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今から、本当にあの子がゴーストかどうか判明するわけだ

 ようやく薫に解放してもらって部屋に戻り、俺は大きく息を吐き出した。


 寝るにはまだ早い時刻だが……せっかくだから、今から試すか。

 そんな簡単に成功しないだろうからな。


 何をするかというと、もちろん例の幽体離脱を試み、女の子とコンタクトするのである。常識的に考えるなら、前オーナーが亡くなってから十年? そのくらい経っているわけで、当時の姿のままでいるのはおかしいわけだ。


 しかし、それでもなお、俺はあの子は生きてる人間の気がしてならない。

 ……ていうか、そう考えないとさすがに怖いっていうのもあるが。


 下手に幽体離脱が成功して、ゴーストとコンタクトとか、笑えんからな。





 というわけで、一応ガウンに着替えてベッドに横たわり、部屋の照明を落とした。

 周囲が石壁の城内といえども、そういう設備はちゃんと近代化されているのだ。


 そして俺は、両眼を閉じ、身体の力を少しずつ抜いていく。


 よしよし……今のところ、いい感じだぞっ。

 そして眠り込む寸前に軽く身体をヒネるように……ヒネるように……あ、ヤバい、このまま寝てしまいそう。


 そう考えた時には既に遅く、俺はそのままぐっすり眠ってしまった。



 しかしであるっ。

 またしても俺は、やっちまったらしい。


 つまり、いつの間にかぬぼっと部屋の中央で立っていたのだ。振り向けば、ちゃんと俺の本体は横になっている。

 ふわー……これはただの明晰夢だとネットにはあったが、でもめちゃくちゃリアルだぞ。


 よし、このまま真っ直ぐ――


 いや待て、待て俺。

 俺は窓から飛び出そうとして、たたらを踏んで堪えた。

 せっかくこんな状態なのだし、ちょっと風呂を覗いてみるのはどうだろうか。


 さいてー過ぎる発想だが、そのくらいの役得はあってもいいだろう。別にあの子は逃げないだろうし。

 と思ったのだが、よく考えたらもう絵里香ちゃんは風呂から出てるだろうし、代わりに可憐が風呂場にいた日にゃ、下手に覗くと後々罪悪感が込み上げてくるな。


 薫はまあ……無理して見たいわけでも。


 結局ヘタレな俺は、後ろめたさが邪魔して踏み切れず、予定通り窓をすり抜けて暗い屋外へ出て行く。

 そこで、方向を確かめながら、ゆっくりと遊泳するように、あの廃墟へ向かっていく。


 上空の星空と月が、都内で見るより断然輝いて見える。

 可憐や絵里香ちゃんが恐がりじゃなければ、夜中に観に来てもいいくらいだ。




「おろ?」


 順調に飛んでいたが、少し進むのに抵抗を感じるようになってきた。

 もしかして本体からそう遠くまで行けないのだろうか……そりゃどこまででも行けたら、宇宙に飛び出すのも可能な理屈だもんな。


 限界はあって当然か。


「だけど、もう少しだ、がんばれ俺っ」


 廃墟まで必死で飛行継続しようとしたその時、どこからか声がした。


「おにいちゃん!」





「えっ」


 慌ててそっちを見ると、森の向こうの、海岸に面した崖のところに、見覚えのある子がっ。

 そういや、あの子は最初、あそこに立ってたな。


 俺は幽体のくせに生唾を飲み込み、用心深く進路を変えた。

 いや……今から、本当にあの子がゴーストかどうか判明するわけだ。それを思うと、さすがにびびる。


 そして、俺を肉体へ引き戻そうとする抵抗も、ますます強く感じるようになった。

 もうあまり時間がないらしい。


 俺は崖の端に立つ少女より少し距離を置き……そっと舞い降りた。




「初対面なのに、いきなり質問してごめん」


 俺は早口で彼女に尋ねた。


「君、ゴーストとかじゃないよな?」

「違うよー。空美はちゃんと生きてるの……今のところは」


 なんだか限定的な言い方だったが、ほっとした俺は胸を撫で下ろした。


「空美ちゃんというと、前オーナーの娘さんだよね。廃墟で俺を見ていたのはどうして?」

「おにいちゃんと女の子の会話を聞いていたから。死体の在処もわからないなんて、可哀想って言ってくれた」


 大きな瞳に感謝の色を浮かべ、彼女は俺を見つめた。


「あー、言った言った、確かに言った」


 俺は激しく頷く。

 なるほど、それで姿を見せてくれたのか。


「で、今から肝心な質問をするよ。君は一体、どういう――あっ」

「あーーっ」


 どうやら、そこまでが限界だったらしい。

 俺は本体に引き戻そうとする力にあらがえず、そのまま凄いスピードで元の城内へと戻りつつあった。


「明日また、必ず来るからなああああっ。今度は廃墟で待っててくれ!」


 最後に叫んでおいたが、ちゃんとあの子に届いただろうか。



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