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個人的にさっきの子は、生きてる人間の気がするんだがなぁ


 二人の見目麗しい少女達に両脇からくっつかれて、俺としては密かに嬉しいのだが……しかし、工藤達の視線が痛すぎるな。


「絵里香ちゃんはともかく、おまえは俺に触るの、駄目なんじゃなかったか?」 


 囁き声で尋ねると、「この場合、こわい話の方へ意識が向いてるから、まだ我慢できるんですっ」と怒ったように言う。

 我慢て……そういやこいつ、熱が出て倒れた時も、着替えの時だいぶ触れたのに、平気だったな。なるほど。


 なぜかみんな俺達を注目しているので、俺は慌てて高原にまた質問した。


「仮に本当にどっかに死体が埋まってるとして、俺達にどうせよと?」

「別に、探して掘り出せとは言わないさ」

「当たり前だっ」


「ただ、しばらく島にいる間に、あちこち歩き回ったりするだろ? その時に、ちょっとその辺を気を付けて見てくれ」





「なにを気を付けるのさ?」


 鈴木が、いかにも怖じ気付いた顔で訊いた。


「例えば、森の中で謎の骨が落ちてたとか、あるいは衣服の一部が落ちてたとか、そういう痕跡かね?」

「ゆ、幽霊さんは?」


 可憐が半泣きの声で言う。


「そっちは大丈夫だろう。ゴーストは前オーナーしか見てないようだし。ただ、娘があの島で亡くなっている可能性は皆無じゃないんだ。前オーナーは、病死する寸前にベッドを這い出て、床にダイイングメッセージを残してるからな」

「それって、死の間際に残した文書うということ? どういう内容……かしら?」


 いつになく緊張しきった絵里香ちゃんが、どこか身構えたような声音で訊く。


空美そらみというのが娘の名前だが、『空美、許してくれっ』とあった……血文字で」


 途端に、絵里香ちゃんと可憐が同時に小さい悲鳴を上げた。





 くっ……今回の幽霊騒動じゃ、絵里香ちゃんを頼るのは無理っぽいな。工藤と鈴木もかなり怖じ気付いていて、最初から論外だし。

 まだそこまでびびってないのは、高原と俺だけのようだ……だからって、俺も平気なわけじゃないんだが。


「まあ、前オーナーが病死した十年前に、オーナーの元妻の要請で、この島に警察がどっと押しかけて娘の痕跡を探ったらしい。だが、結局はなにも見つからなかった。だから、まず問題ないとは思う。俺だって、本気で捜索を頼んだりしないさ」

「なるほどなあ」


 まだ左右からしがみつかれたまま、俺は天井を仰ぐ。


「気の毒だし、見つけてあげたいけど、んな都合よくは見つからんだろうな」

「――っ! 探すつもりなんですかっ」


 可憐が呆れたように声を張り上げた。


「時間があれば、その辺をちょっと歩いてみるくらいは。俺がその子の立場だったら、見つけてもらう方が嬉しいしな」

「おまえは本当に見つけるかもしれないなあ」


 まだ突っ立ってる高原が、嫌な言い方をした。


「本当に見つけたら、オープン前に叔父さんの頭痛の種を除いてくれたってことで、謝礼くらいは出すぞ? オープンした後、万一にも客が死体を見つけでもしたら、営業してる場合じゃないしな」

「よせやい。見つかればいいなと思うのは本当だけど、さすがに一人の時に死体と対面したくないぞ」


 俺は憮然ぶぜんとして答えた。






 高原の爆弾発言はそこで終わり、さらに半時間近く経った後、ようやく問題の島に近付いたらしい。高原に言われて、俺達はぞろぞろと甲板に出たのだが……舳先の方で、うずくまって盛大にゲロ吐いてる奴がいた。


 ……傲慢少女のかおるである。


 付き人のごとく従ってる男三名が、しきりに背中を撫でたり話しかけたりしてるが、本人は息も絶え絶えらしい。


「金持ちだろうがキツい性格だろうが、船酔いは公平に来るよな」


 工藤が無駄に感心したように首を振った。


「この船、そんな揺れてるか? 大型船だし、普通の船よりはよほどマシだと思うが」


 俺が首を傾げると、高原が教えてくれた。


「妹は、旅行といえばプライベートジェットとタクシーが定番でね。船なんか乗るのは、人生で初めてかもしれん」

「うわっ、島の上の方に観覧車が見えるよっ」


 鈴木がふいに声を上げて指差し、みんながそっちを見た。

 俺も見ようとしたのだが、妙なものが見えた。




 停泊しようとしている桟橋の斜め上、森の木立が終わり、そこから絶壁となっている場所に、誰かが立っているのだ。

 お嬢様風の青いドレスを着込んだ少女……いや、幼女くらいの年頃の子で、なぜか崖の端ギリギリに立って俺達の船を見下ろしていた。


「なあ、もう客が来てるのか? 危ないことしてる子供がいるんだが」


 高原に教えてやると、「どこだ?」と言うので、そっちを指差し――


「……あれ?」


 俺は眉をひそめて、崖の上を見た。

 いつの間にか、誰もいなくなっている。数秒前にはしっかり立ってたのに。

 目まで合った気がしたほどだ。


「いや、さっき確かに、崖の端に女の子がいたんだが」

「何歳くらいの?」


 高原が、なぜか愉快そうに尋ねる。


「う~ん……まあ、十歳くらい? ボブカットというかおかっぱというか、とにかくそういう髪型の、日本人形みたいに見栄えのいい子だった」

「ここだけの話、行方不明の娘も、当時は十歳だったはずだが」


 高原がポツッと述べた途端、周囲が静まり返ったね!




「よ、よせやい」


 俺はさすがに背筋が冷たくなった。


「まだ真っ昼間だぞ」

「昼間にゴーストが出ないという法もあるまい」


 高原が指摘した途端、また可憐と絵里香ちゃんが俺のそばに寄り添ったりして。喜ぶべきなんだろうが、今のが幽霊かもとか言われると、俺だって怖いっつーの。


 だがしかし……個人的にさっきの子は、生きてる人間の気がするんだがなぁ。 


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