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これ(日記)本当にあいつが書いてんのかーーーっ


 可憐は、俺が手伝うまでもなく、超特急でホテルだか旅館だか民宿だかに電話し、ささっと三泊の予約を取り付けた。


 たまたま、絵里香ちゃんがブログに飛べなかったことを思いだした俺は、「電話して、なにか妙なことはなかったか?」と尋ねてみた。

 しかし可憐は小首を傾げ「妙なこと? 特にありませんけど。どうしてでしょう?」とむしろ不思議そうな顔をされてしまった。


「あ、でも」


 俺が肩をすくめると、「用事があって、予約の後でも電話を入れたんですが、その二回の電話とも、もの凄く静かでしたね」と思いだしたように言った。


「静かって?」

「旅館って、繁忙期にはフロント回りがざわざわしてて、お客さんの声とか従業員の声とかが聞こえたりするじゃないですか、電話に」

「う~ん、まあそういう場合もあるな」


「そうでしょう? でも、あそこは本当に『どこで電話受けてるんでしょう?』と思うほどに、何も聞こえないんです」


「……ふむ?」


 俺が少し考え込むと、自分から言い出したくせに、可憐はすぐに笑った。


「でもよく考えたら、村の人口でさえ数えられるほどですから、静かで当たり前ですね!」

「そ、そうだな」


 結局、その話はそこで終わり、俺達は明後日に出発することとなった。

 ……妹と二人で旅行って、何年ぶりかねぇ。


 温泉が混浴とかだと、困るよなあ……はははっ。


 なんて脳天気な妄想をしてたくらいで、この時点での俺は、やはりあくまでも危険など本気で考えていなかった。


 普通、温泉旅行いくのに、命の危険なんか考える奴は、いないからな。






 ――明日は出発というその日の午後、可憐は例によって晩ご飯の用意のため、買い物に出かけていて、俺は一人で留守番していた。


 そして、本当に俺の悪い癖になりつつあるが、リビングのテレビでたまたま温泉特集を見ていた時、「そういや可憐の奴、珍しいほど乗り気で、一人でガンガン準備しちまったよなぁ」と思い、最近の日記に何が書かれているか、痛く気になってきた。


 リゾートでも見てしまったし、「そろそろ覗き見はやめよう」と二度目くらいの決意をしたのに、日記のことを思いだした途端、辛抱たまらなくなってきた。


 気付けば、またしても家の鍵を確かめ、風呂場にハシゴを持ち込んでしたほどである。


 ていうか、この隠し場所はあいつもたいがい不便だと思うのに。

 配電口をズラし、狭い場所を覗くと、もはや常備されている布団叩きのプラスチック棒と、奥の奥まで押し入れてある日記があった。


 隠し場所は相変わらず変更ナシのようだ。

 慣れた手順で日記を入手し、その場で確かめてみた。






7月27日 嬉しいですっ


お兄さまと旅行、旅行なのです! ドキドキします、ドキドキしますねっ。

なんだか、ものすごく久しぶりの気がします。


しかも今回は、リゾートの時のようにお友達やクラスメイトの方達と一緒ではありません。

二人きりっ二人きりですっ。


思わず連呼しちゃいましたけど、自分でも不思議です。

別に二人でいてもたくさんお話するわけでもなく、黙り込んだまま二人でそれぞれ別のことをしている時の方が多いのに。


もちろん、旅行に行ってもそれは同じでしょう。

それでもワクワクしてたまらないのですから、わたしはよほどお兄さまと二人きりで過ごしたいようです。


お話ししてもいいし、別に黙ったまま同じ部屋で過ごすのもいいんです……二人きりで過ごせれば、わたしはそれが幸せみたいです。

それだけ、お兄さまを熱烈に愛している証拠なのでしょう。


そういえば、どうも古い温泉らしいから、男女分けもないかもしれませんね。

は、恥ずかしいけど、二人で温泉に入るのもいいかもしれません……ああっ(赤面)。


で、でもっ。もう二人で入らなくなってから、ずいぶん経ちますものっ。



                             楽しみな可憐



○――――○





 俺はハシゴの一番下の段に腰掛けて読んだ後、「むむっ?」と呻き、もう一度読み返した。

 納得いかず、さらにもう一度読み返し、また読み返し――結局、そう長い文章でもないのに、五回も読んでしまった。


 で、毎度のように思うが、これ本当にあいつが書いてんのかーーーっ。


 もしかして、日記用の人格と日頃のノーマル人格と、脳内で分かれてんじゃないだろうな。最近はちょっと当たりが柔らかくなっているとはいえ、もちろんここまでデレデレな様子などない。ああ、あるもんか。


 昨晩だって「晩ご飯でいつもニンジン残すのは、よくないですっ」とか怒られたくらいだしな。……つか、毎晩ニンジン入れるあいつも大概だと思うんだが。


 関係ないが、こいつも混浴を期待してるとは……俺とレベルが変わらんではないか。

 しかも、俺より期待値高いように見えるしな。


 

「妹よ、そろそろ本音全開で接してくれてもいいんだぞ?」



 思わず呟いたが、「いや、待て。ホントにそれでいいのか?」と自問しちまった。

 絵里香ちゃんのこともあるし、知り合ったばかりのサイキック少女も気になるしな……こちらは主に、あの子の将来の心配だが。


 ……それにしても、可憐のこの日記が、マジで二重人格のような症状が成した結果じゃなければいいが。俺は未だにそっちを疑っていた。


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