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神隠しの女の子が万一おまえだったら、俺は断固として探すけどな


 可憐はチュニックとミニスカートに着替えた後、本当に俺についてきた。


 外はまだ思いっきり明るい時間帯だし、周囲は見通しの効く牧草地帯みたいな場所なのだが、幽霊なんか欠片も見当たらない。




「な、大丈夫だろ?」


 俺は笑顔で言ってやり、早速、牧草地の中に作られた小道を通って、適当に歩き出す。

 しばらくすると、可憐が腕を組んで来て、少し驚いた。


「ああ、例のみんなの前では仲良くって計画か? でも今は誰も周囲にいないし、そこまで気にしなくていいぞ」

「違います!」


 可憐が怒ったように言う。


「兄さんが目撃したっていう、崖にいた幽霊さんが怖いからに決まってるでしょう!」


 ……幽霊に「さん付け」するのはともかく、なんだ、そのせいか。


「ということは、おまえは俺の目撃談を信じてくれてるわけな?」

「普段の兄さんは、意味もなく嘘をつく人じゃありませんから」

「そりゃどうも」


 肩をすくめた俺は、南西側の斜面を、桟橋まで途切れずに続く森を見て、少し迷った。


「まさか、森の中へ入る気じゃないでしょうね?」


 完全に怖じ気付いた声で可憐が囁く。

 ……ホントにこいつ、ホラー関係は駄目だな。

 まあそう言わず、と無理に入ろうかと思ったものの、遥か先から高原妹と金魚の糞達が連れ立って上がってくるのを見てしまった。


 連中、森を迂回する小道を通らず、突っ切るコースで来たらしい。


「あいつの妹とかち合いそうだし、別の方角へ行こう」

「そ、それがいいです」


 ほっとしたように可憐が言った。




 しばらく森の縁を通る小道を歩いてから振り向くと、なぜか薫がこちらを見ていた……わざわざ立ち止まって。

 しかし目が合った途端、ぷいっと正面に向き直り、すたすたと城の方は去ってしまう。


「なんだかなぁ」

「兄さん、なにか恨まれてるんですか、あの方に?」

「今日、会ったばかりだって!」


 歩みを再開しつつ、俺は憤然と否定した。


「多分、俺が兄貴と仲がいいのを、やっかんでるんだろうさ。あの子、兄貴にぞっこんらしいから」

「お兄様の高原さんは、そのことに気付いてるわけですか」


 なぜか眉をひそめて可憐が尋ねる。


「俺が聞いた限りじゃ、気付いてるなあ。高原本人は妹としか見てないようだが」

「……ええと」


 少し迷った挙げ句、可憐は小さな声でさらに訊いた。


「お友達の高原さん、わたしのこと、なにか言ってました? いえ、別になんとなく気になっただけですけど」

「おまえとそんな親しい仲でもないのに、何を言うんだよ。考えすぎだ」


 まあ、あいつは可憐については「おまえにベタ惚れだ」なんて言ってくれたが、ここでそれを教えると、こいつまた気に病むからな。


 ヤンデレ化したりすると困るし、それに俺も、あいつの言うことを全部信じてるわけじゃないのだ。





「あれ、なんでしょう?」


 考え込んでいる間に、可憐がなにか見つけたらしい。

 見れば、歩道を逸れた少し先に、半壊した建物があった。ブルドーザーやパワーショベルが置き去りになっているところを見ると、どうやら解体工事中らしい。


 なぜか今は放置されているようだが。





「……ちょっと興味ある」

「えぇーー!」


 可憐が嫌そうな声を上げた。


「中は危険ですよっ。解体途中なのに!」

「先に、外をぐるっと見るさ。そう心配すんな」

「あと、中は暗いでしょうし、もしかしたら幽霊さんが――待って下さい!」


 半ば聞き流してずんずん歩く俺に、可憐が慌ててついてきた。




 島の西側海岸に近いそこに立っていたのは、崩れかけの三階建てで、一見すると、ちょっとした病院のように見える。


 入り口の門がまだ残っていたが、看板みたいなのがあって、「森崎義郎もりさき よしろう研究所」とあった。

 興味深いのは、海岸の方角にあたる場所には、幹の太い巨木が防風林のごとく並んでいることだ。


「もしかして、海からは見えないように配慮してる?」

「なんのためにです?」

「いや、この島の前オーナー……あ~、森崎さん? その人はマッドサイエンティストだとかいう話があったらしいから」

「もしかすると兄さん、本当に手間暇かけて、その女の子の亡骸なきがらを探すつもりなんですか?」


 青ざめた可憐に、俺は困惑して言い訳した。


「警察が散々捜して駄目だったのに、俺がどうにかできるとは思ってないさ。でも、死体の在処ありかもわからないって、可哀想じゃないか。神隠しの女の子が万一おまえだったら、俺は断固として探すけどな」


 だいたい俺は、相手が死体とは限らない気がしているのだが、どうせ信じてもらえまい。


「……うっ」


 なぜか可憐は、実に複雑な表情で俺を見た。


「そんな風に言われると――」

「待てっ」


 俺は話を打ち切り、三階の窓を見上げた。


「今、誰かがあそこにっ」


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