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おにいちゃん、助けて!


7月7日 生まれて初めてのこと


 ついさっきのことですけど、生まれて初めてジェットコースターに乗ってしまいました。

 遊園地で遊んだことなら、何度かありますが。

 幼少の頃からわたしは、アレに乗れる気が全くしないので、あえて避けていたのです。

 でも、お兄さまが絵里香さんと一緒に乗ると聞いて、なんだか自分が置いて行かれるような気がして。


 そう、これもやっぱり嫉妬です……わたしはお兄さまが、自分以外の女性と仲良くしているのを見ると、どうしてもむきになってしまう悪い癖があるんです。

 もちろん、その結果として、またしてもお兄さまの前でみっともないところを見せてしまいました……。


 でもわたし、絵里香さんとお兄さまの間には、なにか見えない絆があるような気がしてなりません。だって、絵里香さんがお兄さまを見る瞳が、わたしと似ている気がするんです。愛情に溢れているというか。


 あんなに美人で万能な人がお兄さまを本気で愛していたらと思うと、なんだか絶望感が込み上げてきます。


 勝てる気がしないんですもの……わたしは本当に嫌な女の子です。



○――――○




「……可憐の俺を見る瞳って、愛情に溢れていたかね?」


 なんかいつもきっつい目つきに見えたんだが。

 今度、詳しく観察してみるか。


 というか、そもそも俺からみりゃ、絵里香ちゃんが俺を見る目だって、そんなに愛情溢れているように見えんのだが。

 それとも、俺が鈍いだけかね。


 それはともかく、「もう見るまい!」と思っていたのに、また見てしまった。

 心の中で謝罪しつつ、俺は日記を元の場所に戻し、そっと部屋を出た――ところが!


 ちょうどそこで、階段の方から足音が聞こえ、可憐の頭が見えて、びびったっ。


 反射的に、ささっとサイドステップで隣室の自分の部屋の前に立つ。わざとらしく、ポケットから鍵を出したところで、可憐が声をかけてきた。



「にいさん?」

「お、おお」


 全力で表情を調整する、俺である。

 今気付いたような顔で、近付く可憐を見た。


「なんだ、元々いなかったのな?」

「はい?」

「いや、ちょうど今、体調はどうだって訊こうと思って、ノックしたんだよ」


 全部は話していないが、一応嘘でもない返事である。

 次に勝手に入ったことを、言わなかっただけだ。


「そうなんですか……いえ、温泉に行ってたので」

「そうか、俺も後から行くかな」


 和やかな会話が続いた後、可憐が自分の部屋のドアを開けようとして、いきなり叫んだ。


「鍵がっ」


 そ、そこまで驚かんでも。


「え、どうした?」

「鍵、かけ忘れたみたいです。いつもはそんなミスしないのに」

「久しぶりに遊びまくって、疲れたせいじゃないか?」


 俺はさりげなく答えた。


「まあ、このホテル内にいるのは、ほぼ知人ばかりだから、いいけどさ。次から気を付けろよ」


 警告だけして、後は余計なことを訊かれないよう、自分の部屋に逃げ込んだ。

 あ、危なかった!


 ドアの内側で、俺は胸を押さえる。そのうち、ばっちり現場を押さえられそうだな、俺。


 こ、今度こそ反省しないと。





 間の悪いことは続くもので、夕方辺りから強風が吹き荒れ、空が雨雲で覆われたかと思うと、次に土砂降りの雨になった。


 まだ台風の季節でもないのに、荒れ狂う風の音を聞いていると、本気で台風並の暴風である。しかし、夜が更けてからレストランで食事していた俺達は、高原の叔父さんから、「なぜかこの辺は、夏場にふいに荒れることがよくあってね」と教えてもらった。


 まあ、外出しなきゃなんでもないし、明日には収まってるだろうという話だ。


 正確には、俺は今宵外に出るけど、あの移動方法なら、濡れることもない……はずだ。

 しかし、どうやら俺の考えは甘かったらしい。


 一心不乱に食後のピザを食っている時、いきなり脳裏で聞き覚えのある声が叫んだ。



『おにいちゃん、助けて!』



「うおっ」


 驚きのあまりピザのパン生地を噴き出し、俺は慌てて立ち上がった。

 今の声、間違いなくあの女の子だったぞ!


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