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「ヤバい」があまりにも多すぎる


 それから一時間以上も後――。

 俺は風呂から上がり、私物の青い浴衣に着替えた可憐と、一番大きな部屋に戻っていた。


 革張りのソファーがあったので、二人でそこに並んで座り、エアコンの冷風で涼んでいたわけだ。

 もちろん、俺は私物の浴衣なんぞ持ってきてないんで、部屋に備え付けのガウンだけどな。


 ていうか、実に四十分くらいも「明るい場所で」裸身の可憐と一緒にいたわけで、ちょっと今、頭が回らない。

 自分でもわかるが、俺は駄目になりかけている。


 うう……やはり断るべきだったか? とも思うが、「兄妹でお風呂入ることの、どこがおかしいんでしょう?」と囁き声で言われ、口付け効果で頭がホワイトアウトしていた俺は、「そうか、兄妹だしな!」とオウム返しに答え、ふらふらと風呂に直行してしまった。


 ちなみに、奥の家族風呂に入る前に、可憐は本当に思い切りよく脱いでしまい、そこでも「わああっ」と思ったしなあ。

 振り向いたら、もう半ば脱いでやんの。


 あっち向いて屈んでいたせいか、下半身の大半が目に焼き付いたじゃないか。

 さすがにその後、肝心の風呂に浸かっている間は、なるべく本人を見ないようにしていたのだが――。

 可憐がまたいつになくべったりくっつき、もう頭の中で計算でもしてないと、自分を抑えきれないところだった。


 ヤバかった……あの瞬間は本当に、人生で一番ヤバい瞬間だった。


 なにが一番ヤバいって、俺が最高に頭と腰に血が集まっている状態の時、可憐のヤツが「でもわたし達、その気になれば、結婚だってできるんですよね、お兄さま?」とか吐かしやがったのが、筆舌に尽くしがたいほどにヤバかった。


 唐突なのは置いて、さっき言ってたのと、微妙に言うことが違うやんけ。


 さすがにぎょっとして隣を見ると、俺にべったりくっついてた可憐の瞳が、すぐ間近にあったりしてな。しかも、潤んでいたりしてな。


 慌てて目を逸らそうとすると、俺の腕に当たった胸が丸見えだったりもして。





「ま、まあいいさ」


 なぜか回想の間に呼吸が荒くなってきたので、俺は自分に言い聞かせた。


「とにかく、危機は過ぎた……いや、まだプチ危機だけど」


 なぜかっつーと、湯あたりしそうになった俺達は、こうしてエアコンの風に当たっているわけだが。



「膝枕を、膝枕をお願いします、お兄さまぁ……昔のように」



 などと可憐に甘えられ、「まあ、それくらいは」と思った俺が、応じてやったのである。

 ほんの数分ほどだと思ったが、こいつ、俺の膝の上で幸せそうな笑顔見せて、すやすや寝ちまいやがった。


 しかも、いつになく寝相が落ち着かなく、膝の上でもぞもぞしやがる。

 ようやく顔を横向きにした姿勢で寝てくれたが――が。

 今度は、浴衣の合わせ目から、モロに小ぶりの胸が見える……ブラじゃなくて、生の胸が。


 こいつ、浴衣の下になにも着てないんかーーーっ。


 さすがにパンティーというかショーツくらいは着けてるんだろうな……どきどき。

 俺の眼下に、妹ならぬ義妹の白い胸! わざとかと思うほど大きく開いた合わせ目から、薄い桃色した先端部分まで見えてしまう。


 多分俺はこの十数分の間に、二桁回以上は「寝てるし、ちょっとおっぱい揉んでもバレないんじゃない?」とか「だいたい、今の可憐なら怒らないぜ?」とか、悪魔の誘惑と戦ってきたのである。

 そろそろ精神的に陥落しそうでヤバい。


 実際さっき、胸にばかり注意がいってたせいか、たまたま動かした左手が、可憐の腰のあたりに当たってしまい、慌てて確認したら、浴衣のお尻の辺りを撫でていたという……わざとじゃないけど、向こう一年くらいは忘れられないような感触だった。 


 ぐ、偶然にしても、飛び上がりそうになった。


 猫のように丸まって眠る可憐は、まさに全身がヤバい。

 だいたい今ので、浴衣の下は素っ裸だとわかってしまったしな! わあっ。


 考えるとヤバい。既に俺のある部分が反応しかけている。



「よし……俺は逃げる!」



 ようやく誘惑を振り切り、俺は決意した。

 この数十分ほどの回想が、全てエロ場面ばかりなのが、心底ヤバいと思う。


 この状態はどこか不自然で、このまま流されるのはまずい……俺だけでもしゃんとしないと! という決意が辛うじて今の俺を支えているのだ。


 いや、もう風呂は入っちゃったけどな。

 これ以上は駄目だ、もう欲望という名のダムが決壊する。


 俺はそっと可憐の頭を持ち上げ、髪の香りにくらくらしつつも、なんとかソファーにあった座布団に、可憐の頭を載せ換えることに成功した。


 よし、このままこそっと着替えて、このヤバすぎる街で聞き込み調査だ。

 逃げる算段をしないと、俺は駄目になる!


 着替えている最中、「……うふふ……お兄さまったらっ!」なんて夢見心地の声がして危うく悲鳴が洩れそうになったが、ただの寝言だった。


 ひ、人騒がせなヤツめぇえ。

 なにか幸せな夢でも見ているのか、瞳を閉じたせいで秀麗さが際立つ顔が、笑み崩れている。


「ううんっ」


 ……また寝言が洩れたしな。

 足が今にもソファーにUターンしそうになっているが、俺は断固としてドアを開けて、廊下に出た。


 ……施錠はきっちりしとこう。


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