異能力のアドバイスと、可憐のおねだり
しかし、そろそろママンが戻るそうなので、俺は再度の訪問を指切りして、今日のところは引き上げることにした。
名残惜しそうな空美ちゃんに手を振り、病室を出ようとした――が。
そこでふと閃いたことがあり、振り向いて言ってあげた。
「あのさ、もしもさっきの力を伸ばしたいんだったら、重さを意識しない方がいいな。多分、その力にとって、多少の重量の差は、あんまり関係ない気がする」
「え、そうなのっ」
大きな瞳を見開き、空美ちゃんが俺を見つめる。
「わたし、軽いものより重いものの方が、持ち上げにくい気がしてたの」
「そりゃ超重量となれば、また違うかもしれないけど、数百キロ程度はあんまり関係ないような……う~ん、なんで唐突にそう思ったのかは、俺にもわからないけど」
わー、我ながらすげー説得力ない。
けれど、空美ちゃんは本気で感心したように、何度も頷いていたな。
「わかった。こっそりがんばるね!」
「ははは……ま、まあほどほどにね」
また理由を訊かれないよう、俺は今度こそ早々に退散した。
今思いだしたけど、映画のSWシリーズの中で、ヨーダが似たようなこと話してたな、そういや。
俺のことだから、あれを無意識に思いだしたのかもしれん。
そして、帰宅すると、なぜか可憐が走ってきて俺の手を引っ張った。
「にいさん、よさそうなところを見つけたわっ」
「ああ、行き先か? 俺、天然温泉があるような田舎とかがよさそうな気がするけど」
機先を制して言ってやったが、可憐は自分の部屋に俺を連れて来て、PC画面を指差した。
「それは大丈夫! ちゃんと温泉もあるから。しかも、知る人ぞ知る秘湯だそうよ!」
……エラい張り切ってまあ。
でもまあ、俺だって妹が行く気になってくれているのは嬉しい。
そこで言われた通りに画面を見たら……これはアレか、個人のサイトか? 秘境マニアが喜びそうな場所ばかり、ブログに写真入りで載せてるが。
で、可憐推薦は、場所的には超のつくような田舎らしい。途中までは新幹線で行けるとしても、そこからは、単線の電化してない鉄道で向かうとか!
マジかよと思ったね。
しかも東北のこの県、多分、俺も可憐も初めていくところだ。
「……あっ」
さらに情報を追っていて、俺はふと目を瞬いた。
「気付いた? 座敷童さんが出る宿だそうなのっ」
「おまえ、座敷童は怖くないのか? あれも妖怪の一種だと思うが」
「怖くないもん。だって、座敷童さんは、幸運を運んでくれるんだから」
相変わらずのさん付けは置いて、不思議なことを言う奴である。
いや、座敷童の解釈はともかく、妖怪でも怖いのと怖くないのがいるとか。
「上手く座敷童さんを見たら、わたしと兄さんのこともお願いしましょうね」
「俺達の? 俺達のなにを」
「――っ!」
おい、なぜそこで、慌てて口元に手をやるのか?
「な、なんでもないの。二人の長寿とか、そういうお願い……とか?」
とかって……超嘘くせー。
そのうちまた日記を見たくなるじゃないか、そういうこと言うと。
だが俺はそれ以上は追及せず、笑顔で頷いてやった。
ここのところ、俺達もギスギスしてないし、珍しく可憐の希望だし、別に反対する理由ないしな。
俺だって、座敷童とかホントに出るなら、話の種に見てみたいし。
まあ、数日留守にするなら、その前にもう一度くらい、空美ちゃんのお見舞いに行きたいけどな。
「ああ、いいな。俺もそこへ行きたくなってきた。三泊くらいして、のんびり温泉に浸かるか。なんかじーさんみたいだけど」
「多分、年配の人達も来ないような秘湯かもしれないわ」
にこにこと可憐が言う。
「だって、村の人口は十名くらいって書いてあるもの」
「ま、マジっすか」
なんだその、限界集落。
そんな場所に、まともな旅館なんかあるのかよ? 反論しかけたが、これまた俺は控えた。
……せっかくの妹の希望だしな。
あとから起こることをもし知ってたら、即答で断ったかもだが。