都市伝説か、異世界への道程か
え、どういう意味だそれ。
まさかとは思うが、「マシンボディをロハでもらう話」じゃないだろうな。
いや、絶対に違うな。
俺は眉をひそめ、重ねて尋ねた。
「えっとさ、悪いけど俺達兄妹は、本当に単なる温泉旅行のつもりで来てるんだって。察するところ、君は違うのか」
「……温泉旅行って、こんな辺鄙な田舎に、わざわざ温泉に浸かりにくる人なんているの?」
「俺もちらっとそう思った、問題のブログを見た時には」
うんうんと俺は頷く。
「しかしブログ名が秘湯がどうのだったし、そういう嗜好も世の中にはあるのかなと。しかし、今は奇妙だと思い始めてるのさ……少なくとも俺は。だから、君がどういう経緯でここにいるのか、ぜひ訊きたい」
女の子はまた、胡散臭そうに俺を見たが、ようやく嘘はついてないと思ってくれたのか、ため息をついて荷物から紙切れを取り出した。
A4用紙に、数枚ほどか。
「あたしがヒントをもらったのは、まとめサイトを始めとして、いくつかのサイト。実際に行方不明になっている人も多いし、嘘じゃないと思ったの。これが、プリントアウトしたもの」
「ほほう?」
参考資料を受け取ったところで、汽車が派手な汽笛を鳴らし、ガコガコンッと大げさに揺れた。俺は足を踏ん張って堪え、その場で資料を読み始める。
ガタゴト音を立てて汽車が走り始めたが、無視。
席に戻って読むから貸してって言っても、多分、駄目って言われるだろうからな。
で、なになに――【異世界へ行く方法まとめ】だぁ?
どうもこの子、まとめサイトとか大規模掲示板とかで、めぼしい書き込みをガンガン抜いてプリントアウトしたらしい。
ただ、情報は雑多でも、書き込みの時系列だけは気を遣っているようだが?
とり急ぎ俺は、日付やらPNやら地名や名称などを全部無視して、ざっと読んだ。
○エレベーターで異世界へ行く話は、眉唾だって。実際にそれで行けた奴、見たことないし。
○実際にそれで行けた奴の確認は、ほぼ不可能だろ? 成功したら消えるだけだ。
○きさらぎ駅の話はどうだ? 続編まぜて、三通りくらいあるんだが。
○あの話は、まだ保留だ。
元となった話は、あるいはネタかもしれないが、実は見知らぬ駅に着いたという話なら、かなり類例があるらしい……て、これは俺の友人が語ったことだが。どうもそいつは、実際に鉄道路線図に存在しない駅を見たそうだ。
○そもそも、それがデマなんじゃ? いや、単なる煽りですけどね。
○俺は↑で書き込んだ奴じゃないが、でも行方不明者ばかり載せてるサイトを調べてみろ。じーさんばーさんも多いが、若者だって決して少なくない。
しかも、俺が知る限りじゃ、異世界に行くために、事前にネットの情報を見て実行したって奴もいる。
○その情報を書きましょうよ!
○そこが肝心じゃないですか、やだー。
●流れを無視して情報を告知。今の生活から抜けたい者は、以下の方法を試せ。○○県の○○駅でタクシーに乗り、「き○○○駅へ」と頼め。すると、運転手は必ず「そんな駅知らない」というが、今から書くルートを指定せよ。国道○○号線を通り、○○駅そばの交差点を東に折れる。そのまま数キロ直線を進み、分岐に出る度に北方向を選択する。
君が選ばれた者ならば、なぜかいつのまにか盆地に出ているはず。そこにスタートのき○○○駅がある。駅員は皆無だけど、蒸気機関車が停まっているはずだ。切符なんかなくていいから、それに乗れ。
目的地の駅に着けば、後は君達次第だ。
その閉鎖された約束の地が天国になるか、あるいは死への道程になるか……全ての選択肢は君達の手の中にある。
○おい、いくら魔法使いDTの俺でも、その情報信じるほど切羽詰まってねーよ。
○じゃなくて、待てこらっ。俺は他の掲示板で、存在しない駅を見たって友人がいるって書き込んだ者だが。……おまえの話と、友人から聞いた話が、ほぼ一致するっ。誰だよ、おまえっ。なんのために皆を集めるんだっ。
(返答ないまま、数日経過)
○なあ、前に書き込んだ、友人が謎駅を見たって奴、まだいるか? 結局その友人はどうした?
○まだいるぞ。いや、それがそいつは駅までは行けたが、異様な駅の光景に怖くなって、引き返したらしい。ただ、戻る方角がわからず、何時間も歩くうちに倒れてしまい、気付いたらタクシー拾った駅のそばで、なぜかベンチに座ってたとか。
○超うそくせー。
○待て、問題の駅が本物のきさらぎ駅の可能性もあるんじゃないか!
○ねーよ!
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他にもまだまだ抜き出した書き込みはあるが、俺的に最も驚いたのは、特に●が付けられた、謎書き込みだ。
さっきまでいた謎駅までの行き方が、あのブログに載ってた方法とほぼ一致するぞ。
違うのは、ホテルだか民宿だかの電話番号とか、温泉とかの話が抜けてるだけだ。