きっとわたし、ジェットコースター向いてますっ。申し子かと思うほどにっ
「じゃ、いいさ。絵里香ちゃん誘って行くし」
俺が、トレーに置いた皿にハンバーグ載せつつ返すと、可憐は「えぇええーーーっ」と黄色い声を上げやがった。
「兄さんは男の子なんだから、男の人と乗ればいいじゃないですかーーーっ」
「それ、普通は反対じゃないか? 男同士の方が嫌って奴、多いぞ。だいたい、なんで不満そうなんだよ、おまえ?」
次に焼きそばを皿に盛りつつ、俺は顔をしかめる。
ちなみに可憐は、ちっこいパン一つと、牛乳しかまだ取ってない。
「そもそも鈴木と工藤は、ジェットコースターは苦手らしい。おまえと同じだって」
「そ、それなら、万能そうな高原さんとかっ」
「あいつは確か今日、廃墟に探検に行くとか言ってた気が」
答えつつ、次のコーナーへ。
その場で焼いてくれるステーキを、「十分焼いてください」とお願いして、湯気の立つ厚切りステーキ一切れゲット。
さらにまた先へ進み、最後にピラフをどかっと皿に盛る。
まあ、今朝はこのくらいかな。
「相変わらず、よく食べますね」
なぜか俺にくっついて離れない可憐が、呆れたように言った。
「朝食は一日の基本だろ。おまえこそ、小鳥のメシじゃないぞっ」
「いいんです、ダイエット中ですから」
「……あ?」
ノースリーブのシャツと、ショートパンツの妹を見て、俺は首を傾げた。
「おまえのどこにダイエットの必要が? それ以上痩せたら、必要な筋肉まで落ちちまうぞ」
「み、見えないところを少し引き締めたいんですうっ」
どこだよそれ、お尻か?
口にするとまた怒り出すので、言わないが。
閑散としたレストラン内を見渡すと、既に窓際に高原がいたので、早速俺は前の席に座った。可憐は少しためらったが、結局、俺の横に座った。
いつもは他人の男がいると、他の席にいっちまうのに。
あと、薫は兄貴と一緒に食わないのな。
「おまえ、確か今日は廃墟を調べに行くんだよな?」
「ああ。なんだ、一緒に来る気になったか?」
「いや、俺は俺で夜にちょっとな」
あいまいに言った途端、可憐がさっと俺を見た。
だが俺はあえて目を合わさないようにして、高原に頼んでおく。
「あのさ、理由は言えないが、ひょっとしたらもうすぐ謎の幼女ゴーストの所在が掴めるかもしれない。もしかしたら廃墟がそうかもしれないんで、なるたけあちこち壊さずに頼む。どこかにいるあの子が、怪我するかもしれないから」
かなり無茶な話だと、自分でも思う。
しかし、高原は別に笑わなかった。代わりにスープを啜る手を休め、じっと俺を見た。
「なにか事情があるらしいな? 俺はだいぶ突拍子もないことでも、相手によっちゃ信じる方だぞ?」
「いやぁ、それは有り難いが」
俺は少し考え、やはり全て片付いてからにすることにした。
今は不確定要素が多すぎるからな。
「悪い。明日の朝、なにもかもはっきりしたら、ちゃんと話すよ……おまえだけには」
「それって、わたしには内緒ですか」
聞き耳を立てていた可憐がふいに膨れた。
「まあ、関係者以外にぺらぺら話すのもな」
「だって――」
なおも抗議しようとした可憐だが、そこで絵里香ちゃんがトレーを持って現れ、俺達のテーブルに来た。
高原に「横の席、いいかしら?」と訊き、俺達のテーブルに着く。
「啓治君、今日の予定は?」
「せっかく遊園地あるし、ジェットコースター乗ろうかなと。これまでに一度しか乗ったことなかったんで」
小学生の頃だったが、富士急○で一度だけだ。ちなみに、最初から最後までわくわくどきどきで、すげー爽快感があったのを覚えている。
また乗れるのなら、乗りたい。
「ああ、いいわね! あたしも一度しか経験ないけど、ジェットコースターは好き。一緒に乗りましょう」
「やっぱり絵里香ちゃんは平気か。ならぜひ一緒に」
「わ、わたしも挑戦しますしっ!」
ちびちびと牛乳飲んでた可憐が、ふいにすっくりと立ち上がった。
……つか、なんで立つんだよ。
「おまえ、苦手なら無理して」
「いえっ。よく考えたら乗ったことないんですから、苦手もなにもありませんっ。きっとわたし、ジェットコースター向いてますっ。申し子かと思うほどにっ」
……涙目でなにヤケクソ言ってんだかな、こいつは。
俺は内心でため息をついた。