表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/159

多分、あの女の子はこの扉の向こうだっ

「今、どこにっ」


 自分の頭の中に聞こえた声に対し、俺は間抜けにも声に出して問うた。

 幸い、ちゃんと返事はあった……多分、同じく俺の脳内で。


『研究所の地下に――っ』


 途中で切れたが、言わんとすることはわかった。

 あの廃屋みたいなトコかっ。




「どうした、ケージ?」


 そばに座っていた高原はもちろん、妹や絵里香ちゃんなどが、一斉に俺を見ていた。

 俺は特に高原に対して、「例の廃屋にいかないとっ」と告げると、高原は素直に立ち上がり、俺と一緒にレストランを出てくれた。


「誰かの声にびくっとなったような態度だったが、本当に声でも聞こえたか?」

「聞こえた、信じられないかもしれないが、本当に聞こえたっ。助けを求める声だった……廃屋にいるって。随分と切迫した声だった」


 話の順序がむちゃくちゃなのは自分でもわかっていたが、とにかく必要なことを話したと思う。そして、こういう時の高原は、実に頼もしかった。


「よし、行ってみよう」


 即決で俺に合図し、そのまま城ホテルの裏口方面へと歩き出す。


「ホテルを出るなら、方向が逆だぞっ」

「わかってる。ミニのジープがあるから、それに乗っていこう」

「ええっ!?」


 免許はよ? と当然、俺は思った。

 金持ちは免許も早いうちから取れるのかと一瞬思ったが、もちろんそんなわけはなく、高原はあっさりと言う。


「叔父さんを説得して車を出してもらうとすると、かなり時間がかかる。この際、俺が運転する。ATだし、この島には警官もいないしな」

「よ、よしっ。そりゃ助かる」


 悪いとは思ったが、俺は大きく頷いた。


「本気で時間がないような語り口調だったんだ」

「じゃあ、急ごう」





 五分後、ジープタイプの軽自動車に、俺達は四人乗っていた。

 時間がないので、装備は懐中電灯のみだ。カッパも傘も持ち出してない。


 それと、二人で向かうつもりが、なぜか絵里香ちゃんと可憐が追いかけてきたという……説得してもついてくるといって聞かないので、やむなく四人乗りである。


 廃屋へ向かう途中、俺は他の三人に、「夢で見たことだけど」と断りを入れ、何度かあの少女と会話をしたと話した。

 まさか幽体離脱だと白状するわけにもいかないので。


 普通信じないような話だと思うが、なぜか絵里香ちゃんを始め、全員があっさり信じてくれて、ちょっと驚いた。


「だって啓治君、さっきの驚き方は、真に迫ってもの」


 とは絵里香ちゃんの弁である。

 ともあれ、今回は歩きじゃないので、廃屋まではさほど時間もかけずに到着した。

 外側から見ると、どうも雷でも落ちたのか、海方向から廃屋を隠すように立っていた巨木のうち、枝振りのよい木が一本、モロに倒れて廃墟の壁を破壊していた。


「なんか嫌な予感がする、くそっ」


 俺は車を飛び出し、真っ先に廃墟へ走った。


「慎重になっ」


 背後に続く高原が叫ぶ。


「まさか崩れることはないだろうが、既に壁が一部壊れてるっ」

「わかってる!」 


 返事だけは勢いよく、俺はずぶ濡れになって廃屋の中に突入した。

 豪雨が吹き込んだらしく、中は水浸しだった。






「地下室にいるんだって?」


 後ろから聞こえた高原の声に、俺は大声を出す……暴風と暴雨で、小さい声じゃ届かない。


「そうだっ」

「しかし、あそこは――」


 高原が語尾を切った時、俺達はもう地下室に入っていたが、そこには特にたくさん、汚水が溜まっていた。

 俺のくるぶしまで水が来てる。


「前から、こんなだったか?」

「いや、昼間に薫と来た時は、水なんか溜まってなかった!」


 俺を見習うように、高原が叫ぶ。


「しかし、今は一部の壁が壊れてる。そのせいで廃屋内に吹き込んだ雨水が、全部地下に溜まったんだろう」

「お二人さん!」


 突然、絵里香ちゃんが大声を出した。


「あそこ見てっ」


 彼女が指差す方へ、高原がさっと懐中電灯を向ける。


「か、壁がっ」


 可憐が震える声を上げた。

 懐中電灯が照らすその辺りの壁が、一箇所、ちょうどドアくらいの大きさに亀裂が入り、隙間が開いていたのだ。


「隠し扉かっ」


 俺は早速、その扉へ向かった。


 背後で「昼間に来た時は開いてなかったぞ!」と高原が叫んだが、んな疑問は後だ後っ。多分、あの女の子はこの扉の向こうだっ。 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ