本来の妹デレ計画へ
――俺達が地下に突入してから数時間後、ようやく全員が城ホテルに戻り、ぐったりとラウンジでノビていた。
結論から言えば、あのボタンを押したのは正解だった。
まさしく、コールドスリープ解除のための最後の安全装置だったのだ。
ただ、装置のカバーが開いて女の子が露出したのはいいけど、呼吸も弱々しいし、まだ目が覚めない。
そこで、またしても高原があちこちに連絡を入れ、なんと、この孤島に八丈島からヘリコプターを呼びつけてくれた。
さすが金持ちというか、現状できる、最善の方法だったと思う。
女の子は高原の家が管理する総合病院へ向かったそうだが……それ以上は、俺達ではどうもできないからな。
あの子の無事を祈るしかないという。
「ていうか、俺達が温泉で遊んでいる間に、まさかそんなことになってたとは」
工藤がようやく服を着替えた俺達を眺め、感想を洩らす。
「呼んでくれたらいいのに」
「そうそう!」
鈴木と――それに同じくあの場にいなかった薫が言ってくれたが、人数だけいたってしょうがないしな……もちろん、そんなこと言わないけど。
「あと、夢の中で聞こえた声の話も聞きたいわっ」
薫が余計なことを言い出し、俺はぎくっとしたが。
幸い、高原が助け船を出してくれた。
「それよりだ」
ぐいっとコーヒーを飲み干し、俺達を見渡す。
「お楽しみも、今日までだな。明日になりゃ、コールドスリープ少女のニュースで全国紙は蜂の巣をつついたような騒ぎになるだろう。つまり、のんびり島で遊んでる場合じゃないと」
「ああ、そうか」
今更のように俺は理解した。
「そりゃ警察やら記者やらが、どっさり押しかけるもんな。それって、リゾートアイランドの出だしとしては、どうなのかねー」
「まあ、今のところはなんとも言えんな。俺としては、もう少し滞在したかったんだが」
こいつの叔父さんがいれば、なにかコメントしたかもしれないが、あいにく責任者として、ヘリに同乗している。
ホント、あの子が無事だといいんだが。
「さて、俺は眠るよ」
立ち上がり、みんなに頷いた。
「この騒ぎで、既に零時もかなり過ぎた。ゆっくり眠りたいしな」
「……賛成です」
「ベッドが恋しいわね」
可憐と絵里香ちゃんが即座に立ち上がり、他のメンツも全員、俺達に続いた。
「お疲れだったな、ケージ」
「いやいや、おまえこそ」
最後に高原に手を上げて挨拶を返し、俺達は階段を上っていく。
この城も今日が最後かもしれないと思うと、なんか寂しいが。
「あのさあ、可憐」
ドアの鍵を開ける前に、俺は可憐に話しかけた。
たまたま、廊下には俺達しかいない。
「なんでしょう?」
あくびをしかけていた可憐が、慌てて口元を押さえた。
「……今思いついただけで、仮にの話だが」
「はい?」
「と、途中で終わりそうなこの旅行の代わりに、そのうち、二人で旅行に行かないか? 兄妹でさ」
「……えっ」
まるで雷に打たれたように、いきなりびしっと可憐の背筋が伸びる。
「ふ、二人で――ですかっ」
「お、おお……ていうか、そんなおかしいか? 兄妹で旅行に行くくらい、普通だろ? もちろん、気になるんであの女の子の安否がわかってからの話になるけどな」
「ええ、そ、そうですね……」
なぜか赤くなった可憐が棒読み口調で答える。
「わ、わたしとしては、特に異存ありませんけど」
「そうか!」
断られるかと思ったんで、俺はほっとした。
「じゃあ、一応頭の隅で覚えといてくれな。場所はおいおい考えるからさ」
「は、はい」
「おやすみ、可憐」
「おやすみなさい、おにい――じゃなくて、兄さんっ」
可憐が焦って言い直し、隠れるように部屋の中に戻った。
可愛い奴めー。