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マッドサイエンティスト

 

 俺はなんの躊躇もなく、その見た目より重たい扉を開け、向こう側へ走り込もうとしたが。

 なんと扉のすぐ向こうは階段になっていて、あやうく下まで転がり落ちるところだった。


「だ、段差があるから、みんな注意してくれ!」


 後ろの三人に注意をしてから、俺は可能な限り早足で下りて行く。

 石段はそう長く続かず、ようやく広々とした空間に出た……事実上の地下二階になるわけだが、そこにも水が浸入していた。


 いや、問題はそんなことではなく。





「なんだ……ここ」


 有り体に言えば、本気でなんかの研究室に見えた。

 それも、映画に出てくるようなヤバいマッドサイエンティストがいそうな場所に。実際、前のオーナーはそんなあだ名もあったそうだが、ここを見りゃ納得だ。


 俺が入ると、自動で電灯が点いたのはいいが、あちこちから「バチッ……バチバチッ」と不気味なスパーク音がしたりする。


 多分、雨水が浸入したことで、機械に悪影響が――


 


 そこで俺は気付いた。

 意味不明の機械が並ぶ一番奥に、きらっとガラスのようなものが反射したのを。

 ジャバジャバと水を掻き分け、そこまで無理に進もうとすると、本気で心配そうな声で妹が「兄さん、注意してくださいねっ」と叫んできた。





「だ、大丈夫大丈夫! もう見つけた」


 俺は背後を振り向いて叫び、問題のブツの前に立つ。

 その……壁沿いに横向きに並ぶように設置された、流線型のカプセルに。さっき反射したのは、その上部のカバー部分で、ガラスだか強化プラスチックだかの透明素材になっている。


 問題の女の子は、この中にいる!


「な、なんか顔色悪いし、それに……それにやたらと冷たいぞ、これ。どうなってんだ」


 最初に追いついた高原が、近くのコンソールやらボタン類を見て、顔をしかめた。


「全部英語表記だが、一部に『コールドスリープ・モデルゼロ』と書いてある」

「そ、それって」


 さすがに意味を悟った俺が呟くと、可憐が後を引き取った。


「冷凍睡眠状態……てことですか?」


 しばらく誰もなにも言わず、俺達は顔を見合わせていた。

 誰がこれをやったかといえば、そりゃこの子の親父だろうが……しかし――


「でもコールドスリープって、まだ机上の空論も同然で、理論的には可能としても、まだ幾つも難題をクリアしないといけないはずじゃ? 確か、解凍時に問題が生じるとか」


 絵里香ちゃんが鋭い指摘をする。


「その通り」


 高原が重々しく頷く。


「しかし、この子の親父はその辺の難題はクリアしたのか、あるいは自信がなくても強行したのか、とにかくやらかしちまったらしいな」


 まるで高原の意見に応じるように、またどこかで「バチバチッ」とスパーク音がして、そばの機械から火花が散った。


 ついでに、不吉の予兆みたいに、地下室の明かりが何度か明滅した。


「わっ、コンソールの赤い警告灯みたいなのが点いたっ」


 いきなり点灯したのに驚き、俺は慌てて皆を見た。

 英語ではあるが、割と簡単なので、警告灯の下にある文章は読めたのだ。


「き、緊急システムエラーって出てて、どんどん警告ランプが増えていくんだけどっ。これはもう、このまま放置するのは無理だろ。停止させて、彼女を起こさないと!」


 自分で言いつつ、なにか夢の世界の出来事のような気がしていたが、頬をつねっても目が覚めない。あいにくこれはマジで現実らしい。


「他の難しそうな英文に、システム停止して蘇生する方法書いてないかな?」


 少なくとも、後の三人は俺より数段英語力がある。俺が自分で読むより早いはずだ。


「ざっと見ましたけど――」


 可憐が青白い顔で報告してくれた。


「少なくとも、蘇生に関する確実な記載は皆無ですっ。英文の全てはコールドスリープに至る手順ばかりで。ただ一言、『緊急時にはエマージェンシーボタンを押すこと』とありますけど……その緊急時とは、なにを指すのかがわかりません」


 可憐が指差したのは、昏々と眠る少女の頭部下の台座にあった、大きな赤いボタンだった。なるほど、確かにそんな英文がある。


 しかし、そんな適当に――





「わっ。今度は警告音まで!」


 こっちを急かすようにやかましい音で鳴り始めた警告音に、汗まみれの俺は飛び上がりそうになった。


「いずれにせよ、決断するしかないわよ、啓治君!」


 絵里香ちゃんの指摘に対し、高原と可憐が即頷く。


「おまえが決めるべきだろうな」


 そ、そうは言うが……押した結果、より最悪な方に転がったらどうする!? さっきから呼びかけているけど、あの子の返事もないし。

 しかし、そんなことを考えている間にも、警告音は鳴るわ警告灯は点滅するわ……おまけに、スパーク音が連続するようになって、マシンの一つが明らかに止まりやがった。


「くそっ、仕方ないか!」


 俺は先に大きく深呼吸してから、思い切って赤いボタンを押した。




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