだわね」

「……まあ」


 飛び級狙いのくせに、可憐が同情したように頷く。


「おほん」


 俺はまた雑談に戻らないよう、明石さんを真っ直ぐに見た。


「それじゃ、明石さんはもう、ここで定住する覚悟?」

「いえ、それはまだ」


 意外にも、きっぱりと首を振った。


「だって、オーナーのお願いとやらをまだ聞いてませんからね。迂闊に返事できないわ。全てはそれ次第」

「なるほど……うん、それなら納得できるな」


 まあ、俺はどのみち逃げる気満々だが。

 この際なので、明石さんにもここを出て行く人の存在を教えてあげた。


「――というわけで、代表してってことでもないけど、今から話を聞いてくるよ」

「わたしも行きますってば!」


 慌てて七割方残っているパンを口に詰め込み始めた可憐に、俺は優しく頷いた。どうあってもついてくるつもりなら、ここは最終手段に出る他はない。

 場合によっては、妹に知られたくない話をする可能性もあるし。


「帰ったら、ちゃんと事情を教えてやるからな?」

「いえっ、だからわたしも」


「また後で会おう、妹よっ。今はしばしの別れだ!」


 俺は颯爽と立ち上がると、取るものもとりあえず、駆け出した。


「あぁーーーーっ。おにいさま、ひどいっ!?」


 悲痛な声がして足が止まりそうになったが、なんとか我慢してレストランを出た。もちろん、フロント前も走り抜け、例の自転車レンタルの場所まで一目散である。


 その人の家はもう、駄菓子屋の優ちゃんに教えてもらっているので、あとは向かうだけだしな。

 後ろの方でまた明石さんが爆笑していたが、思ったより明るい子だよなあ。






 

 ……街外れだと聞いていたが、電動アシスト自転車だと、すぐだった。

 この分だと、可憐がそのうち探しに来るかもしれない。


 問題の家は、小さな庭付きの平屋だったが、なにせ他と同じく石造りなので、重厚な見かけは同じだ。不思議なのは、庭に木製の丸テーブルがあって、大学生くらいの男性がぼおっと座っていたことか。


 あと、家の前に車がある! また車っ。


 さすがにブガティじゃなくて、小型の黄色いプジョーみたいだが……アニメ映画でル○ンと仲間が乗ってた、ちっちゃい車に似てる。


 俺が自転車で漕いで現れると、その人は控えめに微笑した。


「ああ、もしかして君かな、昨日から噂になっている人は?」

「俺、目立ってますかね」


 釣られて苦笑し、俺は自転車を降りた。


「あのー、実は」

「わかってるよ」


 彼は気安く頷いてくれた。


「話が聞きたいんだろ? 駄菓子屋の子が教えてくれた。そろそろ来るかなと思って、待ってたところさ」


 そこで寂しそうに笑い、付け足した。


「話が終わってから、僕は出発する」

「いや、それは申し訳ない」


 低頭して庭に入り、俺はその人の前に座った。

 なるほど、ポットとカップが二つ置かれていたのは、このためか。


「南部光一郎だよ、よろしくな。元は大学生……だったというべきか」

「あ、俺は樹啓治です。高一ですね」


 彼……南部さんは、好青年風の穏やかな容貌だったが、なんとなく俺は、自分に似たものを感じた。たとえば、弱っちいくせに、なかなか頑固そうなトコとかな。



「先に、君が知りたそうなことを教えておこう。ここへ迷い込んだのは一年前……電話を介してだがオーナーの話は聞いたし、彼女の事情もよくわかった。迷いに迷ったけど、やはり僕は出て行くことにした。元の下宿にもう部屋はないと思うけどね」



「はあああ」


 本当に、まず訊こうと思ったことを、ささっと教えてくれたな。

 しかし、肝心な部分はまだ聞いてない。


「それで、南部さんはオーナーの頼みごとというのを、もちろん聞いたわけですよね?」

「聞いたとも」


 おお、力強く頷いたぞっ。


「聞いた当初は『嘘つけー』と思ったりしたが、でも、映像越しとはいえ、証拠を見せられて納得した。なるほど、彼女には僕達が必要なんだなと」

「ずばり、オーナーの願いとは?」


「知りたいかな? だいぶ覚悟が必要なんだけど?」


「知りたいですねぇ。なぜここまでして俺達にいてほしいのか、ずっと気になっている。サービスが良すぎるし、その代償はかなりのものじゃないかと」

「ふむ?」


 南部さんは身を乗り出して俺をテーブルの上で手を組んだ。



 おお、ついに謎が明かされるか!?


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