ああああ、見ちゃいけない、見ちゃ悪いと思いつつ、身体が勝手に動いてまず部屋の鍵をかけ、気付けば俺は、日記を手にしていた
一旦遊園地から城ホテルに移動し、水着を取ってきてプライベートビーチで泳いだ。
やー、整備された砂浜とか邪道だと思ってたが、海は綺麗だし、浜辺にごみ一つ落ちてないし、砂浜の砂はさらさらだしで、文句のつけようがない。
おまけに、遠浅の海岸で、泳いでてもいきなり深みにハマることもないしな。プールより快適だったかもしれない。
他に人もいないので、俺達兄妹の貸し切りみたいなものだった。
ジェットコースターでガッカリした分、プライベートビーチで取り返したようなものだ。
午後遅くまで楽しんで、俺達はようやく城ホテルへ戻った。
……後から知った話だが、実は俺達が知らないだけで、鈴木と工藤も泳ぎに来たのだが、俺と可憐があまりにも幸せそうに泳いでいたので、あえて他のビーチで泳ぐことにしたとか。
そ、そこまで幸せそうだったかね。
ただ、ホテルでまた着替えた後、夕飯にはまだ早いので、俺が一人でぶらぶらとラウンジまで下りて行くと、珍しく高原兄と妹の薫が、同じテーブルについてコーヒーなど飲んでいた。
せっかく兄妹仲睦まじそうなので、工藤達を見習ってそこで回れ右しかけたのだが――。
先に高原に呼び止められてしまった。
「おい、ケージ。妙な気を遣わず、こっちこい。丁度、話もあるんだ」
「いや、邪魔するのも悪いと思ってな……話って?」
やむを得ず、俺も同じテーブルに座る。
注文取りに来たおねーさんには、紅茶を頼んだ。
「薫と二人で、ぶらぶら問題の廃墟へ探検にいったわけだがな、なかなか怪しいことがわかった。まあ、これは薫が見つけたんだが」
俺が目で促すと、高原ではなく、妹の薫本人が教えてくれた。
「あの建物には地下室があって、懐中電灯片手に下りていったのよ……兄さんと。地下室自体はほぼ空なのだけど、ごくごく小さな音がするの……」
「小さな音? それは変化せず、一定の音量で鳴ってる?」
「そうだな、まるで変化ない。ブゥゥゥゥゥゥンと電子レンジが回るような音だ。どうもあの廃墟、以前から独立した電源を確保しているか、あるいは無断で勝手に、専用ケーブルを引き込んでいるみたいだな。ブレーカーも落ちてるし、本来は有り得ないんだが」
「ぬう?」
俺は思わず唸ってしまった。
それと、あの子とどう絡むのだろう? まあ、今夜にでも訊いてみるが。
「なあ、そのナントカ博士と、行方不明の娘って、仲は良かったのか?」
「博士本人と娘のことは知らんが、夫婦仲は確実に悪かった。なにしろ、娘の親権争いで、裁判沙汰になりかけてたほどだ。母親は、亡くなった夫とその子が一緒にいると、娘のためにならないと考えていたらしい。いつか研究材料にしかねないと」
「はぁあああ」
それはまた……娘であるあの子にとっても、辛かっただろうな。
確か、空美ちゃんか?
「ダイイングメッセージ的に、『空美、許してくれっ』と最後に血文字を残したんだよな、その博士? それを聞いた後だと、妙に嫌な符号だな」
「言えてる。……それで、おまえはなにか答えを持っているのか? それとも、朝言ってたように、明日まで待った方がいいのか?」
「うん、明日だな……多分今夜、事情がわかる……と思う」
頼りない言い方だけど、俺としてはそう言うしかない。
高原は肩をすくめて頷いたが、なぜか薫も「よくわからないけど、上手くいくといいわね」と微笑んでくれた。
だいぶ印象変わってきたな、この子も。
いやしかし、今晩は責任重大だな!
改めてずしっと肩が重くなった気がして、俺は早々に部屋に戻る……つもりが、隣の妹の部屋をまずノックしてみた。
いや、今日は運動しすぎだから、疲れてないか気になったのだ。
しかし返事はなく、「おーい」と呼びながらドアノブを回すと……普通に開いてしまった。
部屋を見渡しても、可憐の姿はない。
まあ、汗もかいたことだし、風呂にでも行ったのかも。
「しかしあいつ、荷物多いな」
旅行用のトランクが二つも置いてあるのを見て、俺は呆れて首を振る。
ついでに、なんとなく備え付けのデスクに触れて、ふと開けてみたのだが。
途端に俺は、見覚えのある日記を見つけて、どきっとした。
「こっちに、持ってきてたのか!」
ああああ、見ちゃいけない、見ちゃ悪いと思いつつ、身体が勝手に動いてまず部屋の鍵をかけ、気付けば俺は、日記を手にしていた。