多分、あの女の子はこの扉の向こうだっ
「今、どこにっ」
自分の頭の中に聞こえた声に対し、俺は間抜けにも声に出して問うた。
幸い、ちゃんと返事はあった……多分、同じく俺の脳内で。
『研究所の地下に――っ』
途中で切れたが、言わんとすることはわかった。
あの廃屋みたいなトコかっ。
「どうした、ケージ?」
そばに座っていた高原はもちろん、妹や絵里香ちゃんなどが、一斉に俺を見ていた。
俺は特に高原に対して、「例の廃屋にいかないとっ」と告げると、高原は素直に立ち上がり、俺と一緒にレストランを出てくれた。
「誰かの声にびくっとなったような態度だったが、本当に声でも聞こえたか?」
「聞こえた、信じられないかもしれないが、本当に聞こえたっ。助けを求める声だった……廃屋にいるって。随分と切迫した声だった」
話の順序がむちゃくちゃなのは自分でもわかっていたが、とにかく必要なことを話したと思う。そして、こういう時の高原は、実に頼もしかった。
「よし、行ってみよう」
即決で俺に合図し、そのまま城ホテルの裏口方面へと歩き出す。
「ホテルを出るなら、方向が逆だぞっ」
「わかってる。ミニのジープがあるから、それに乗っていこう」
「ええっ!?」
免許はよ? と当然、俺は思った。
金持ちは免許も早いうちから取れるのかと一瞬思ったが、もちろんそんなわけはなく、高原はあっさりと言う。
「叔父さんを説得して車を出してもらうとすると、かなり時間がかかる。この際、俺が運転する。ATだし、この島には警官もいないしな」
「よ、よしっ。そりゃ助かる」
悪いとは思ったが、俺は大きく頷いた。
「本気で時間がないような語り口調だったんだ」
「じゃあ、急ごう」
五分後、ジープタイプの軽自動車に、俺達は四人乗っていた。
時間がないので、装備は懐中電灯のみだ。カッパも傘も持ち出してない。
それと、二人で向かうつもりが、なぜか絵里香ちゃんと可憐が追いかけてきたという……説得してもついてくるといって聞かないので、やむなく四人乗りである。
廃屋へ向かう途中、俺は他の三人に、「夢で見たことだけど」と断りを入れ、何度かあの少女と会話をしたと話した。
まさか幽体離脱だと白状するわけにもいかないので。
普通信じないような話だと思うが、なぜか絵里香ちゃんを始め、全員があっさり信じてくれて、ちょっと驚いた。
「だって啓治君、さっきの驚き方は、真に迫ってもの」
とは絵里香ちゃんの弁である。
ともあれ、今回は歩きじゃないので、廃屋まではさほど時間もかけずに到着した。
外側から見ると、どうも雷でも落ちたのか、海方向から廃屋を隠すように立っていた巨木のうち、枝振りのよい木が一本、モロに倒れて廃墟の壁を破壊していた。
「なんか嫌な予感がする、くそっ」
俺は車を飛び出し、真っ先に廃墟へ走った。
「慎重になっ」
背後に続く高原が叫ぶ。
「まさか崩れることはないだろうが、既に壁が一部壊れてるっ」
「わかってる!」
返事だけは勢いよく、俺はずぶ濡れになって廃屋の中に突入した。
豪雨が吹き込んだらしく、中は水浸しだった。
「地下室にいるんだって?」
後ろから聞こえた高原の声に、俺は大声を出す……暴風と暴雨で、小さい声じゃ届かない。
「そうだっ」
「しかし、あそこは――」
高原が語尾を切った時、俺達はもう地下室に入っていたが、そこには特にたくさん、汚水が溜まっていた。
俺のくるぶしまで水が来てる。
「前から、こんなだったか?」
「いや、昼間に薫と来た時は、水なんか溜まってなかった!」
俺を見習うように、高原が叫ぶ。
「しかし、今は一部の壁が壊れてる。そのせいで廃屋内に吹き込んだ雨水が、全部地下に溜まったんだろう」
「お二人さん!」
突然、絵里香ちゃんが大声を出した。
「あそこ見てっ」
彼女が指差す方へ、高原がさっと懐中電灯を向ける。
「か、壁がっ」
可憐が震える声を上げた。
懐中電灯が照らすその辺りの壁が、一箇所、ちょうどドアくらいの大きさに亀裂が入り、隙間が開いていたのだ。
「隠し扉かっ」
俺は早速、その扉へ向かった。
背後で「昼間に来た時は開いてなかったぞ!」と高原が叫んだが、んな疑問は後だ後っ。多分、あの女の子はこの扉の向こうだっ。