表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/159

運命が垣間見えた、三つの質問

「――あのっ」


 俺が戸惑って執事みたいな老人を眺めていると、明石さんがふいに声を上げた。


「あたしは特に予約していませんが、部屋が空いてたら、追加でお願いできませんか」

「もちろん、構いませんとも。それに、うちの宿舎はこの地に来た皆さんのためにあるものですからね」


 ニコニコとそう述べると、老人は早速ロールスロイスに戻り、後ろの死体が幾つも入りそうなトランクを開けた。

 無論、俺達の荷物を入れるためだろうけど。 

 ……しかし、今の彼の言い方、どこかおかしくなかったか。

 素早く目配せくれたところを見ると、明石さんも気付いたようだな。


「兄さん、早く荷物を!」


 一方、「おまえ、今回に限っては楽観的すぎるだろうっ」と思う可憐も、せっせと車に乗る支度をしているという……まあ、そりゃどうせ乗るしかないんだろうけど。


 あの汽車も、いつまでも停まってないだろうし。





 広い車内では、なぜか俺を含めて全員が後部座席直行で、俺は二人の真ん中という位置だった。当然、前はドライバーの老人一人だけである。


「出発する前に――わたくし、宿舎で長年働いております、友垣ともがきと申します。今後とも、よろしくお願いします」


 老人……友垣さんとやらは、エンジンかけた後に振り向き、数日しか泊まらない「はず」の俺達に、やたらと渋い挨拶をしてくれた。いや、考えすぎかもしれないが、あまり短期の客にする挨拶じゃないような。


 それに、最初こそ「宿の者です」と言ったが、あとはなぜか宿舎と呼んでいる。

 まあ、宿舎だって宿の一種だけど、言い方がおかしい……気がするよな。


 そう思いつつも、流されやすい俺は「あ、お世話になります」挨拶しちまった。

 率先して可憐が「お世話になります、友垣さんっ」とニコニコ答えたんで。


 明石さんが最後に低い声で名字のみを告げ、「よろしく」と低頭する。

 友垣さんは終始笑顔で、「では、宿舎へ参りましょう」とのたまい、ロールスロイスは滑るように動き出した。


 あたかも野原の中を突っ切るような車道を悠々と進み、まっすぐ、西側の森の方へ向かう。そりゃまあ、他に見えるのは延々と続く野原と、区切りを示すかのような周囲の山だけだしな。何かあるとするなら、あの森の向こうにしかあるまい。


「森の中にも道はございますが、少し暗いので回り込みますね」


 友垣さんが愛想よく言う。


「ああ、はい。お気遣いどうも」


 俺が軽く頭を下げた途端、右隣の明石さんが、俺の横腹を肘打ちで二度ほど、チョンチョンと突いた。


 見れば、俺の顔を指差し、そして友垣さんの方を指差している……今のうちに、詳しい情報を訊き出せということかな? 

 自分でやりたまえ! 

 と言いたいところだが、相手は妹と同じ年の子だ。


 俺が動くしかないか。


「おほんっ」


 俺は大きく咳払いした後、いきなり核心をついてやった。


「あのぉ、あそこの名無し駅まで通ってた機関車、いつから走っているんでしょう?」

「いやぁ、それはオーナーしか知らないかもしれませんなあ」


 謎の返事をした後、友垣さんは頭を掻いた。


「私はここへ来て十年以上経ちますが、十年前の時点で、既に当たり前のようにこういう形で存在していました」


 俺と明石さんは、思わず顔を見合わせた。


「オ、オーナーとは、なんの?」

「もちろん、この土地全体のですね」

「はい?」

 訊き返したが、わざとらしく無視された。



 いよいよ……怪しくなってきたぞ? 

 念のために可憐を見ると、ちょうどこいつも俺を見たところで、自分から手を握ってきた。

 そうか……さすがのおまえも、大量のデンジャラス・キーワードを聞くうち、信じられなくなってきたか。


「この際、ずばっと尋ねますが」


 俺は生唾を飲み込んだ後、さらに踏み込んだ質問をした。もはや、体裁を考えている段階は過ぎて、限りなく「いつ、どのように逃げるべきか?」を検討する段階である。


「三つほど質問がありますが、いいですか?」

「どうぞどうぞ」


 うわぁ、愛想のよさがよけいに怖いわー。


「では、お言葉に甘えて。まず質問一、その宿舎とやらは本当に普通の旅館的な場所ですか?

質問二、急に気が変わって俺達が帰りたいって言ったら、駅に戻してくれます? 最後の質問三。そのオーナーって人は、普通の人間ですか?」







「あー、お答えとしては、かなり簡単です……少なくとも、短めに答えられるという点で」


 ロマンスグレーの髪が渋い友垣さんはうんうんと頷き、本当に素早く答えてくれた。


「今のご質問で言うなら、三つともきっぱりとノーでございます」


「……うわぁ」 


 俺は頭を抱えたし、明石さんは厳しい視線で老人の後頭部を睨んでいる。

 そして我が妹可憐は――彫像みたいに固まっていたが、ふいに俺の手を一層強く握り、俺を見た。


「じょ、冗談なんですよね?」

「知ってるか? ホラー映画で最初に殺されるモブ被害者の多くは、おまえと似たようなこと言うんだぞ?」


 俺は素っ気なく答えてやった。

 何か考えろ、何かっ。


 本当は、外部との連絡なら、一つだけ方法があるんだが……しかし、意志の疎通ができないんだよな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ